ホーム/コラム/人事・労務/日本法人に人事担当者がいない場合どうする?外資系企業の人事労務体制の作り方
日本法人に人事担当者がいない場合どうする?外資系企業の人事労務体制の作り方

日本法人に人事担当者がいない場合どうする?外資系企業の人事労務体制の作り方

人事・労務
2026年10月13日

日本法人を設立したものの、まだ従業員数が少なく、専任の人事担当者を置いていない。あるいは、人事担当者を採用したいものの、なかなか適切な人材を採用できない。日本へ進出したばかりの外資系企業では、このような状況は珍しくありません。特に従業員数が数名から十数名程度の場合、「日本で人事担当者を一人採用するほどの業務量はないが、給与計算や社会保険、入退社手続きには対応しなければならない」という問題が生じます。人事担当者がいないからといって、必ず専任の人事担当者を採用しなければならないわけではありません。重要なのは、日本で必要となる人事労務機能を整理し、社内と外部の役割分担を明確にすることです。

本記事では、外資系企業の日本法人に人事担当者がいない場合に起こりやすい問題と、小規模な組織でも安定して運営できる人事労務体制の作り方を解説します。

1.日本法人に専任の人事担当者は必ず必要なのか

日本法人を設立したからといって、専任の人事担当者を配置すること自体が法律で義務付けられているわけではありません。そのため、設立直後の小規模な日本法人では、Country ManagerやFinance Manager、管理部門担当者などが人事業務を兼務するケースも考えられます。

問題は、「人事担当者がいないこと」ではなく、人事担当者がいないことで必要な業務や手続きまで放置されてしまうことです。日本で従業員を雇用すれば、労働条件の明示、給与計算、勤怠管理、社会保険・労働保険関係の手続きなど、さまざまな対応が必要になります。たとえば、使用者は労働契約を締結する際、賃金や労働時間その他の労働条件を労働者へ明示する必要があります。2024年4月からは、就業場所・業務の「変更の範囲」など、明示事項のルールも変更されています。さらに、2026年10月からは、パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れる際、通常の労働者との待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨も明示する必要があります。したがって、「専任の人事担当者を置くか」と「必要な人事労務機能を用意するか」は分けて考える必要があります。

2.外資系日本法人で「人事不在」になりやすい3つのケース

(1)日本進出直後で従業員がまだ少ない

日本法人設立直後は、Country Managerと営業担当者など、数名から事業を開始することがあります。この段階で採用、人事制度、給与計算、労務管理などすべてを担当する専任の人事担当者を採用すると、組織規模に対して固定費が大きくなる場合があります。一方で、従業員が一人でも増えれば雇用管理に関する業務は発生します。「人数が少ないから人事労務管理はまだ必要ない」と考えるのではなく、小規模な組織に適した運営方法を考えることが重要です。

(2)Country Managerや一人管理部が人事を兼務している

専任の人事担当者がいない日本法人では、Country Manager、Finance Manager、Office Managerなどが人事労務を兼務することがあります。採用面接や従業員とのコミュニケーションであれば対応できても、日本の社会保険制度や給与計算、労働法令まで正確に把握することは容易ではありません。さらに、事業が成長すると本来の業務も増えます。結果として、人事業務が後回しになったり、「給与計算だけ前任者が作ったExcelを使っている」といった属人的な運営になったりする可能性があります。

(3)人事担当者を採用できない

人事担当者を募集しているものの、採用まで時間がかかっているケースもあります。特に外資系日本法人では、日本の労務実務だけでなく、英語による海外本社とのコミュニケーションや、グローバルポリシーへの理解などを求めることがあります。求める条件をすべて満たす一人の人材を採用しようとすると、人事不在の期間が長期化することも考えられます。その場合は「採用できるまで現状のまま待つ」のではなく、採用活動と並行して必要な機能を別の方法で確保することも検討すべきです。

3.人事担当者がいない日本法人で起こりやすい問題

(1)給与計算を誰が担当するのか曖昧になる

従業員を雇用すれば、毎月給与を正しく計算し、所定の日に支払う必要があります。給与計算には基本給だけでなく、勤怠、残業、欠勤、各種手当、社会保険料など複数の情報が関係します。海外本社が給与データを管理していても、日本独自の社会保険や労働時間管理などを含め、そのまま海外と同じ方法で処理できるとは限りません。また、日本では各事業場について賃金台帳を作成し、賃金支払いの都度必要事項を記入する義務があります。誰が給与計算を実施し、誰が確認し、誰が最終承認するのかをあらかじめ決めておく必要があります。

(2)入退社や社会保険の手続きが漏れる

従業員が入社・退職した場合には、社会保険をはじめさまざまな手続きが発生します。たとえば、健康保険・厚生年金保険の被保険者資格取得届は、原則として事実発生から5日以内の提出が必要です。人事担当者がいない状態で「誰かが対応するだろう」としていると、必要な情報の収集や手続きが遅れる可能性があります。特に海外本社から見ると、日本でどの手続きが、どのタイミングで発生するのかわかりにくいため、日本側で責任者と業務フローを明確にしておくことが重要です。

(3)従業員が増えたのに管理体制が変わらない

日本進出時に5名だった会社が、数年後には20名、30名へ成長するケースもあります。注意すべきなのは、人員規模が拡大しているにもかかわらず、人事労務体制だけが「5名だった頃のやり方」のままになっているケースです。たとえば、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長へ届け出る必要があります。人数は企業全体ではなく、原則として事業場単位で判断します。採用人数の増加に合わせて、人事労務体制も定期的に見直す必要があります。

