RSM汐留パートナーズ・ニュースレター 2025年12月号
2025年12月2日
M&Aの代表的手法と税務上の留意点、マイナ保険証の一本化、種類株主総会が必要なケース
日頃よりお世話になっております。RSM汐留パートナーズです。今月のニュースレターでは、税理士法人より「M&Aの代表的手法と税務上の留意点」、社会保険労務士法人より「マイナ保険証の一本化」、司法書士法人より「種類株主総会が必要なケース」をお届けします。
M&Aスキームによる税務影響の違い、マイナ保険証への移行に伴う実務対応、そして種類株式発行会社における種類株主総会の要否判断など、いずれも制度理解と実務対応の双方が求められるテーマです。今月のニュースレターもぜひお役立てください。
はじめに
昨今、企業の成長戦略や事業ポートフォリオの再構築において、M&Aは重要な経営手段として定着しています。しかしM&Aと一括りに表現されるものの、株式譲渡・事業譲渡・合併/会社分割といった複数の形式が存在し、税務処理、リスク承継範囲、PMIの難易度やコストが大きく異なります。スキームの選択は交渉初期から検討すべき重要論点であり、判断次第で買収後のキャッシュフローや企業価値が大きく変動します。今回は税務面を中心に、代表的なM&A手法を比較・整理します。
株式譲渡
株式譲渡は、買い手が対象会社の株式を取得し経営権を取得する方法です。会社の法人格は維持されるため、許認可・契約・従業員関係が原則として維持され、手続き負担が小さく、スピード感を重視する場合に最適です。
売り手側は、個人株主の場合は株式譲渡益に約20%の申告分離課税が適用され、累進課税となる事業譲渡より税負担が抑えられる場合があります。法人株主の場合は譲渡益が法人所得に含まれ、通常の法人税が課税されます。一方、買い手側では取得した株式は税務上償却できず損金算入もできないため、税務メリットは限定的です。また、対象会社の繰越欠損金は原則承継されますが、支配権の変動に伴う欠損金利用制限が適用され、実務上活用できないケースも見受けられます。
事業譲渡
事業譲渡では、承継対象となる資産・負債・契約を個別に選択できます。不要な資産や簿外債務を排除できるため、買い手にとってリスク面のメリットが大きい手法です。但し、契約承継・従業員同意・許認可の再取得など、実務負担や手続きコストが大きくなる傾向があります。税務面では、売り手法人に譲渡益課税が生じ、土地・有価証券等を除く課税資産の譲渡には消費税が発生します。一方、買い手側は取得資産を時価で計上し、発生したのれんを税務上5年間で償却できるため、節税効果が期待できます。繰越欠損金は承継できません。
合併・会社分割
合併や会社分割といった組織再編では、会社法に基づき資産・負債・契約が包括承継されます。税務面では、組織再編税制の適格要件を満たすかどうかがポイントとなります。適格組織再編の場合、譲渡益課税が繰り延べられ、資産は簿価で承継されます。売り手側(消滅会社)の繰越欠損金も原則承継可能ですが、株式譲渡と同様に、欠損金利用制限の検討が必要です。非適格組織再編の場合、資産が時価で評価され、売り手側に譲渡益課税が生じる一方、買い手側では事業譲渡と同様にのれん償却が可能となり、税務メリットが生じる場合があります。原則として繰越欠損金の引継ぎは認められません。
おわりに
M&A手法の選択は税務面だけでなく、承継範囲、リスク管理、のれん償却、手続き負担、PMIの難易度など、複数の観点から総合的に検討することが重要です。具体的な事案や組織再編税制の適用についてご相談等ございましたら、弊社までお気軽にお問い合わせください。
マイナ保険証への原則一本化について
医療分野のデジタル化が進む中、企業の人事・総務担当として確実に押さえておきたいのが、マイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」への移行です。従業員が円滑に医療機関を受診できる環境を整備することは、企業の労務管理や福利厚生の観点からも重要なテーマです。本稿では、制度の全体像、移行スケジュール、暫定措置、そして企業が準備すべき実務ポイントを整理します。
制度概要と移行スケジュール
2024年12月2日から、従来の健康保険証の新規発行が終了しました。今後はマイナ保険証の利用が基本となり、政府は2025年12月2日から原則としてマイナ保険証への一本化を進める方針です。ただし、健康保険証がその日をもって即時に無効となるわけではありません。現行の健康保険証は2026年3月31日まで有効とされており、実際には段階的な移行期間が設けられています。企業としては、この移行期間を踏まえつつ、従業員が混乱なく受診できる体制づくりが求められます。
