RSM汐留パートナーズ・ニュースレター 2025年3月号
2025年3月3日
防衛特別法人税と税効果会計・高年齢者雇用確保措置・スタートアップビザの統合
日頃よりお世話になっております。RSM汐留パートナーズです。
今月のニュースレターでは、税理士法人より「防衛特別法人税と税効果会計」、社会保険労務士法人より「高年齢者雇用確保措置」、行政書士法人より「スタートアップビザの統合」についてお届けします。
税理士法人では「防衛特別法人税」の創設に伴う税効果会計への影響や適用タイミング、社会保険労務士法人では「高年齢者雇用確保措置」の概要と導入のポイント、行政書士法人では2種類のスタートアップビザの統合と経営活動に適したビザの選び方について、それぞれ分かりやすく解説しています。
今月のニュースレターも、ぜひお役立てください。
はじめに
令和7年度税制改正大綱において、防衛力強化のための財源確保を目的とした「防衛特別法人税」の創設が発表されました。この新たな付加税は、企業の法人税額に4%を上乗せして課税するもので、2026年4月1日以降に開始する事業年度から適用される予定です。今回は、防衛特別法人税の概要と税効果会計への影響について見ていきたいと思います。
防衛特別法人税の概要
防衛特別法人税は、各事業年度の所得に対して法人税が課される法人を対象に、以下の計算式に基づいて計算されます。これにより、多くの企業で法人税等の負担増加が見込まれます。
防衛特別法人税=(基準法人税額(*1)-基礎控除額年500万円)×4%-税額控除(*2)
(*1)所得税額控除や外国税額控除等の税額控除適用前の法人税額
(*2)外国税額控除や分配時調整外国税相当額の控除、仮装経理に基づく過大申告の場合の防衛特別法人税額の控除など
防衛特別法人税の税効果会計への影響
防衛特別法人税の導入は、税効果会計に重要な影響を与えると考えられます。「税効果会計に係る会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第28号)」の44項によれば、繰延税金資産と繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法で計算する必要があるという、いわゆる「成立日」基準が採用されているためです。
よって税制改正により税率が変更される場合、その税率変更に係る税制改正の成立日以後に到来する決算期については、改正後の税率を用いて法定実効税率を算定する必要があります。そのため、改正法案が本年3月末までに国会で成立した場合、3月決算会社であれば、2027年3月期以降に解消が見込まれる一時差異に適用される税率に影響を及ぼします。
具体的には、外形標準課税対象法人については約0.9%、外形標準課税対象外法人については約0.84~0.85%の法定実効税率の引き上げが見込まれます。
改正法案が3月末までに成立した場合、2025年3月期決算では、一時差異等の解消時期に応じて、以下の2通りの法定実効税率を適用することが考えられます。
- 2026年3月31日までの間に解消が見込まれる一時差異等→改正前の法定実効税率
- 2026年4月1日以後に解消が見込まれる一時差異等→改正後の法定実効税率
※2については、法定実効税率の計算式の分子における法人税率に乗じる括弧書きの中に、4%を加えることになります。
おわりに
防衛特別法人税の導入は、企業の税負担増加だけでなく、税効果会計を通じて財務諸表にも大きな影響を与えることが予想されます。改正法案の成立時期を注視し、適切なタイミングで新税率を適用すること、また改めて一時差異等の解消時期を慎重に見積もり、適切な法定実効税率を適用することが重要となります。ご不明点等ございましたら、弊社までお気軽にお問い合わせ下さい。
“人材不足”知らずの会社づくり。「高年齢者雇用確保措置」とは?
近年、ニュースやネット上では「人材不足」という言葉が頻繁に取り上げられています。総務省の統計では、令和6年12月時点での日本の労働力人口が6800万人とされ、今後も減少が予測されています(労働力調査(基本集計) 2024年(令和6年)12月分結果)。
一方で、65歳以上の高齢者が労働力人口の約13.4%を占めており(内閣府 高齢化の状況)、2030年にはその割合が約15%に達すると見込まれています。この背景には、物価の高騰や生活の不安から働き続けたいと考える高齢者が増えていることがあります。少子高齢化が進む中、高齢者の就労機会を確保することは、労働力不足を補い、社会保障制度の維持にも寄与する重要な課題です。
高齢者の就労には健康管理やスキルの維持といった課題があるものの、企業側はこの貴重な人材を「離さず」「活躍」してもらうために、具体的な制度を導入する必要があります。今回は、「高年齢者雇用確保措置」について詳しく紹介していきます。
1.高年齢者雇用確保措置とは
高齢者が安心して働き続けられる環境を整えるための制度や施策のことを指します。主に以下の内容が含まれます。
①65歳まで定年年齢を引き上げること
②希望者全員を対象とする、65歳までの「継続雇用制度」の導入
③定年制の廃止
高年齢者雇用安定法では、「高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保」するため、定年年齢を65歳未満としている事業主に、「高年齢者雇用確保措置」として、上記の①から③のうちいずれかの措置の実施を義務づけています。
2.継続雇用制度とは
現に雇用している高年齢者を、本人が希望すれば定年後も引き続き雇用する制度のことで、次のようなものがあります。
「再雇用制度」
定年でいったん退職とし、新たに雇用契約を結ぶ制度
「勤務延長制度」
