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タイ進出企業が押さえるべき税制・投資優遇の実務ポイント―外国源泉所得、BOI・特別経済区、グローバル・ミニマム課税、米国関税への対応―

タイ進出企業が押さえるべき税制・投資優遇の実務ポイント―外国源泉所得、BOI・特別経済区、グローバル・ミニマム課税、米国関税への対応―

海外進出
2026年7月22日

日本企業にとってタイは、自動車、電気・電子、機械、素材、食品、物流、サービスなど幅広い産業が集積し、長年にわたり重要な生産・輸出拠点として活用されてきました。現地市場への販売拠点に加え、周辺国を含む地域統括やサプライチェーンの拠点としても重要な役割を担っています。

一方、安定的な事業運営には、法人所得税や付加価値税などの基本税制だけでなく、外国源泉所得の送金課税、タイ投資委員会(Board of Investment:BOI)による投資優遇、特別経済区の制度、グローバル・ミニマム課税、国際的な関税政策まで横断的に把握することが求められます。これらは、投資計画、資金管理、人員配置、調達、販売価格、契約条件などに直接影響します。

本稿では、RSM Thailandの専門家チームから提供を受けた情報や現地の制度動向を踏まえ、日本企業がタイ事業において確認しておきたい実務上のポイントを解説します。

タイ国内に一定期間以上滞在する個人は、税務上の居住者として取り扱われます。居住者は、タイ国内で得た所得に加え、国外で得た所得をタイへ送金した場合にも課税関係を確認する必要があります。

対象となり得るのは、国外で受け取る給与や役員報酬のほか、配当、利子、不動産所得、株式等の譲渡益などです。海外赴任者やタイ現地法人の日本人役員、長期間滞在する個人投資家などは、特に注意が必要です。

実務上は、所得が発生した時期とタイへ送金した時期を区分して管理することが重要です。外国源泉所得の取扱いは見直されることがあり、所得の発生年度や送金年度によって課税判断が異なる場合があります。過去の取扱いだけを前提に資金を移動することは避けるべきです。

送金時には、その原資が給与、配当、資産売却代金、過年度の貯蓄などのいずれに該当するかを説明できるよう、銀行口座明細、給与明細、配当通知書、契約書、売買報告書などを保存しておく必要があります。

日本ですでに納税している場合は、日タイ租税条約やタイ国内法に基づく外国税額控除を利用できる可能性があります。ただし、外国で納付した税額が自動的に全額控除されるわけではありません。所得区分、課税年度、控除限度額、証明書類を確認し、二重課税を避けるための準備が必要です。

タイ政府は、国内産業の競争力やサプライチェーンの強化を目的に、BOIを通じた投資促進策を継続的に見直しています。近年は、設備更新、自動化、デジタル技術、省エネルギー、環境負荷の低減など、生産性と持続可能性の向上につながる投資が重視されています。

一定の要件を満たす中小企業は、法人所得税の免除などの優遇措置を受けられる場合があります。ただし、対象となるかどうかは、売上高、資産規模、株主構成、従業員数などによって判定されます。日本企業のタイ現地法人も、規模や出資関係によっては対象外となる可能性があるため、申請前の確認が欠かせません。

また、すべての産業が一律に奨励されるわけではありません。供給過剰や環境負荷が懸念される事業では対象が縮小される一方、国内で付加価値を生み、部品調達や人材育成につながる投資は評価されやすい傾向があります。

申請に当たっては、設備投資額だけでなく、生産性向上、デジタル化、省エネルギー、雇用創出、技術移転などの効果を事業計画の中で具体的に説明する必要があります。

外国人従業員の配置についても、職位、経験、報酬水準、現地従業員との構成などが審査対象となる場合があります。日本人駐在員の配置だけでなく、タイ人従業員への権限移譲や技術移転を含む中長期的な人員計画を準備することが重要です。

タイでは、国境地域の経済発展や周辺国との貿易促進を目的に、特別経済区(Special Economic Zones:SEZ)が設けられています。対象地域では、指定事業に対し、法人所得税の免除・軽減、機械や原材料の輸入関税免除、一定費用の追加控除などが認められる場合があります。土地利用、外国人雇用、許認可、国外送金などに関する非税制上の便宜も用意されています。

優遇を受けるには、対象地域に施設を設け、指定された活動から収益を得ていることなどが必要です。また、BOIの法人所得税免除など、他制度と重複して利用できない場合があります。対象事業と対象外事業を区分した会計記録や、認定後の継続的な要件管理も欠かせません。

投資額、事業内容、設備、雇用、環境対応などの条件を満たさなくなれば、優遇資格を失う可能性があります。認定取得をゴールとせず、その後も履行状況を定期的に確認する必要があります。

タイ東部の東部経済回廊(Eastern Economic Corridor:EEC)では、次世代自動車、スマートエレクトロニクス、デジタル、ロボティクス、医療、航空・物流、脱炭素関連などの産業誘致が進められています。税制優遇に加え、許認可、土地利用、ビザ、就労許可などを支援する仕組みが整備されています。

進出地域を選定する際には、優遇税率や免税期間だけでなく、顧客との距離、物流網、人材確保、電力・水などのインフラ、災害リスク、将来の事業拡張まで含めて比較することが重要です。

グローバル・ミニマム課税では、一定規模以上の多国籍企業グループについて、各国・地域の実効税率が原則として15%を下回る場合、差額に相当するトップアップ税が課されます。

