商業登記関係 第三者割当による募集株式の発行(増資)手続き
出資と株式の発行手続き
株式発行による資金調達をするときは、出資を受けた対価として株式を交付するという募集株式の発行手続きを行うことになります。
数百万円、数千万円、あるいは数億円を出資する、そしてされることになりますので、お互いのためにもこの手続きは法律に則ってしっかりと行っておきたいところです。
募集株式の発行手続きは、現在の株主に、その持株比率に応じた株式を割り当てる「株主割当」と、それ以外の「第三者割当」に分けられます。
なお、株主に株式を交付する募集株式の発行手続きにおいても「第三者割当」を選択することも可能であり、実務的にもそうすることが多いです。
株式を交付しても資本金が増えない場合
募集株式の発行手続きにおいて出資者へ交付する株式は、新たに発行する株式でも自己株式でも問題ありません。
この手続きで全て自己株式を交付したときは、発行済株式数、資本金の額ともに変更が生じません(資本剰余金の額が変動する可能性があります)。
第三者割当による募集株式の発行の手続きの流れ
第三者割当による募集株式の発行の手続きの一例は次のとおりです。取締役会設置、種類株式不発行、金銭出資、新株発行、定款に別段の定めのない非公開会社を前提としています。
- 取締役会の決議(招集決定)
- 株主総会の招集
- 株主総会の決議
- 募集事項等の通知
- 引受けの申込み
- 取締役会の決議(割当決議)
- 割当ての通知
- 出資の履行
- 登記申請
1. 取締役会の決議(招集決定)
取締役会にて募集株式の発行をする意思決定を行い、それを決議するために株主総会の招集を決定します。
実務的には、事前に投資家(出資者)との間で投資契約を締結していることも少なくありません。
2. 株主総会の招集
上記取締役会の決議に基づき、株主総会の招集通知を株主へ送ります。
1人株主の場合は、株主総会の書面決議(会社法第319条1項)で済ませることや招集手続きを省略(会社法第300条)して株主総会を行うことが多いでしょう。
3. 株主総会の決議
株主総会の特別決議によって、事項を決定します(会社法第199条1項)
- 募集株式の数
- 募集株式の払込金額またはその算定方法
- 払込期日またはその期間
- 増加する資本金及び資本準備金
なお、募集株式の数の上限及び払込金額の下限だけを株主総会の決議で定め、その他募集事項を取締役会に委任することもできます(会社法第200条1項)。
4. 募集事項等の通知
募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対し、次に掲げる事項(募集事項等)を通知します(会社法第203条1項)。
- 株式会社の商号
- 募集事項
- 金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
- 会社法施行規則第41条で定める事項
5. 引受けの申込み
募集株式の引受けの申込みをする者は、次に掲げる事項を記載した書面を株式会社に交付しなければなりません(会社法第203条2項)。
- 申込みをする者の氏名又は名称及び住所
- 引き受けようとする募集株式の数
募集事項等の通知書と一緒に、この申込みに関する書類が送られてくることが一般的ですので、それに記入(押印)して返送します。
6. 取締役会の決議(割当決議)
取締役会を開催し、引受けの申込みをした者の中から誰に何株を割り当てるのかを決議します。
このとき、例えば100株引き受ける旨の申込みをした者に対して、必ず100株を割り当てなければならないということはなく、50株だけ割り当てる等のように申込みのあった株式数より減少した株式数を割り当てることもできます(会社法第204条1項)。
この場合、当該申込者に対して150株を割り当てることはできません。
≫募集株式の発行(増資)をするときの割当先の決定機関はどこか
7. 割当ての通知
上記取締役会の決議によって決めた募集株式の割当てを受ける者に対して、割り当てる募集株式の数を通知します(会社法第204条4項)。
払込日または払込期日の初日の前日までにこの通知を行わなければならないため、株主総会(取締役会)の決議と同日を、払込日または払込期日の初日とすることができません。
なお、総数引受契約方式であればそのような制限はないため、1日で全ての手続きを済ませることが可能です。
8. 出資の履行
引受人は払込期日または払込期間内に、募集株式の払込金額の全額を払い込まなければなりません(会社法第208条1項)。
払込期日等までに引受人が出資の履行をしないときは、募集株式の株主となる権利を失ってしまいます(会社法第208条5項)。
なお、登記手続き上、発行会社の預金通帳(払込金額の入金履歴のあるもの)が必要となるため、払込期日等までに発行会社の口座へ出資が着金していなくてはなりません。
9. 登記申請
増資の効力が発生したら、管轄法務局へ登記申請をします。添付書類の一例は、次のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録
- 申込みを証する書面
- 払込証明書
- 資本金計上証明書
登記申請は効力発生日から2週間以内にしなければなりません(会社法第915条1項)。
また、投資契約書に効力発生日から1ヶ月以内に登記後の登記簿謄本を提出する等の条項がある場合はそれに対応する必要があるでしょう。
募集株式の発行手続きと総数引受契約方式
上記4567の手続きは、出資者と発行会社が総数引受契約を締結するときは不要となります(会社法第205条1項)。
※6の代わりに総数引受契約の承認を取締役会で行います(会社法第205条2項)。
総数引受契約契約方式であれば申込み+割当て方式に比べて手続きがシンプルになるため、出資者が1名であるときや、少数でお互いの出資額が分かってもいいようなケースでは利用されやすいです。
種類株式や有償新株予約権
ここでは普通株式を交付する募集株式の発行手続きをご紹介していますが、交付する株式が種類株式というケースもあります。
新たに種類株式を設定して交付する募集株式の発行手続きは、普通株式のそれに比べて複雑です。
最近では将来のバリュエーションに基づく株式数を割り当てるために、有償の新株予約権によって資金を調達するケースも少なくありません。
なお、これらの登記手続きは複雑であるため、時間がかかり間違いも生じやすいです。
ご自身はビジネスに専念するためにも、登記手続きが必要な方はお近くの司法書士に相談をしてみてください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。