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藤井 淳平 Jumpei Fujii

この記事の著者

藤井 淳平 Jumpei Fujii

ディレクター  / 税理士

令和7年度 税制改正解説:個人所得税の見直しとその影響

2025年5月20日

はじめに

本稿では令和7年度税制改正大綱の中から、多くの関心を集めている個人所得税の改正内容について、ご紹介したいと思います。

所得税基礎控除等の見直し

いわゆる「103万円の壁」に関する改正について、物価上昇に伴う税負担の調整を目的として、以下の2点が見直されることとなりました。

1)基礎控除額の増額

合計所得金額が2,350万円以下の個人の方を対象に、現行の基礎控除額48万円が10万円増額され、58万円となります。

2)給与所得控除に関する改正(最低保障額の引上げ)

給与所得控除について、現在55万円とされている最低保障額が、10万円増額されて65万円になります。これにより、「103万円の壁」と呼ばれていた基準は、基礎控除58万円と給与所得控除65万円を合わせた「123万円の壁」へと引き上げられることになります。なお、この改正は令和7年度分の所得税から適用され、住民税については令和8年度分より反映される予定です。

新設される「特定親族特別控除」について

配偶者における「103万円の壁」と同様に、大学生などの子どもにも同様の所得制限が存在し、アルバイトによる就労の妨げになっていると指摘されてきました。こうした状況を踏まえ、人手不足への対応策の一環として、先に述べた基礎控除の見直しと整合性を持たせる形で、新たに「特定親族特別控除」が導入されることになりました。

この控除の対象となるのは、生計を一にしている19歳以上23歳未満の親族(ただし、配偶者、青色事業専従者、および控除対象扶養親族は除く)を有する居住者であり、当該親族の合計所得金額が123万円以下である場合には、その居住者の総所得金額等から一定額の控除を受けることが可能となります。

特定親族特別控除(仮称)
親族等の合計所得金額控除額
58万円超 85万円以下63万円
85万円超 90万円以下61万円
90万円超 95万円以下51万円
95万円超 100万円以下41万円
100万円超 105万円以下31万円
105万円超 110万円以下21万円
110万円超 115万円以下11万円
115万円超 120万円以下6万円
120万円超 123万円以下3万円

※参考:https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2025/07taikou_01.htm)

確定拠出年金制度に関する制度改正

企業年金の有無によって拠出限度額に差が生じないようにするため、私的年金等に関する課税の公平性を確保する観点から、次のような制度改正が行われます。

【企業型確定拠出年金(企業型DC)】

  • 確定給付企業年金制度に加入している場合
    掛金の上限は月額6.2万円(現行:5.5万円)を上限として、加入している確定給付企業年金における掛金相当額を差し引いた額まで拠出可能となります。
  • 確定給付企業年金に加入していない場合
    月額の拠出限度額は6.2万円(現行:5.5万円)に引き上げられます。

【個人型確定拠出年金(iDeCo)】

  • 自営業者などの第1号被保険者
    掛金の上限は月額7.5万円(現行:6.8万円)へと増額されます。
  • 企業年金に加入している会社員等
    月額6.2万円(現行:2万円)を上限とし、確定給付企業年金および企業型DCにおける掛金額を差し引いた範囲内で拠出可能です。
  • 企業年金に加入していない第2号被保険者(第1号・第3号被保険者を除く)
    掛金の上限は月額6.2万円(現行:2.3万円)に引き上げられます。

【国民年金基金】

  • 掛金の限度額は、 iDeCoと合わせて月額7.5万円(現行:6.8万円)となります。

子育て世帯向けの生命保険料控除の見直し

23歳未満の扶養親族がいる居住者に対して、令和8年分における新生命保険料に係る一般生命保険料控除について、現行の控除限度額4万円に加え、さらに2万円が上乗せされ、合計で6万円まで控除可能となります。

なお、この見直しは令和8年分について適用される1年間の時限的措置で、新生命保険料および旧生命保険料を支払った場合の一般生命保険料控除の控除限度額も6万円となります。

ただし、一般生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料を合わせた全体の控除限度額(12万円)については現行から変更ありません。

子育て世帯向け住宅ローン控除の優遇措置拡大

特例対象個人(※)が認定住宅などを新築等で取得し、令和7年中にその住宅へ入居した場合、住宅ローン控除における借入限度額が引き上げられます。

区分特例対象個人左記以外(一般個人)
認定住宅5,000万円4,500万円
ZEH水準省エネ住宅4,500万円3,500万円
省エネ基準適合住宅4,000万円3,000万円

※「19歳未満の子を有する世帯」又は「夫婦のいずれかが40歳未満の世帯」
参考( https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001854843.pdf

おわりに

今回は、令和7年度税制改正に関する解説として、個人所得税に関する主要な改正ポイントをご紹介しました。特に「103万円の壁」に代表されるように、多くの方々に影響を及ぼす見直しが行われています。

年末調整や確定申告の時期には、今回の改正内容を改めて確認しておくことで、適切な対応が可能となります。制度を正しく理解し、必要に応じた対応を行うことが重要です。

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