対象判定はタイ子会社単体ではなく、多国籍企業グループ全体の連結売上高を基礎として行われます。そのため、タイ子会社の規模が小さくても、日本親会社を含むグループ全体が基準を満たせば、実効税率の計算や情報収集が必要になる可能性があります 。

特にBOIやSEZの法人所得税免除を受ける企業は注意が必要です。タイでの税負担が軽減されても、グローバル・ミニマム課税によりタイ国内または他国で追加税が発生すれば、グループ全体で見た優遇効果が限定される場合があります。BOIは、研究開発や人材育成などの適格支出を対象に、トップアップ税とも相殺できる還付可能税額控除(Qualified Refundable Tax Credit:QRTC)の導入を進めており、2026年中の制度確定を経て、BOIとタイ歳入局が共同で運用する見込みです。もっとも、中小企業やグローバル・ミニマム課税の対象規模に満たない企業グループについては、引き続き従来どおりの法人所得税免除を享受できるとされています。

投資優遇の価値は、名目上の免税額だけでなく、トップアップ税を含む実効税率で評価する必要があります。一方、輸入関税の免除、土地利用、外国人雇用、行政手続の簡素化など、法人所得税以外の便益は引き続き重要です。

対象企業では、対象税額、繰延税金、給与費用、有形資産などの情報収集が求められます。日本本社とタイ子会社の間で担当部門、必要資料、提出期限を明確にし、申告直前に情報が不足しない体制を整えることが必要です。

米国では、2025年に導入されたIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく相互関税について、2026年2月20日、連邦最高裁判所が6対3の判断で「IEEPAは大統領に関税賦課の権限を与えていない」としてこれを無効としました。これにより、タイに適用されていた19%の相互関税を含め、IEEPAを根拠とする関税措置は法的根拠を失うこととなりました。

判決からわずか数時間後、トランプ大統領は、1974年通商法第122条に基づく代替措置として、全世界一律10%の関税賦課を発表しました。タイも、従来の36%・19%という国別税率から、この一律10%の適用対象に移行しています。もっとも、第122条に基づく関税は税率上限15%・適用期間150日という制約があり、2026年7月下旬(本稿執筆時点で目前)に失効する見通しです。その後、通商法301条に基づく調査を経た新たな関税措置に移行するのか、あるいは2025年10月に米タイ間で合意されていた19%の相互貿易枠組み協定(タイ政府は2026年7月中の妥結を目指すとしています)が正式に発効するのか、本稿執筆時点では確定していません。

このように、タイに適用される対米関税率は、わずか1年足らずの間に36%→19%→10%→(未定)と変遷しており、特定の税率を前提に中長期の投資判断や価格設定を固定することにはリスクが伴います。タイから米国へ輸出する企業、あるいはタイを経由・加工拠点として利用する企業は、税率そのものだけでなく、その根拠となる法的枠組みが流動的である点を踏まえて対応する必要があります。

実務上の影響は直接輸出に限りません。タイで製造した部品を他国で組み立てる場合や、他国から輸入した部材をタイで加工して出荷する場合には、原産国の判定や実質的変更の有無が重要になります。

第三国を経由した関税回避と判断されるリスクもあるため、輸出書類にタイ原産と記載するだけでは十分ではありません。部材の調達先、タイ国内の製造工程、付加価値、品目分類、原産地証明書などにより、原産性を説明できる体制が求められます。

関税率そのものが不確実な局面では、販売価格や利益率だけでなく契約条件の設計がより重要になります。関税負担者、価格改定の可否、税率変更時の見直し方法などについて、インコタームズや価格調整条項をあらかじめ確認しておくことが望まれます。

また、販売先や調達先の分散、タイ国内で行う工程の見直し、他のASEAN拠点との役割分担など、複数のシナリオを準備しておく必要があります。営業、調達、物流、税務、法務が情報を共有し、関税の根拠法令や税率が変更されるたびに機動的に対応できる体制を整えることが、この局面ではとりわけ重要です。

タイの税制・投資政策は、外国源泉所得の送金、設備投資、法人所得税、人員配置、輸出取引など、企業活動の幅広い場面に影響します。

これらを個別に確認するだけでは、実際の税負担や事業リスクを十分に把握できない場合があります。BOIによる免税を受けてもグローバル・ミニマム課税で追加税が生じることや、SEZ・EECの優遇を利用しても関税や原産地規則により輸出コストが増加することが考えられます。

日本企業には、投資計画、税務、会計、人事、貿易、資金管理を一体として検討し、複数制度が自社に与える影響を整理することが求められます。適用要件、税率、申請期限は変更される可能性があるため、実際の投資や取引に際しては、当局の最新情報を確認することが重要です。特に米国関税については、本稿で述べたとおり制度の根拠そのものが流動的な局面にあるため、他の論点以上に足元の動向を継続的に確認する必要があります。

本稿の作成にあたっては、RSMの国際ネットワークでタイを担当するRSM ThailandPardorn Suchiva氏をはじめとする専門家チームから、実務に即した知見の提供を受けました。RSM Thailandは会計・税務コンサルティングを中心に、タイで豊富な実績を有するRSMのメンバーファームです。

当社では、RSM Thailandと連携しながら、日本企業によるタイでの事業展開を支援しています。投資スキームや進出地域の検討、BOI・SEZ等の投資優遇の活用、会計・税務申告、グローバル・ミニマム課税への対応、外国人従業員の配置、親子会社間取引、関税・サプライチェーン上の論点整理まで、タイビジネスの各局面に応じたサポートが可能です。タイでの事業展開についてご検討中の際やお困りの点がある場合は、ぜひ一度ご相談ください。

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