4.人事担当者がいない日本法人の3つの体制

専任の人事担当者がいない場合、大きく分けると次のような体制が考えられます。

体制特徴向いているケース

社内兼務

Country Managerや管理部門がHRを兼務

業務量が少なく、社内に労務知識がある

人事担当者を採用

日本法人内に専任の人事担当者を配置

人員規模が大きく、日常的なHR業務が多い

外部専門家を活用

給与計算・労務実務等を外部へ委託

小規模法人、進出直後、人事採用が難しい場合

どれが最適かは、従業員数だけでは判断できません。採用頻度、給与体系の複雑さ、海外本社から求められるレポーティング、英語対応の必要性なども含めて判断します。

(1)「人事担当者を一人採用する」以外の体制も検討する

外資系日本法人では、「人事担当者がいないので、一人採用しよう」と考えがちです。しかし、本当に必要なのがフルタイムの人事担当者なのか、一度業務を分解して考えることが重要です。たとえば、採用方針、人事評価、組織づくり、従業員とのコミュニケーションは経営側が担い、給与計算や社会保険など専門性の高い定型業務については外部専門家を活用する方法があります。この方法であれば、人事業務のすべてを一人の人事担当者へ集約する必要がありません。特に従業員数がまだ少ない段階では、必要な機能ごとに最適な担当者を配置するほうが合理的な場合があります。

(2)外部委託する業務と社内に残す業務を分ける

人事労務アウトソーシングを利用する場合も、「人事をすべて外注する」と考える必要はありません。一般的には、給与計算、社会保険関連業務など、ルールに基づいて繰り返し発生する実務は外部化を検討しやすい領域です。一方、採用の最終判断、人事評価、報酬方針、組織設計、従業員との重要なコミュニケーションなど、経営判断に深く関係する事項は日本法人や海外本社側で保持することが適しています。

つまり、

「人事担当者がいるか、いないか」ではなく、「必要なHR機能を誰が担うのか」を設計することが重要です。

この考え方に変えることで、専任の人事担当者を採用できない期間でも、必要な人事労務機能を維持しやすくなります。

(3)海外本社と日本側の役割も明確にする

外資系企業では、日本法人だけで体制を考えるのではなく、海外本社 HRとの役割分担も整理します。たとえば、グローバルHRポリシーは海外本社が決定し、日本固有の労務実務は日本側で対応するという分担が考えられます。重要なのは、両者の間に「誰も担当していない領域」を作らないことです。特に、Employee Handbookや雇用条件を海外本社のテンプレートから作成する場合、日本の法令や実務との整合性には注意が必要です。海外本社で一般的な制度が、日本でもそのまま運用できるとは限りません。「Global Policy」と「Japan Local Requirement」を切り分け、それぞれ誰が確認・運用するかを決めておくことが、外資系日本法人の人事体制では重要です。

5.人事不在の日本法人が最初に確認したいチェックポイント

次の項目に答えられないものがある場合は、人事労務体制を一度整理したほうがよいでしょう。

  • 毎月の給与計算を誰が実施し、誰が確認するのか
  • 入退社が発生したとき、誰が必要な手続きを把握しているか
  • 勤怠や有給休暇をどのように管理しているか
  • 雇用契約・労働条件を誰が確認しているか
  • 日本の法改正を誰が把握するのか
  • 従業員から労務に関する質問が来た場合、誰が回答するのか
  • 海外本社へ必要なHR・Payrollデータを誰が報告するのか
  • Country Managerが不在でも業務を継続できるか
  • 従業員が増えた場合、どの段階で体制を見直すのか

すべてを一人で担当する必要はありません。むしろ、誰がどの機能を担当しているかを明確にし、特定の一人に依存しない状態を作ることが重要です。

6.まとめ|専任の人事担当者がいなくても、日本の人事労務機能は必要

日本進出直後や小規模な外資系日本法人では、専任の人事担当者を置かずに事業を開始することもあります。問題になりやすいのは、人事担当者がいないこと自体ではなく、担当者が決まらないまま手続きが後回しになることです。給与計算、社会保険、勤怠管理、入退社手続きなど、日本で従業員を雇用するために必要な機能を整理し、日本法人、海外本社、外部専門家のどこが担当するのかを明確にすることが重要です。また、専任の人事担当者を採用することだけが解決策ではありません。特に小規模な日本法人では、経営判断に関わる人事機能を社内に残しながら、給与計算や労務関連業務を外部専門家へ委託することで、固定的な人員を増やさずに人事労務体制を構築する方法もあります。

RSM汐留パートナーズでは、外資系企業の日本法人に対して、給与計算や社会保険関連業務をはじめとする人事労務アウトソーシングを提供しています。日本に専任の人事担当者がいない企業や、日本進出直後で管理部門の体制を構築している企業についても、日本独自の制度・実務と海外本社との連携を踏まえた人事労務体制の構築・運営をサポートしています。「日本で人事担当者を採用すべきか判断できない」「Country Managerが人事労務まで兼務している」「日本に人事担当者を置かずに運営できる体制を作りたい」といった場合は、まず必要なHR機能を整理し、社内と外部の適切な役割分担を検討することが有効です。

お問い合わせフォーム


    ※個人のお客様の場合は、「個人」とご入力ください。