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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

パートナー  / 税理士

会計期間の決定に関する有利不利:日本独自の慣行と実務上のポイント

2025年3月5日

外資系企業が日本市場に進出する際、経理・会計の運用においては、現地独自の事情を十分に把握することが重要です。特に会計期間の設定は、税務申告や監査、連結決算といった各局面で影響を及ぼします。

本記事では、会計期間の基本的な概念から、なぜ日本では4月スタートが主流なのか、また税理士受託やIPO監査法人選定における影響、さらに親会社との連結に関する留意点まで、外資系企業のCFOや経理部長の方々が押さえるべきポイントを解説します。

会計期間の基本と日本の慣行

会計期間とは、企業が一定期間の経営成績や財政状態を集計・報告するための期間を指し、通常は1年間を単位とします。

日本では、多くの企業が4月から翌年3月までを会計期間として採用しており、これは税務申告や行政手続きとの整合性が背景にあります。

日本独自の決算・税務のルールは、法人税法や商法、各種会計基準などに基づいており、これらが企業の経営判断や報告体制に大きな影響を与えます。

たとえば、決算期の選定は、経理部門の内部管理だけでなく、外部の監査法人や税理士との連携においても重要な要素となっています。

4月スタートが主流となる背景

日本社会全体が4月スタートとなっている背景には、歴史的・社会的な理由が存在します。戦後の再建期以降、4月を新年度の始まりとする慣行が定着し、行政機関や学校、企業の予算編成が一斉に始動する体制が構築されました。

こうした統一的なタイムラインは、各種手続きや情報共有、内部統制の面で大きなメリットをもたらすと同時に、業界全体での調整や連携が円滑に行える環境を整えることにも寄与しています。

結果として、4月スタートの会計期間は、取引先や監査、税務申告における共通認識の形成に役立ち、企業間の信頼性向上にもつながっています。

税理士受託での会計期間の影響

会計期間の設定は、税務申告や経営判断のタイミングに直結するため、税理士との契約時に大きな影響を及ぼします。

税理士は、企業の経理状況を的確に把握し、最適な申告・節税対策を講じるために、会計期間を考慮に入れたアドバイスを行います。

たとえば、決算期が業界標準の4月スタートであれば、情報の集約や比較が容易となり、税務戦略を立てやすくなる一方、企業固有の事情を反映した最適な期間設定が求められるケースも少なくありません。

また、税務上の特例措置や損益通算のタイミングなども、会計期間の設定により変動するため、税理士との連携は重要です。

IPO準備時における監査法人選定に関する有利不利

IPO準備時における監査法人の選定では、会計期間の始まりを何月かにすることによって、何か有利になるもしくは不利になるということは基本的にはありません。

ただ、上述したように日本企業の多くが会計期間を4月始まりにしているため、標準的な4月から3月に会計期間を設定することは、監査法人側にとって監査スケジュールや上場スケジュールが計画しやすいというメリットはあります。

したがって、監査法人選定という観点からすると、外資系企業が日本進出に伴い日本法人を設立する場合は、日本企業の標準的な会計期間である4月から3月にしておくのが無難といえるでしょう。

親会社連結との整合性のポイント

外資系企業が日本で事業を展開する場合、現地法人の会計期間と親会社との連結決算との整合性が大きな課題となります。

親会社が海外に所在する場合、連結決算を行う際には各子会社の決算期とのズレが連結調整や内部統制に影響を及ぼす可能性があります。

日本では4月スタートが主流であるため、親会社側が異なる会計期間を採用している場合、調整作業や情報開示において追加の手間がかかることが考えられます。

また、連結ベースの決算書作成に際して、各子会社の業績を適切に統合するための内部手続きや監査の視点からも、統一感のある会計期間の採用は大きなメリットを持ちます。

結果として、親会社との連結においては、現地法人の会計期間を標準化することで、内部統制の効率化や透明性の向上が期待できるのです。

会計期間設定のリスクと最適化

会計期間の設定は、企業の事業計画や税務戦略、監査体制に大きな影響を与えるため、リスクマネジメントの一環としても捉える必要があります。

標準的な4月スタートの会計期間を採用することで、各種手続きのスムーズな実施が期待できる一方で、業界や企業固有の事情を無視した一律の設定が、将来的な成長戦略や海外展開の際に柔軟性を欠くリスクも存在します。

たとえば、急速な事業拡大やM&Aを視野に入れた場合、決算期の変更が必要となるケースもあります。このような場合、内部管理システムの再構築や関係各所との調整が不可避となるため、変更前のリスク評価と変更後の効果測定を慎重に実施することが求められます。

また、税制改正や会計基準の改正も会計期間設定に影響を及ぼす要因として重要なポイントです。

事例に学ぶ効果的な会計期間の決定

会計期間の設定、すなわち1年の決算期間をどの月からスタートさせるかは、企業の内部統制、税務手続、さらには監査法人との連携に大きな影響を及ぼします。

以下、具体的な事例をいくつかご紹介します。

【事例1:グローバル企業A社の場合】

A社は連結決算を行う外資系企業ですが、海外にある現地子会社の会計期間がA社と大きく異なる状況にありました。結果、連結決算時に過去年度との比較や内部調整が困難となり、監査法人からも指摘されました。

そこでA社は、現地子会社の会計期間をA社の標準である4月スタートに統一する決定を下しました。これにより、各社間の情報の整合性が向上し、内部統制が強化され、IPO準備時にも監査法人から高い評価を受ける結果となりました。

【事例2:中堅企業B社のケース】

B社はM&Aを通じて子会社を複数抱える外資系企業です。買収後、子会社間で会計期間がバラバラであったため、グループ全体での業績比較が難しく、経営判断に支障をきたしていました。そこで、B社は各子会社の会計期間を統一し、連結決算の際にスムーズにデータを集約できる体制を整備しました。

この取り組みにより、経営陣はリアルタイムでグループ全体の業績を把握できるようになり、税務申告や内部統制も効率化。結果、株主や投資家からも信頼性が向上し、IPO準備段階でも監査法人からの評価が高まりました。

これらの事例からも、会計期間の標準化は必ずしも単独で決定的な要因ではありませんが、内部統制の強化、連結決算の効率化、そして市場や監査法人からの信頼性向上に寄与する重要な判断材料であると考えられます。

企業は自社の成長戦略やグループ構造を踏まえ、最適な期間設定を検討することが求められます。

まとめ

本記事では、会計期間の設定が税務申告、税理士受託、IPO準備時における監査法人選定、そして親会社との連結決算といった各局面でどのような影響を及ぼすかについて解説しました。

会計期間は企業の経営成績や財政状態を正確に把握するための基本単位であり、日本では4月スタートが一般的である背景には、歴史的・社会的要因が深く関係しています。

会計期間の設定は、税務やIPO監査、親会社との連結という観点からも影響があるため慎重に検討する必要があります。

また、企業固有の事情や将来の戦略を考慮すれば、場合によっては会計期間の柔軟な設定も必要となるため、リスク評価と最適化のバランスが求められます。

外資系企業が日本で成功を収めるためには、現地の税務・会計ルールを正確に理解し、適切な会計期間の設定を行うことが不可欠です。

各種専門家との連携を強化し、内部統制や連結決算の観点からも最適な体制を整えることで、企業価値の向上と市場での信頼性確保に大きく寄与するでしょう。

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