はじめに:ベトナム事業で税務・管理体制の見直しが求められる背景
ベトナムは、製造拠点の分散を進める企業にとって有力な投資先であると同時に、約1億人の人口と拡大する中間所得層を抱える消費市場としても存在感を高めています。若い労働力、ASEAN域内の戦略的な立地、各国との自由貿易協定などを背景に、日本企業による進出や事業拡大は今後も続くと考えられます。
その一方、現地では税制や執行実務の変更が相次いでいます。制度を形式的に理解するだけでは足りず、契約、支払方法、証憑管理、関連者取引の価格設定、現地子会社への監督まで、一連の業務プロセスとして対応することが重要です。特に日本本社からベトナム子会社を管理する場合、現地経営陣や会計担当者に任せきりにせず、本社が継続的に状況を把握できる仕組みを整える必要があります。
本稿は、RSM Vietnamから提供を受けた知見と2026年6月時点の最新動向を踏まえ、ベトナムで事業を行う、または今後進出を検討する日本企業が押さえておくべき税務・子会社管理上の実務ポイントを取り上げるものです。
1. 2025年のベトナムにおける税制改正
付加価値税(VAT)の改正
2025年7月1日に施行された新たなVAT制度では、ベトナム国内に恒久的施設を有しない国外事業者が、ベトナムの顧客に電子商取引やデジタルプラットフォームを通じたサービスを提供する場合の課税関係が見直されました。取引内容によっては10%のVATが適用されるため、現地法人を設けずにサービスを提供する日本企業も、サービスの性質や契約形態、申告方法を確認する必要があります。
また、仕入VAT控除や還付を受けるための支払要件も厳しくなりました。500万ドン以上の課税仕入れについては、銀行振込、カード決済、所定の電子決済など、現金以外の方法で支払ったことが求められます。従業員が立て替えた経費についても、社内規程に基づいて会社口座から精算した記録を残すことが重要です。経費自体に事業上の必要性があっても、決済方法や証憑に不備があれば、控除が認められない可能性があります。
法人所得税(CIT)の改正
2025年10月1日に施行された改正法人所得税法では、標準税率20%が維持される一方、原則として、前年度の年間売上高が30億ドン以下の企業には15%、30億ドン超500億ドン以下の企業には17%の税率が設けられました。投資優遇についても、従来の立地重視から、ハイテク、研究開発など戦略性の高い産業やプロジェクトを重視する方向へ移行しています。ただし、適用対象や除外要件については、法人所得税法および2025年12月15日付政令320号に基づく個別確認が必要です。同政令では、非現金決済が求められる損金算入の金額基準も、従来の2,000万ドンから500万ドンへ引き下げられています。
さらに、500万ドン以上の費用を損金に算入する場合にも、原則として非現金決済が必要です。このため、VATと法人所得税を別々に管理するのではなく、発注、検収、請求書の受領、支払、会計処理までを一体として点検することが望まれます。
移転価格税制と調査対応
ベトナム税務当局は、外資系企業の関連者取引に対する調査を強化しています。とりわけ、赤字が長期間続いている企業、実態が明確でないグループ内サービス料を支払っている企業、十分な比較分析を行わずにロイヤルティや管理料を国外へ送金している企業は、調査対象となりやすい傾向があります。
政令132号に基づき、対象企業は独立企業間原則に沿って取引価格を設定し、ローカルファイル、マスターファイル、必要に応じて国別報告書を準備します。税務当局から提出を求められた場合、原則30営業日以内の対応が必要であり、文書を後から作成しようとしても、十分な分析ができないおそれがあります。小規模・低リスクの企業には一定の免除がありますが、免除要件に該当するかどうかは毎期確認すべきです。
2025年に公布された政令20号では、関連者の範囲や金融機関との取引に関する取扱いが見直され、過年度に損金算入できなかった支払利息の繰越しについても規定が整備されました。日本本社からの借入れや保証がある企業では、移転価格だけでなく、支払利息の損金算入限度もあわせて検討する必要があります。
外国契約者税(FCT)
外国契約者税は、ベトナム国内で物品やサービスを提供する非居住事業者に課される税で、VAT部分と法人所得税部分から構成されます。恒久的施設の有無だけで課税関係が決まるわけではなく、日本企業がベトナム企業からサービス料、ライセンス料、利息などを受け取る場合にも対象となる可能性があります。
納付方法には、外国契約者がベトナム会計制度に従って申告する方式、ベトナム側の契約相手が支払時に源泉徴収する方式、両者を組み合わせる方式があります。実務上は源泉徴収方式が多く利用されますが、適用税率は取引内容により異なります。例えば、一般的なサービスと電子商取引関連サービスでは税率構成が異なり、機械の供給と据付サービスが一体となった契約では、契約金額を合理的に区分できるかどうかによって負担額が変わることがあります。
契約書に税負担者や手取額を明記していない場合、支払段階で想定外のコストが生じかねません。取引開始後ではなく、見積りや契約交渉の段階でFCTを検討することが重要です。