定年で退職とせず、引き続き雇用する制度
なお、本人が希望した場合は、定年後も引き続き働きたいと希望する人全員を対象とする必要があります。
3.高年齢雇用確保措置を導入するために
定年年齢を65歳未満としている事業主は、上記①~③の制度を導入するためには、(1)就業規則の変更をし、(2)労働基準監督署への届け出が必要となります。
また、導入に際し、賃金や勤務時間などの労働条件についても見直しが必要となる場合があります。年齢に基づく賃金・人事処遇制度から能力や職務などの要素を重視する制度への見直しを行い、短時間勤務制度の検討や、高齢者の意欲や能力を適正に評価する仕組みの構築を目指すことが求められています。
4.各制度のメリットや懸念点、導入のポイント
最後に、各制度のメリットや懸念点、導入のポイントについて簡単にまとめていきます。
①定年年齢の引き上げ
従業員の定年を延長することで、経験豊富な人材をより長く活用できるメリットがあります。また、従業員にとって、定年が延長されることで長期的な雇用の安心感が生まれます。一方で、若手の昇進・採用が抑制される懸念点もあります。
導入の際は、就業規則の改定が必要となり、併せて年功序列型賃金の見直しを含め、バランスを取る必要があります。
②継続雇用制度の導入
継続雇用制度の導入で期待される効果と懸念点は以下の通りです。
期待される効果
- 柔軟な雇用の継続:希望する従業員のみを再雇用することで、企業と労働者双方にとって柔軟な対応が可能となるでしょう。
- 賃金コストの調整:再雇用時に賃金を見直すことで、企業の負担を軽減できることになります。
- 経験を活かせる:高齢従業員のスキルや知識を活用しつつ、負担の少ない業務への配置転換が可能となります。
懸念点
- 不公平感の発生:選考基準が明確でないと、希望者全員が再雇用されるわけではないため、不公平感が生じる可能性があります。
- 人材確保の不安定性:継続雇用をしない選択をする人が増えると、必要な労働力を確保できないリスクがあるといえます。
③定年の廃止
定年制を廃止することは年齢に関係なく、働き続けられる環境を提供することができます。また、経験豊富な人材を維持でき、採用コストの削減にもつながるでしょう。一方で、定年がないことで、昇進や新卒採用の機会が制限される可能性があり、高齢従業員のために必要な措置をとる必要が生じます。
導入の際は、年齢ではなく、能力や業績に応じた人事評価の導入や、成果や役割に応じた給与体系へ移行し、公平性を担保しつつ、高齢者が安心して働ける職場環境の整備が必要になるでしょう。
今後、日本の労働市場はさらなる高齢化に直面するため、柔軟な働き方と適正な評価制度の導入が鍵となります。「働けるうちは働きたい」という高齢者の意欲を活かしつつ、企業と社会がどのように対応していくかが、今後の課題といえるでしょう。
はじめに
令和6年6月21日の閣議決定で国家戦略特別区域外国人創業活動促進事業を経済産業省外国人起業活動促進事業と一本化することが決定されました。これまで俗にスタートアップビザと呼ばれるものは国家戦略特区事業によるものと経済産業省事業によるものがあり、似たような制度なのですが管轄や申請方法、付与される在留資格等が違い、利用する側としては迷う部分もありました。今回はあらた めて日本で会社を設立し、経営活動を行うためのビザについて整理したいと思います。
「経営・管理」
日本で経営活動を行うための代表格は「経営・管理」です。本店所在地を管轄する出入国在留管理局へ申請を行いますが、その前提として①オフィスの確保、②会社の設立を行う必要があります。①②は日本に知人等がいる場合はともかく、海外在住の起業家が日本で事業を行おうとする場合には障壁の1つとなるものです。メリットとしては許可後、すぐに経営活動に従事することができます。
国家戦略特区事業によるスタートアップビザ
冒頭で述べた通り、本制度は経済産業事業に統合される形で一本化されます。なお、令和7年3月末まで申請は受け付けられます。
本制度は国家戦略特区として定められている自治体に事業計画書を提出し、創業活動確認証明書を取得します。その後、出入国在留管理局へ起業準備活動のための「経営・管理」(6か月)の申請を行います。この6か月の期間内に①オフィスの確保、②会社の設立を行い、「経営・管理」の在留資格を更新して経営活動をスタートさせるというもので、参入障壁であった①②を後ろ倒しにすることによ り、外国人の起業を誘致することを目的とするものです。
経済産業省事業によるスタートアップビザ
経済産業大臣から認定を受けた地方公共団体等に対して、起業準備活動計画を提出して確認証明書の交付を受けます。次に本店所在地を管轄する出入国在留管理局へ起業準備活動のための「特定活動」の申請を行います。「特定活動」が付与されたら起業準備活動を行うことになりますが、現在は最大2年間、①②の要件を充足することが猶予されております。
メリット・デメリット
①②の要件を備え「経営・管理」の申請をする場合、許可後すぐに経営活動に従事することができます。ただし、現在「経営・管理」の審査期間が非常にながく、その審査期間中は日本で経営活動を行ってはなりません。そのため審査期間中のオフィス賃料のただ払いや商談の機会損失につながるリスクもあります。一方、スタートアップビザは上記のリスクは回避できますが、2段階の申請となるの で経営活動を開始できるまでの期間は前者にくらべて長くなることが一般的で工数もかかります。
その他注意事項
その他「経営・管理」にも起業準備活動のための4か月のものがあります。弊社では海外企業の日本進出を支援しておりますので、どのような些細な事でも構いません。是非一度弊社にご相談いただければ幸いです。