商業登記関係 募集株式の発行時に自己株式のみ処分をしたときの登記
募集株式の発行と自己株式の処分
募集株式の発行とは、株式会社や特例有限会社が株式を新しく発行するとき、または保有している自己株式を処分するときに、当該株式の引受人を募集して、その対価として金銭等の財産を受け入れることであり、一般的には増資と言われる行為です。
募集株式においては出資者に交付する株式は、新規発行株式でも自己株式でもどちらでも良いとされています。
出資者からすると株式が交付され、その対価を支払うことには変わりはありませんが、登記手続きや会社の計算においては大きく違いが現れます。
募集株式の発行と登記事項
募集株式の発行をすると、多くのケースでは登記事項に変更が生じるため登記申請が必要となります。
募集株式の発行において新規発行株式のみを交付したとき
この場合、例えば新しく1,000株を発行し、その対価として1,000万円を受け入れたときは、発行済株式総数は+1,000株となり、資本金の額は+1,000万円(一部を資本準備金とする場合はその準備金とする額を1,000万円から引いた金額)となりますので、その変更登記申請が必要となります。
なお、出資された金額のうち2分の1までは資本金ではなく資本準備金として組み入れることができます(会社法第445条)。
募集株式の発行において自己株式のみを交付したとき
この場合は、結論から言えば登記事項に変更はありません。
まず、新しく株式を発行しないので発行済株式総数は当然に変更がありません。募集株式の発行前に記載されている発行済株式総数には自己株式の数も含まれています。所有者が会社から引受人に変わるだけです。
次に、資本金の額については出資者が対価を支払っているため、資本金も増えるように思うかもしれません。しかし、資本金等増加限度額の計算式は簡単にすると次のようになります。
株式の発行割合とは、発行する株式の数÷(発行する株式の数+処分する自己株式の数)ですので、自己株式の処分のみのケースではこれが0となり、いくら払い込まれても0をかけると0になるため、資本金等増加限度額も0以下となり資本金の額を変更することができません。
自己株式の処分差損が生じるケースでも、資本金等増加限度額が0未満である場合は0となります(会社計算規則第14条)。
登記事項に変更はありませんが、処分価額に応じて純資産の部は変わります。
募集株式の発行において新しく株式を発行し、自己株式も交付したとき
この場合は、発行済株式総数は新しく発行した株式の数だけ増えますが、自己株式の処分差損が生じるかどうかによって増加する資本金の額は変わってきます。
募集株式の数を200株(内訳:新しく発行する株式100株、自己株式100株)1株5万円で募集株式の発行を行うケースにおいて、自己株式の帳簿価額が1株6万円である場合、自己株式の処分差損が生じます。
上記の式に当てはめると「資本金等増加限度額=500万円-100万円」となりますので、資本金等増加限度額は400万円となります。このうち、2分の1(200万円)までは資本準備金に計上することができます。
一方で、自己株式の帳簿価額が1株4万円である場合、自己株式の処分差損は生じませんので、資本金等増加限度額は500万円となります。このうち、2分の1(250万円)までは資本準備金に計上することができます。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。