また、マイナンバーカードを保有していない方や、取得が難しい事情のある方に対しては、保険資格を確認できる「資格確認書」が保険者から発行されます。これはマイナ保険証の代替手段として医療機関で利用でき、すべての加入者が受診できる仕組みを確保するための制度的な救済措置です。
企業として準備すべきポイント
1.従業員の取得・登録状況の把握
従業員がマイナンバーカードを取得しているか、またマイナ保険証利用登録(オンライン資格確認)が完了しているかを把握することが重要です。未登録の場合、医療機関での受付に時間を要する可能性があるため、登録方法の周知や申請支援を行い、スムーズに利用できる環境を整えておく必要があります。
2.入退社・異動手続きの見直し
健康保険の資格取得・喪失に伴う手続きを、マイナ保険証の運用に合わせて整理し直すことが求められます。特に退職時には、資格喪失と同時にマイナ保険証としての利用ができなくなるため、資格確認書の必要性や発行方法を丁寧に説明し、受診時にトラブルが生じないよう注意喚起することが欠かせません。
3.社内周知と相談体制
「2025年12月2日の原則一本化」「資格確認書の存在」など、制度のポイントは誤解されやすい部分が多くあります。従業員向けの説明資料やFAQ、社内通知文の整備を進め、制度の全体像を正確に伝えることが重要です。必要に応じて相談窓口を設けることも検討しましょう。
おわりに
マイナ保険証への移行は、企業の労務実務に影響する重要な制度改正です。暫定期間が設けられているとはいえ、まずは2025年12月2日の原則一本化に対応できる体制づくりを早期に進めることが求められます。当社では制度対応に関する実務サポートを提供しておりますので、ご関心があればお気軽にご相談ください。
はじめに
種類株式発行会社が募集株式の発行、株式の種類の追加、発行可能(種類)株式総数の増加、株式の併合等、特定の行為をする場合において、株主総会又は取締役会の決議に加え、種類株主総会の決議がなければその効力を生じないケースがあります。そのため、種類株式発行会社においては、特定の行為をするときに種類株主総会の決議が必要かどうかの確認には気をつかうところです。ここでは、拒否権条項の付いていない普通株式及びA種株式を発行している株式会社X(非公開会社)における種類株主総会の必要なケースを見ていきます。
普通株式も種類株式の一種
普通株式も種類株式の一種であるため、普通株式に係る種類株主総会の決議を忘れやすいので注意が必要です。
実際に種類株式を発行していない場合
内容の異なる二以上の種類の株式を定款に定めている株式会社は種類株式発行会社に該当しますので、仮にA種株式を実際に発行していない(又は全て自己株式である)場合は、A種株式に係る種類株主総会は不要となりますが、普通株式に係る種類株主総会の決議が必要かどうかの検討は必要です。
募集株式の発行
株式会社Xが新たに普通株式を発行する場合、定款に別段の定めがある場合を除き、株主総会の決議に加えて、普通株式に係る種類株主総会の決議が必要です。
募集新株予約権の発行
株式会社Xが新たに普通株式を目的とする新株予約権を発行する場合、定款に別段の定めがある場合を除き、株主総会の決議に加えて、普通株式に係る種類株主総会の決議が必要です。
株式の分割、組織再編行為等
会社法第322条1項各号の事項(1号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く)を行う場合を除く)を行う場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、定款に別段の定めがある場合を除きり、株主総会の決議に加えて、当該種類株式に係る種類株主総会の決議が必要です。
株式の種類の追加、内容の変更等
株式の種類の追加、株式の内容の変更、発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加に係る定款変更を行う場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、株主総会の決議に加えて、当該種類株式に係る種類株主総会の決議が必要です。
取得条項、会社法第322条2項の定め
A種株式の内容として新たに取得条項を定款に定めるとき、あるいはA種株式の内容として新たに会社法第322条2項の事項を定款に定めるときは、A種株主全員の同意が必要です。
全部取得条項
A種株式の内容として新たに全部取得条項を定款に定めるときは、A種株式に係る種類株主総会の決議が必要です。また、取得請求権が行使されたときに取得と引換えに交付される株式がA種株式である種類株式や、取得条項が発動したときに取得と引換えに交付される株式がA種株式である種類株式があるときは、当該種類株式に係る種類株主総会の決議も求められます。


