日本で外国籍の方が働くために必要な「就労ビザ(正しくは在留資格)」の申請手続きは、非常に複雑で専門的な知識が求められます。企業の人事担当者様や外国人ご本人の中には、「コストを抑えるために自分で申請したい」と考える方もいれば、「確実性を求めて専門家に任せたい」と考える方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、就労ビザの申請を「自社(または自分)で行う場合」と「行政書士に依頼する場合」それぞれのメリット・デメリットについて、最新の実務傾向を踏まえて解説します。
1. 就労ビザ申請の基本と現状
まず前提として、就労ビザの申請は、単に「書類を揃えて提出すれば許可が下りる」というものではありません。出入国在留管理庁(入管)の審査基準は細かく規定されており、申請人の経歴と業務内容の関連性や、企業の経営安定性などが厳格に審査されます。また、近年ではオンライン申請も普及し始めていますが、利用登録の手間やシステムへの理解が必要となるため、依然として窓口での申請も多く行われています。
2. 自分(自社)で申請する場合
企業の人事担当者や外国人本人が自ら申請を行うケースです。
メリット
費用の節約
最大のメリットは、外部委託コストがかからないことです。行政書士への報酬が発生しないため、許可時に納付する収入印紙代や、公的書類の取得実費、交通費のみで済みます。
社内ノウハウの蓄積
繰り返し申請を行うことで、どのような書類が必要か、入管が何を重視しているか、といった知見を得ることで社内でのノウハウの蓄積が可能です。
デメリット
多大な時間と手間の発生
申請書の作成だけでなく、立証資料(理由書、雇用契約書、決算書、登記事項証明書など)の収集・作成に多くの時間を要します。また、管轄の入管へ出向く場合、混雑状況によっては数時間待たされることも珍しくありません。申請時と結果受取時の最低2回は足を運ぶ必要があります。
許可率への懸念と補正対応
専門的な知識が不足している場合、本来許可されるべき案件であっても、書類の不備や説明不足により不許可となるリスクがあります。また、審査途中で入管から「資料提出通知書(追加書類の要請)」が届いた際、適切な対応ができずに審査が長期化するケースも見られます。
最新法令への対応
入管法や審査要領は頻繁に改正されたり、運用方針が変わったりすることがあります。常に最新の情報をキャッチアップしていないと、古い知識で申請してしまい、トラブルになる可能性があります。
3. 行政書士に依頼する場合
入管業務を専門とする行政書士(申請取次行政書士)に依頼するケースです。
メリット
申請手続きの代行(出頭免除)
「申請取次」の資格を持つ行政書士に依頼すれば、原則として申請人本人が入管の窓口に行く必要がありません。書類作成から提出、結果の受け取りまでを一任できるため、本人は業務に専念でき、人事担当者の負担も大幅に軽減されます。
許可率の向上とリスク回避
行政書士は、過去の事例や最新の審査傾向に基づき、個別の案件に最適な書類を作成します。特に重要となる「採用理由書」において、入管法に合致した論理的な説明を行うことで、スムーズな審査と許可率の向上が期待できます。
不許可要因の事前診断
申請前にプロの目線で要件を確認するため、「そもそも許可が下りる可能性が低い」ケースを事前に判別できます。無理な申請による不許可歴が残るリスクを避けることができます。
複雑な案件への対応
「本人の専攻と業務内容の関連性が薄い」「過去にオーバーワーク(資格外活動違反)がある」「転職回数が多い」といった難易度の高い案件についても、法的根拠に基づいたリカバリー策を検討することが可能です。
デメリット
費用の発生
専門家に依頼するため、報酬(手数料)が発生します。相場は事務所や依頼内容(認定、変更、更新)によって異なりますが、およそ10万円〜20万円程度が一般的とされています。
行政書士による品質のばらつき
行政書士であれば誰でも入管業務に精通しているわけではありません。実績の少ない事務所に依頼した場合、期待通りのサポートが得られない可能性もあります。入管業務を専門、または主力としている行政書士を選ぶことが重要です。
4. どちらを選ぶべきか? 判断のポイント
以下のチェックリストを参考に、自社やご自身の状況に合わせて検討されることをお勧めします。
行政書士への依頼を検討すべきケース
- 初めて外国人を雇用するため、手続きが全くわからない。
- 本人の学歴と、任せたい業務内容が一致しているか不安がある。
- 過去に自分で申請して不許可になったことがある。
- 本人が日本語を十分に理解しておらず、書類作成が困難。
- 本業が忙しく、平日の日中に時間を取ることが難しい。
- 絶対に許可を取りたい重要な人材である。
自分で申請しても問題が少ないケース
- 単純な「在留期間更新」であり、職務内容や勤務先に変更がない。
- 社内に経験豊富な法務・人事担当者がおり、最新の入管法にも通じている。
- カテゴリー1(上場企業等)に分類される、提出書類が大幅に簡素化されている企業・団体である。
- 時間に十分な余裕があり、万が一不許可になっても再申請の対応ができる。
5. まとめ
就労ビザの申請は、企業の採用計画や外国籍の方の人生を左右する重要な手続きです。ご自身で申請を行えば費用は抑えられますが、時間的なコストや不許可のリスクを負うことになります。一方で、行政書士に依頼すれば費用はかかりますが、手続きの負担軽減と許可の確実性を高めることができます。
申請の内容が定型的でリスクが低い場合は自社申請、新規雇用や複雑な事情がある場合は専門家への依頼など、状況に応じて使い分けることが重要です。
