商業登記関係 合同会社に社員総会を置く方法
合同会社の決議機関
合同会社の社員は、(定款に別段の定めがある場合を除き)持分会社の業務を執行し(会社法第590条1項)、社員が2名以上いるときは、(定款に別段の定めがある場合を除き)当該業務を社員の過半数をもって決定します(会社法第590条2項)。
業務執行社員を定款で定めた場合は、合同会社の業務は、(定款に別段の定めがある場合を除き)業務執行社員の過半数をもって決定します(会社法第591条1項)。
その他に、合同会社の重要な事項を決定するときは、(定款に別段の定めがある場合を除き)総社員の同意が必要とされています。
合同会社と定款自治
会社法では合同会社(持分会社)について「定款に別段の定めがある場合を除き」や「定款で別段の定めをすることを妨げない」という記載が多く、また会社法第577条には次のように定められています。
(定款の記載又は記載事項)
会社法第577条前条に規定するもののほか、持分会社の定款には、この法律の規定により定款の定めがなければその効力を生じない事項及びその他の事項でこの法律の規定に違反しないものを記載し、又は記録することができる。
合同会社は定款自治が広く認められていると言われる所以であり、一定の範囲内において定款で自由に定めることが可能とされています。
合同会社と社員総会
合同会社には、株式会社における株主総会や、一般社団法人における社員総会は法定されていません。
株式会社の株主や一般社団法人の社員に該当するものは、合同会社の社員になりますが、どうして合同会社には社員総会がないのでしょうか。
総社員の同意
例えば、合同会社の定款を変更するときは、(定款に別段の定めがある場合を除き)総社員の同意が必要です(会社法第637条)。
総社員の同意とは、その文字のとおり社員全員が同意することをいいますので、必ずしも社員全員が一堂に会していなくてもいいわけです。
もちろん、社員全員が同じ場所に集まって同意することもできます。
社員総会とは
社員総会について、社員が一堂に会して決議事項について話し合いをし、決議をすることだとすると、定款変更には総社員の同意が必要だという要件は変えないけれども、必ず一堂に会して社員全員の同意を得るという定款の定めもおそらく可能ですので、これを社員総会と呼ぶこともできそうです。
しかし、多くのケースにおいては社員の出資比率が異なるため、議決権に差を設けるために社員総会を導入しているのではないでしょうか。
社員総会を設置する
社員総会を設置するときは、定款にその旨の定めを記載します。
記載例としては次のとおりです。
出資比率に応じた議決権
社員総会を設置する大きな目的の一つに、出資比率に応じた議決権を社員に付与するというものがあります。
合同会社においては、(定款に別段の定めがある場合を除き)出資比率に関係なく1人1票を有しており、多く出資をした人が決定権を持ちたいというニーズがあるためです。
そのような場合、合同会社に固執するのではなく株式会社(1株1票)も検討した方がいいでしょう。
なお、定款の記載例としては次のとおりです。
社員総会で決議する事項を定款に定める
合同会社の定款の変更手続きについて、会社法の規定は「定款の変更は(定款に別段の定めがある場合を除き)総社員の同意を要する。」ですので、社員総会を設置しただけでは足りず、定款の変更は社員総会の決議が必要であることを定款に記載します。
定款変更の他に、社員総会の決議の対象とするものがあればそれも定款に記載します。
決議要件をどうするか
任意に社員総会を設置したときは、その決議要件についても定めます。
決議要件を定めないと決議ができません。
(その場合は、総社員の同意・賛成が必要になるのでしょうか)
一例として、決議に加わることができる社員の議決権数の3分の2以上、等と定めます。
総社員の同意が必要な事項も残しておく
社員が誰であるのかは、社員全員にとっての関心事項です。
さて、社員が持分を譲渡するときは他の社員全員の同意が必要とされていますが(会社法第585条1項)、これについては定款で別段の定めをすることが可能とされています(会社法第585条4項)。
つまり、社員総会の決議によって、社員の持分譲渡を承認すると定めることもできます。
しかし、社員総会を設置した場合でも、持分譲渡については総社員の同意を要するとすることもでき、そうするケースも少なくありません。
定款の定めが細かくなりやすい
あくまで上記は一部ですので、社員総会を置く場合は、社員総会を置かない場合に比べて定款の記載事項が多くなりがちです。
当所で設立のお手伝いをするときは、株式会社の定款と同様に、社員総会の招集権者や議長の定め、議決権の代理行使の定め、みなし社員総会の定め等も定款に記載しています。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。