日本・ベトナム間の二重課税への対応
日本企業の活動が固定的事業所、従属代理人、長期建設工事などに該当する場合、日越租税条約上の恒久的施設としてベトナムで課税される可能性があります。また、利子やロイヤルティ等について条約上の軽減税率を適用するには、居住者証明書をはじめとする所定の手続が必要です。
ベトナムで納付した税額は、日本で外国税額控除の対象となり得ますが、契約書、納税証明、申告資料などが不足していると控除できない場合があります。PE該当性、FCTの納付方法、租税条約の適用、外国税額控除を一連の論点として整理することが、二重課税の回避につながります。
2. 税務調査と罰則リスク
ベトナムの税務調査では、帳簿や申告書を作成しているだけで十分とは限りません。取引の経済的な合理性や、証憑に記載された内容と実際の取引が一致しているかまで確認されます。
自動車部品会社の事例では、製品の大半を海外親会社へ輸出していた企業について、利益率が比較対象企業より低いことに加え、ベンチマーク分析が更新されていなかった点が問題となりました。企業側が低利益率の理由を客観的に説明できなかったため、課税所得が増額され、法人所得税の追徴に加えて加算税と延滞税が生じています。関連者取引では、価格算定方針を定めるだけでなく、その方針が実績に照らして妥当かを毎年検証する必要があります。
電子機器組立会社の事例では、取引先が事業を停止した後も発行していたインボイスに基づく仕入VAT控除が否認されました。商品を実際に受け取っていたとしても、仕入先の法的状況や請求書の有効性を確認していなければ、税務上の救済を受けられるとは限りません。新規取引開始時だけでなく、取引継続中も仕入先の登録状況を確認し、契約書、納品記録、支払証憑、入庫記録を整合的に保管することが重要です。
近年の裁判例でも、関連者取引の正確な文書化と、形式よりも取引実態を重視する考え方が示されています。口頭合意に依存した契約、契約書と請求内容の不一致、グループ会社への支払いに商業上の理由がないケースは、調査時の説明を困難にします。文書化は単なる申告準備ではなく、税務当局や裁判所に対して自社の処理を説明するための防御手段と捉えるべきです。
3. 子会社管理における内部統制と不正防止
海外子会社では、言語や商慣行の違いにより、本社が日常業務を把握しにくくなります。現地責任者や経理担当者に権限が集中し、内部監査も不定期である場合、不正が発見されるまでに時間を要することがあります。
実際に、ベトナム子会社による現地公務員への不適切な支払いが問題となり、日本の親会社が内部調査と当局対応を行った事例も報告されています。子会社で起こり得る不正は贈賄に限らず、仕入価格の水増しとリベート、在庫の流用、売上の前倒し計上、現金の横領など多岐にわたります。
防止策としては、購買、支払、記帳を同一人物に集中させないことが出発点です。そのうえで、金額に応じた承認権限、複数者による確認、匿名で利用できる内部通報窓口、抜き打ち監査を組み合わせます。本社が日本語の月次・四半期報告を受け、予算差異、在庫、債権、関連者取引、例外的な支払いを継続的に確認する体制も有効です。
重要なのは、制度を作るだけで終わらせず、実際に運用されているかを定期的に検証することです。現地の事情を尊重しながらも、重大な判断や例外処理について本社が関与できるガバナンスを整える必要があります。
4. RSM汐留パートナーズによる日本企業支援
ベトナム進出前には、駐在員事務所、有限責任会社、株式会社などから事業目的に適した形態を選び、投資登録や企業登録、必要なライセンス、税制優遇の適用可能性を確認します。雇用契約についても、日本本社の方針をそのまま移すのではなく、ベトナムの法令と実務に合わせた設計が必要です。
進出後は、会計・給与計算、月次報告、税務申告、法定監査、移転価格文書の作成、税務調査対応などを継続的に行うことになります。不正の兆候がある場合には、内部調査やフォレンジックの視点も欠かせません。日本語・英語・ベトナム語によるコミュニケーション体制を整え、本社と現地法人の情報格差を小さくすることが、安定した事業運営につながります。
ベトナムは成長機会の大きい市場である一方、税制改正や執行強化への対応を後回しにすると、追徴課税や二重課税、子会社不正といった問題が顕在化する可能性があります。進出時の設計と進出後の管理を切り離さず、税務・会計・法務・内部統制を横断して見直すことが、持続的な事業展開の基盤となります。
本稿の作成にあたっては、RSMのベトナムにおけるメンバーファームであるRSM VietnamのLam Le氏をはじめとする専門家チームから、現地の実務に即した知見の提供を受けました。
当社では、RSM Vietnamと連携しながら、進出前の事業スキームの検討・法人設立から、進出後の会計・税務申告、給与計算、移転価格対応、税務調査への対応、内部統制の整備や不正調査まで、ベトナムビジネスの各段階に応じたサポートを提供しております。ベトナムでのビジネスについてご相談したい点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
