商業登記関係 株主割当による募集株式の発行手続き
株主に対して募集株式を発行する
募集株式は、既存の株主にも第三者に対しても発行することができ、既存の株主に株式の割当てを受ける権利を与える募集株式の発行を、第三者割当と区別して「株主割当」と呼んだりもします。
株主割当とは、単に株主に割り当てるだけではなく、株主が有する株式の数に応じて募集株式の割当てを受ける権利を与えることをいいます。
例えば、
- 株主A 300株
- 株主B 200株
- 株主C 100株
と所有しているときに、新たに1,200株発行するときは、
- 株主Aに対して600株
- 株主Bに対して400株
- 株主Cに対して200株
を割り当てて初めて株主割当となります。持株比率に応じない割り当て方法を採るのであれば、それは第三者割当による募集株式の発行の手続きです。
なお、株主割当による募集株式の発行を行うときは、自己株式を所有する会社(発行会社)には割当てを受ける権利を与えることはできません。
※このページでは、対象を非公開会社として記載しています。
株主割当は使いづらい?
株主割当による募集株式の発行は、持株比率に応じた割り当てをする必要があること、申込みの2週間前までに募集事項等を通知すること(短縮可能)、払込期日の前日までに通知が必要なこと(短縮不可能)から、あまり使われることはないのではないでしょうか。
募集株式に対して申込み+割当てではなく、総数引受契約の方法であれば1日で手続きが済んでしまうからです。
なお、株主が1名で、その株主に対して新しく発行する株式の全てを割り当てる場合でも、当該株主と総数引受契約を締結するのであれば、株主割当ではなく第三者割当となります。
第三者割当による募集株式の発行手続きについては、こちらの記事をご参照ください。
株主割当による募集株式の発行の手続きの流れ
株主割当による募集株式の発行の手続きの流れは次のとおりです。
(取締役会設置、非公開会社の場合)
- 取締役会の決議
- 株主総会の招集
- 株主総会の決議
- 募集事項等の通知
- 引受けの申込み
- 出資の履行
- 登記申請
1. 取締役会の決議
取締役会の決議によって、株主総会の招集を決定します。
なお、株主割当による募集株式の発行では、募集事項等の決定を取締役会の決議によって定めることができる旨の定款の定めがある場合は、それを取締役会の決議によって行います(会社法第202条3項)。
この場合、「2.株主総会の招集」「3.株主総会の決議」は不要です。
2. 株主総会の招集
株主総会の招集をします。
株主総会の招集の発送期間については、こちらの記事をご参照ください。
3. 株主総会の決議
募集事項等の決定は、株主総会の特別決議によって行います。
なお、募集事項等の決定を取締役会の決議によって定めることができる旨の定款の定めがある場合は、それを取締役会の決議によって行うことは上記のとおりです。
募集株式の発行における募集事項は次のとおりです(会社法第199条1項)。
- 募集株式の数
- 募集株式の払込金額又はその算定方法
- 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
- 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間
- 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項
株主割当のときは、次の事項も定めます(会社法第202条1項)。
- 株主に対し、申込みを条件に募集株式の割当てを受ける権利を与える旨
- 募集株式の引受けの申込みの期日
実際に株主総会を開催することなく決議があったものとみなす方法は、こちらの記事をご参照ください。
4. 募集事項等の通知
株主全員に対して、募集事項等を通知します。
この通知は、募集株式の引受けの申込みの期日の2週間前までに通知をしなければなりません(会社法第202条4項)。
この期間は、株主全員の同意により短縮できるとされています。
株主へ通知する事項は次のとおりです。
- 募集事項
- 当該株主が割当てを受ける募集株式の数
- 募集株式の引受けの申込みの期日
5. 引受けの申込み
通知を受けた株主が募集株式を引受けの申込みをするときは、当該株主は次に掲げる事項を記載した書面を株式会社に交付します。
- 申込みをする者の氏名又は名称及び住所
- 引き受けようとする募集株式の数
6. 出資の履行
払込日を定めたときはその日までに、払込期間を定めたときはその期間の末日までに出資を履行しなければなりません。
なお、金銭出資の場合は、期日までに発行会社の金融機関の口座に入金されていないと登記申請ができませんので、実質的には期日の15時頃が出資のタイムリミットとなります。
7. 登記申請
株式を新たに発行したときは、資本金の額と発行済株式数の数が増加します。
そして、その効力が発生した時から2週間以内に、変更登記を申請することが義務付けられています(会社法第915条1項)。
当事務所では、募集株式の発行手続きから登記申請の代行までサポートをさせていただいております。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。