商業登記関係 投資事業有限責任組合による合同会社の持分取得と合同会社の登記
投資事業有限責任組合による合同会社の持分取得
投資事業有限責任組合(以下、「LPS」といいます。)は投資事業有限責任組合契約に関する法律(以下、「LPS法」といいます。)第3条1項に規定された事業のみ行うことができ、LPS法が改正されるまではLPSは合同会社の持分を取得し保有することができませんでしたが、令和6年9月2日にLPS法が改正されたことにより、LPSは合同会社の持分を取得することができるようになりました。
LPS法第3条1項2号の改正内容は次のとおりです(下線は改正箇所を示します)。
株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)又は企業組合の持分の取得及び保有 | 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。以下同じ。)又は合同会社若しくは企業組合の持分の取得及び保有 |
合同会社の登記事項
合同会社の登記事項は会社法第914条に規定されており、LPSが合同会社の持分を取得したときに関係しそうな該当箇所(登記事項)は次のとおりです。
- 合同会社の業務を執行する社員の氏名又は名称(会社法第914条6号)
- 合同会社を代表する社員の氏名又は名称及び住所(会社法第914条7号)
- 合同会社を代表する社員が法人であるときは、当該社員の職務を行うべき者の氏名及び住所(会社法第914条8号)
LPSによる合同会社の持分取得と登記
LPSは合同会社の持分を取得することができるようになりましたが、LPSは組合であり法人格を有しないため、合同会社の社員となることはできないものとされています。
合同会社の定款には必ず「社員の氏名又は名称及び住所」を記載しなければならないところ(会社法第576条1項4号)、LPSは社員になることはできませんので、LPSが合同会社の持分を取得したときは、当該LPSの無限責任社員の氏名又は名称及び住所を定款に記載することになります。
当該無限責任社員が合同会社の業務執行社員や代表社員となるのであれば、その登記手続きを行う必要が生じます。
LPSが持分を取得したときの登記
LPSが合同会社の持分を取得し、当該LPSの無限責任社員が合同会社の業務執行社員・代表社員となるときは、上記会社法第914条6号乃至8号に係る登記事項に変更が生じますので、変更が生じてから2週間以内にその変更登記を行います(会社法第915条1項)。
当該無限責任社員(ここでは法人を前提とします。)が業務執行社員・代表社員となったときは、業務執行社員たる無限責任社員の名称、代表社員たる無限責任社員の名称及び住所並びに職務執行者の氏名及び住所を登記します。
既にある合同会社の持分につき、唯一の社員からLPSが取得したときの変更登記に係る添付書類の一例は次のとおりです(登記の添付書類ではない印鑑届書等も含めています)。
- 持分譲渡契約書
- 総社員の同意書
- 就任承諾書
- 印鑑届書
- 保証書(無限責任社員の実印登録をしている代表者が職務執行者になる場合は不要)
なお、LPSが合同会社の持分を譲渡による取得をし、当該LPSの無限責任社員が業務執行社員にならないのであれば、当該無限責任社員に係る登記は不要です(譲渡人が業務執行社員等である場合は、譲渡人の業務執行社員等の退任登記が生じます)。
LPSが唯一の社員である合同会社を設立するときの登記
LPSは合同会社の持分を取得及び保有することができますので、LPSが出資を行い、LPSの無限責任社員を社員とする合同会社を設立することも可能です。
合同会社の唯一の社員がLPSの無限責任社員(ここでは法人を前提とします。)である場合の合同会社の設立登記に係る付書類の一例は次のとおりです(登記の添付書類ではない印鑑届書等も含めています)。
- 定款
- 就任承諾書
- 払込証明書又は領収証
- 取締役会議事録
- 印鑑届書
- 保証書(無限責任社員の実印登録をしている代表者が職務執行者になる場合は不要)
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。