商業登記関係 有限会社と有限会社の吸収合併手続きと登記
吸収合併とは
吸収合併とは、会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいいます(会社法第2条)。
権利義務の全部を承継し合併後に存続する会社を存続会社といい、合併により消滅する会社を消滅会社といいます。
存続会社は1社となりますが、消滅会社は2社以上でも問題ありません。
ここでは、消滅会社が特例有限会社(以下、単に「有限会社」といいます)1社、存続会社が有限会社1社である吸収合併の手続きについて記載しています。
有限会社と吸収合併
有限会社は吸収合併における存続会社となることができません。
有限会社を存続会社として吸収合併を行う場合は、その前提として、特例有限会社を株式会社へ移行しなくてはなりませんので、この手続きもスケジュールに組み込む必要があります。
なお、有限会社は吸収合併における消滅会社となることはできます。
有限会社と新設合併
有限会社は新設合併における新設会社になることができません。
会社法が施行されて以降、新しく有限会社を設立することはできなくなったためです。
有限会社は新設合併における消滅会社となることはできるため、有限会社を消滅会社、株式会社を新設会社として新設合併をすることは可能です。
吸収合併のスケジュール
4月1日を吸収合併の効力発生日とするスケジュール例です。
スケジュール例では、吸収合併の手続きに入る前に、存続会社を有限会社から株式会社へ組織変更しています。
有限会社のまま吸収合併の手続きに入り、効力発生日の前日に有限会社から株式会社への組織変更の登記を申請することも可能とされています。
(有限会社) | (有限会社) |
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合併の準備 (合併契約内容、債権者の確認等) | 合併の準備 (合併契約内容、債権者の確認等) |
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株式会社への組織変更登記申請 | ||
取締役会決議 (合併契約承認、株主総会の招集決定) 官報公告の申込み | 取締役会決議 (合併契約承認、株主総会の招集決定) 官報公告の申込み |
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合併契約の締結 | 合併契約の締結 | |
官報に合併公告が掲載 債権者への個別催告 契約書等の事前備置 | 官報に合併公告が掲載 債権者への個別催告 契約書等の事前備置 |
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株主総会招集通知 反対株主等への通知 | 株主総会招集通知 反対株主等への通知 |
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株主総会決議(合併契約承認) 債権者異議申述期間満了 | 株主総会決議(合併契約承認) 債権者異議申述期間満了 |
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合併の効力発生 | 合併の効力発生 | |
合併の登記申請(2週間以内) 合併に関する書類の事後備置 | 合併の登記申請(2週間以内) |
吸収合併の一般的な手続き
吸収合併の一般的な手続きの流れは、こちらの記事で紹介していますのでご参照ください。
前述のとおり、有限会社×有限会社の吸収合併における注意点は、有限会社が存続会社となれないことですので、ここでは有限会社×有限会社の吸収合併特有の注意点だけ記載します。
有限会社から株式会社への組織変更
吸収合併の効力発生日の前日までに、有限会社から株式会社への組織変更の登記を申請しなければなりません。
有限会社から株式会社への組織変更には債権者保護手続きが不要とされていますので、株主の同意を得られている状況であれば比較的スムーズに行うことができます。
有限会社から株式会社への組織変更手続きにつきましては、こちらの記事をご参照ください。
合併公告と貸借対照表の要旨
有限会社は決算公告をする義務がありません。
そのため、消滅会社である有限会社においては、合併公告の貸借対照表の開示状況の記載につき「計算書類の公告義務はありません。」で問題ありません。
しかし、存続会社である有限会社においては、合併公告に貸借対照表の要旨を掲載(同時公告)するか、貸借対照表の開示状況について具体的に記載する必要があります。
存続会社が株式会社となる旨
存続会社が有限会社のときに合併公告をするときは、存続会社たる有限会社が株式会社へとなる旨を記載します。
債権者保護手続きとして、各債権者へ個別催告をするときもその旨を記載しておきます。
公告記載例(存続会社が有限会社のとき)
存続会社が有限会社のときに合併公告をする場合の公告記載例は次のとおりです。
左記会社は甲が商号変更により株式会社となることを条件に合併して甲は乙の権利義務全部を承継して存続し乙は解散することにいたしました。
この合併に対し異議のある債権者は、本公告掲載の翌日から一箇月以内にお申し出ください。
なお、最終貸借対照表の開示状況は次のとおりです。
(甲)左記のとおりです。
(乙)計算書類の公告義務はありません。
平成30年5月28日
東京都中央区銀座七丁目13番8号
(甲)有限会社汐留太郎
(商号変更後の商号)
株式会社汐留太郎
代表取締役 汐留太郎
(乙の表示を記載する。)
(甲の貸借対照表の要旨を記載する。)
株式会社となった後に合併公告する
存続会社たる有限会社が組織変更をして株式会社になった後に合併公告をするときも、存続会社の貸借対照表の要旨を掲載(同時公告)するか、貸借対照表の開示状況について具体的に(決算公告の掲載されている官報のページ等を)記載します。
これは、有限会社が株式会社となった後に最初の決算日が到来していない場合も同様です。
この場合、存続会社となる株式会社の貸借対照表の開示状況につき、「確定した最終事業年度はありません。」とはしないように注意が必要です。
公告記載例(存続会社が株式会社への組織変更した後)
存続会社が株式会社へ組織変更した後に合併公告をする場合の公告記載例は次のとおりです。
左記会社は合併して甲は乙の権利義務全部を承継して存続し乙は解散することにいたしました。
この合併に対し異議のある債権者は、本公告掲載の翌日から一箇月以内にお申し出ください。
なお、最終貸借対照表の開示状況は次のとおりです。
(甲)左記のとおりです。
(乙)計算書類の公告義務はありません。
平成30年5月28日
東京都中央区銀座七丁目13番8号
(甲)株式会社汐留太郎
代表取締役 汐留太郎
(乙の表示を記載する。)
(甲の貸借対照表の要旨を記載する。)
吸収合併契約書の内容
存続会社が有限会社のときに合併契約を締結するのであれば、吸収合併契約書にも存続会社たる有限会社が効力発生日までに株式会社へ変更する旨を記載します。
記載の仕方によっては消滅会社の株主総会議事録にもその旨を記載し、株主への通知や事前備置書面等にもその旨の記載が必要でしょう。
吸収合併の手続きをスタートさせる前に、存続会社となる有限会社を株式会社へ変更しておいた方が、書類や公告内容がシンプルとなります。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。