課外活動のススメ
Big4の監査法人に身を置いていると、自分次第で課外活動のチャンスはいくらでもあります。「最近は忙しすぎてそれどころではない」という声も聞こえてきそうですが、それでもなお、若いうちに社外との接点を少しずつ広げておくことには大きな意味があります。
その法人に長く勤めるかどうかは別として、公認会計士として30〜40年に及ぶキャリアを歩む中で、先輩・同期・後輩、そしてクライアントとの関係を良好に保つことは極めて重要です。目の前の仕事で成果を出すことはもちろん大切ですが、それと同じくらい、信頼できる関係性を積み重ねていくことが、長いキャリアの土台になっていきます。
なぜなら、この業界は想像以上に狭いからです。「間に一人挟めば、ほぼ全員が繋がっている」と言われるほどです。もちろん、海外まで視野を広げれば世界は一気に大きくなりますが、国内での信頼関係を大切にして損はありません。むしろ、若いうちに築いた関係が、何年も経ってから思わぬ形で仕事やキャリアを支えてくれることもあります。
大手監査法人の名刺があるうちは、絶好のチャンスです。準会員であっても、その名刺一枚で信頼を得やすく、銀行・証券・VC・PEファンド、さらには弁護士や医師など、多分野のプロフェッショナルと接点を持てる可能性が広がります。自分一人ではなかなか開けない扉も、所属している環境や肩書きがあることで、自然と開かれることがあります。
結局のところ、誰もが求めているのは「長く信頼できる付き合い」なのではないでしょうか。短期的な損得だけではなく、互いに相談し合える関係、困ったときに思い出してもらえる関係をどれだけ築けるか。この恵まれた環境を最大限に活かし、質の高い関係性を構築することが、将来の成功を支えてくれるはずです。最初の5年、10年の努力がすべてを解決できるとは言いませんが、その後のキャリアで大きな力となることは間違いありません。
本業だけでなく、人脈作りや異業種交流など、名刺一枚で広がる世界を楽しんでみてください。時には飲み会の幹事を務めるのも良い経験になります。シャイな方が多い業界かもしれませんが、少し勇気を出して一歩踏み出すことで、見える景色は大きく変わるはずです。そのきっかけになれば幸いです。

不確実な時代における挑戦と自己研鑽の重要性
- 2026.05.15
- いい話・格言・理念
不確実な(VUCAの)時代と言われて久しいですが、そもそも人類の歴史において、確実な時代など存在したのでしょうか。
歴史を振り返れば、情報の非対称性のもとで、情報と資本を握る知的階級や支配層が、他者を先導し、時に支配する構造がありました。限られた人々だけが重要な情報を持ち、多くの人々はその枠組みの中で意思決定をせざるを得なかった時代も少なくありません。そのため、一見すると安定しているように映る時代はあったのかもしれません。しかし実際には、戦争、疫病、政変、技術革新、価値観の転換など、いつの時代も形を変えながら不確実さを内包し続けてきたのが実態ではないでしょうか。言い換えれば、不確実さは現代特有の例外ではなく、人間社会の本質の一部でもあるのだと思います。
この不確実さは、安定を望む方にとっては不安の種かもしれません。先が読めないこと、これまで通用していた前提が変わることは、確かに大きなストレスを伴います。しかし、現状を打破しようとする人々にとっては、不確実さは大きなチャンスでもあります。秩序や前提が揺らぐ時代だからこそ、新しい価値観や挑戦が受け入れられる余地が生まれます。既存のルールや序列が強固な時代には、新しい挑戦が入り込む余地は限られますが、変化の大きい時代には、これまでの常識が問い直され、新たな発想や行動力を持つ人に機会が開かれます。何かを成し遂げたい、あるいは自身の視座を高めたいと願う者にとって、不確実な時代にこそ可能性があり、これほど可能性に満ちた面白い時代はありません。
士業の世界も例外ではありません。法改正や制度変更、テクノロジーの進化、AIの普及、顧客ニーズの多様化により、これまで安泰に見えた業務領域が、一夜にして大きく変わることもあります。「国家資格があるから」「経験が豊富だから」「これまでのやり方で通用してきたから」という慢心は、時代に取り残される最大のリスクとなります。資格や経験に価値があることは間違いありませんが、それだけで将来の安定が保証される時代ではなくなっています。他方で、変化が大きいということは、それだけ新たな専門性や新たな役割を切り拓ける余地があるということでもあります。
不確実さを恐れるのではなく、むしろそれを原動力として新しい価値を生み出していく。そのために、たゆまぬ自己研鑽が必要不可欠であるのは間違いありません。学び続けること、変化に向き合うこと、自らの専門性を更新し続けることが、これからの時代を生き抜く前提になるのだと思います。組織の規模にかかわらず、常に野心を持ち、ベンチャーマインドを忘れずに挑戦し続けていきたいと思います。

