商業登記関係 大会社への移行と会計監査人の設置
大会社は会計監査人の設置が義務付けられています
大会社は会計監査人を設置しなければなりません(会社法第328条)。
大会社であるのにも関わらず会計監査人を設置していない会社は、会社法を遵守していないことになってしまいますのでご注意ください。
大会社の定義
次のいずれかの要件を満たしている株式会社は、大会社となります(会社法第2条6号)。
- 最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上
- 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上
大会社となるタイミング
上記のいう最終事業年度に係る貸借対照表とは、定時株主総会に報告・承認された貸借対照表(会社設立後の最初の定時株主総会までの間においては会社設立時の貸借対照表)のことをいいます。
例えば、資本金の額が3億円であった会社が、期中に増資をして資本金の額が6億円になったとしても、その期のうちに減資をして期末時点における資本金の額が5億円未満となっていれば当該会社は大会社とはならず、会計監査人の設置義務はありません。
そのため、資本金の額を大きく増やす会社・増やした会社は、その期末までに減資をして資本金の額を1億円以下にするケースはよくあります。
例)12月末決算の会社
12月末を事業年度末にしている会社の場合、例えば平成28年1月1日時点で資本金の額が1億円、同年8月1日に増資をして資本金の額が6億円となり、同年12月31日に減資をして資本金の額が1億円で期末を迎えたケースでは、当該会社は大会社に該当しません。
上記の例で、減資の効力が平成29年1月1日に生じた場合は、平成28年12月末日の資本金の額が6億円であるため、当該会社は大会社に該当しますので会計監査人を設置する義務が生じます。
減資の手続きには約2ヶ月程度かかります
減資の手続きには債権者保護手続きを行うことが必須とされており、この債権者保護手続きには約2ヶ月程度かかります(最短でも1ヶ月と10日程度)。
もし減資の手続きにミスがあり、最やり直さなければならなくなってしまった場合は、更に減資の手続き期間が延びてしまいます。
なお、増資と減資は同日を効力発生日とすることができ、例えば資本金1億円の会社が、12月20日付けで増資により資本金の額を6億円とし、同日付けで減資により資本金を1億円にするようなことも可能です。
≫株式会社の募集株式の発行(増資)と資本金の減少を同時に行う方法
この場合、増資の直後(ほぼ同時)に減資をし、結果として資本金の額は1億円で変動しないとはいえ、1億円から6億円に資本金の額を増加する登記申請はしなくてはならないため、登録免許税として5億円×1000分の7である350万円の登録免許税が発生します(更に減資分の3万円も)。
いつから会計監査人を設置するか
上記のとおり、大会社となるかどうかは定時株主総会に報告・承認された貸借対照表(会社設立後の最初の定時株主総会までの間においては会社設立時の貸借対照表)によって判断をするため、期中に資本金の額が5億円以上(又は負債の合計額が200億円以上)となったからといってその瞬間に大会社となり会計監査人の設置義務が発生するわけではありません。
定時株主総会に報告する(定時株主総会で決議する)予定の貸借対照表が大会社の要件を満たしているのであれば、同じ定時株主総会において会計監査人設置会社となる旨の定款変更の決議と会計監査人の選任決議も行うことが一般的です。
大会社以外に会計監査人を設置の義務のある会社
会社法において、会計監査人監査が義務付けられるのは次の株式会社です。
- 大会社
- 監査等委員会設置会社
- 指名委員会等設置会社
- 会計監査人を設置すると定款に定めた会社
なお、合同会社にはその規模に関わらず会計監査人の設置義務はありませんが、一定の要件を満たした一般社団法人には会計監査人の設置義務があります。
会計監査人の資格
会計監査人は、公認会計士又は監査法人でなければなりません(会社法第337条1項)。
なお、次に掲げる者は、会計監査人となることができません(会社法第337条3項)。
- 公認会計士法の規定により、第四百三十五条第二項に規定する計算書類について監査をすることができない者
- 株式会社の子会社若しくはその取締役、会計参与、監査役若しくは執行役から公認会計士若しくは監査法人の業務以外の業務により継続的な報酬を受けている者又はその配偶者
- 監査法人でその社員の半数以上が前号に掲げる者であるもの
会計監査人の設置の手続きと登記
会計監査人を置くには、その旨を定款に定める必要があります(会社法第326条2項)。これは大会社になったことにより会計監査人の設置義務が生じた場合も同様です。
会計監査人は、株主総会の決議によって選任します(会社法第329条1項)。
会計監査人設置及び会計監査人の就任に関する登記申請には、一例として次の書類を添付します。
- 株主総会議事録(定款の変更、会計監査人の選任)
- 株主リスト
- 定款
- 就任承諾書(又は監査契約書)
- 公認会計士・監査法人の資格を証する書面
会計監査人の就任登記には、本人確認証明書類の添付は求められておりません。
会計限定監査役の退任
会計監査人設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければなりません(会社法第327条3項)。
この監査役は、業務監査権限及び会計監査権限のある監査役である必要があるため、会計監査権限しかない監査役は、当該会社が会計監査人設置会社となったときに退任します。
そのため、会計監査人設置会社になるときは、新しく業務監査権限及び会計監査権限のある監査役を株主総会の決議で選任する必要があります。
なお、この監査役は会計監査権限しかなかった以前の監査役と同一人物でもOKですが、再任の手続き及び登記をする必要があり、「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨」が登記されている会社はこの登記の抹消も行います。
会計監査人と自動再任
会計監査人の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされています(会社法第338条1項)。
そして、会計監査人は、定時株主総会において別段の決議がなされなかったときは、当該定時株主総会において再任されたものとみなされます(会社法第338条第2項)。
例えば、平成29年3月の定時株主総会において大会社となったため会計監査人を設置した会社が、事業年度末である平成29年12月末日の貸借対照表において大会社の定義から外れたようなケースでも、平成30年3月の定時株主総会において会計監査人につき別段の決議がなされなかったときは、会計監査人は自動的に再任したことになりますのでご注意ください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。