地道な業務に宿る、仕事の基礎と組織を支える力
監査法人1年目の頃、私の業務にはシンプルな作業も多かったように思います。確認状の仕分けや捺印、フォルダへの分類、FAX送信、そして事務勤でのコピーやシュレッダーがけなどです。もちろん、事務所や時代によって状況は異なるでしょうが、少なくとも私の実体験としては、こうした地道な作業がたくさんありました。
しかし、新人時代の私にとって、これらは決して「簡単なこと」ではありませんでした。 FAXの送信先を間違え、シニアの先輩がクライアントに謝罪の電話を入れてくださったこともあります。自分の不手際が周囲に迷惑をかける申し訳なさに、次は絶対に間違えないようにとひとつひとつの作業に必死に向き合っていました。
単純に見える作業にこそ、高い丁寧さと集中力が求められます。宛先を確認する、書類の順番をそろえる、漏れがないかを見直す。そうした一つひとつの積み重ねが、仕事全体の品質や信頼につながっていきます。新人時代の仕事には、ビジネスの根幹となる大事な基礎が詰まっていたのだと、今になって強く思います。正直に言えば、私はこういった細かな作業が得意ではありませんでした。だからこそ、その難しさや大切さを身をもって学ぶことができたのだと思います。
また、こうした経験を通じて「組織には多様な役割がある」ことも学びました。表に出る仕事だけで組織が成り立っているわけではありません。縁の下で支えてくれる間接部門の方々がいて初めて、フロントのメンバーが安心してクライアントに向き合い、力を発揮することができます。その構造を理解できたことは、私にとって大きな財産です。
独立し、見積書の発行から入金確認、場合によっては督促のようなプロセスまで、自分自身の手でやってみて、当時の教えが身に染みています。どんな業務であっても、それをいかに「自分事」として捉え、主体的に向き合えるか。それによって、個人の成長スピードも、仕事への解像度も大きく変わるものだと思います。
支えてくれる多くの仲間に改めて感謝しながら、私自身もまた、誰かの活躍を支えられる存在であり続けられるよう、日々精進してまいります。

多様な価値観を包摂する組織づくり
- 2026.05.05
- いい話・格言・理念
私たちの組織には、多様な国籍や文化的背景、そして異なる信条や宗教を持つメンバーが集まっています。一人ひとりが異なる価値観を抱きながら、日々、共に働き、共に時間を重ねています。だからこそ、組織を預かる立場として、誰か一人の価値観や考え方が過度に前面に出ることで、他の誰かが居心地の悪さを感じることのないよう、常に意識していたいと思っています。
経営者や有資格者という立場には、時に強い信念や判断軸が求められます。迷いや不確実性のある環境下でも、自らの考えに基づいて意思決定し、進むべき方向を示していくことは大切です。しかし、だからといって自身の意見や信条を他者に押しつけることがあってはならないと、自戒を込めて思っています。信念を持つことと、それを周囲に強いることは、決して同じではありません。
経営者や難関資格者は、不確実な環境下にあっても、比較的、自らの歩みをコントロールできる立場にあります。しかし、すべてのスタッフが同じ状況にあるわけではありません。もちろん、一人ひとりがどこでも活躍できるスキルを身につけられるよう、自己研鑽を促す仕組みづくりには尽力しています。それでも、立場による心理的な安全性の違いには常に無自覚ではいられないと感じています。
経営者個人が信条や宗教的な背景を持つこと自体は、極めて自然なことです。人は誰しも、自分なりの価値観や人生観に支えられて生きています。しかし、それを声高に発信するのではなく、むしろ多様な価値観を包摂し、すべての人が安心して力を発揮できる環境を整えることの方が、組織においてはより重要だと考えています。それは、多様性を「同じにすること」ではなく、「違いを持ったまま尊重し合える状態」をつくることでもあります。そして、そのような環境をつくり続けることこそが、リーダーとしての真の責任ではないでしょうか。
社会がどのように変化しようとも、一喜一憂せず、流されることなく、関わる人々の人生を少しでも豊かにする。その一点を、これからも揺るぎない指針として大切にしていきたいと思います。
一人士業の魅力と、持続可能な事務所のかたち
「一人士業の事務所」のあり方について考えてみました。もし私がもう一度独立するとしたら、次は「一人士業」という形態を選ぶかもしれません。実際には生涯をかけてRSMの日本代表を務め、RSMと共に歩んでいく決意ですので、あくまで仮定の話ではありますが(笑)。
私見ですが、一人士業の定義とは「完全に一人」であるか、あるいは「フルタイムの有資格者は所長一人で、数名のスタッフを雇用して運営している」状態を指すのではないかと考えています。
完全に一人で実務を行う道は、雇用の苦労や責任から解放される生き方です。これはまさに「自由な経営」と言えるでしょう。信頼できる外部協力者と連携しながら、目の前のお客様に全力で向き合うことができます。
一方で、自分の目が届く範囲でスタッフを採用するという考え方もあります。規模としては10名程度、売上高でいえば1億円前後が一つの目安でしょうか。 実際、契約・請求事務、入金確認、記帳、給与計算、書類作成といった業務を分業化したほうが、事務所全体の生産性は向上しますし、その枠組みの中で全員が豊かになれます。
例えるなら、所長は獲物を捉える「狩猟民族」であり、スタッフはお米を育てる「農耕民族」。お肉とご飯の組み合わせが最高であるように、この両者が揃うことで、非常にバランスの良い組織となります。
しかし、有資格者が複数になり法人化が進むと、時に揉め事が生じることもあります。本人だけでなくスタッフもストレスを抱えてしまい、結果として組織を解散し、個人事務所に戻っていかれた方を私は多く見てきました。
「私がいなくなればこの事務所は解散するか、どこかに合流する」という前提をあらかじめスタッフと共有しておく。これもまた、一つの「サステナブル(持続可能)な形」かもしれません。その方針を理解した上で入所していただくということです。
この規模を超えて拡大を目指すなら、それはもはや「士業」というより「経営者」の領域です。世の素晴らしい経営者たちと同じ土俵で競い、スタッフもまたリーダーとしての背中を期待する。そこには、厳しくも刺激的な世界が広がっています。
一人士業は、時に孤独や寂しさを感じることもあるでしょう。しかし、そのスタイルが性に合っている人にとっては、まるで「タレント」のように自分自身を軸とした職業人生を歩める、とても素敵な選択肢だと思うのです。
大切なのは規模の追求ではなく、自分が納得できる「あり方」でいられるかどうか。一人ひとりの士業が自分らしく輝ける場所を見つけられることを、心から願っています。

