ポストコロナ時代を迎え、日本政府は観光立国の推進や労働力不足の解消を目的として、査証(ビザ)および在留資格に関する制度の柔軟な見直しを進めています。
本記事では、専門的な実務において混同されやすい「査証」と「在留資格」の定義を明確にした上で、主要なビザの種類、および近年議論されているビザ免除措置にまつわる新たな制度導入の動きについて解説します。
1. 「査証(ビザ)」と「在留資格」の法的性質と違い
日本の入管行政において、正確な理解のためにまず重要となるのが「査証(ビザ)」と「在留資格」の違いです。一般的にはどちらも「ビザ」と呼ばれますが、法的な役割と管轄省庁は異なります。
査証(Visa)
管轄: 外務省(在外公館)
性質: 「そのパスポートが有効であるという確認」および「その所持人が日本に入国しても支障がないという推薦」としての性質を持ちます。
効力: 原則として、日本に入国する(上陸審査を受ける)段階でその役割を終え、使用済みとなります(数次有効査証を除く)。
在留資格(Status of Residence)
管轄: 法務省(出入国在留管理庁)
性質: 外国人が日本に在留し、活動を行うための法的根拠です。「許可された活動内容」と「在留期間」が定められています。
効力: 日本に滞在し続ける限り効力を持ちます。
実務上、「ビザの申請」という言葉が、海外にある日本大使館等への「査証申請」を指すのか、日本の入管への「在留資格認定証明書交付申請」を指すのかを区別することは非常に重要です。
2. 現在の日本のビザ・在留資格政策のトレンド
日本政府は現在、高度人材の獲得と人手不足への対応を二つの大きな柱として政策を進めています。
高度専門職と特別高度人材(J-Skip)
学歴や職歴、年収などのポイント制で優遇措置が受けられる「高度専門職」に加え、さらに高年収・高スキルの人材を対象とした「特別高度人材(J-Skip)」制度が運用されています。これにより、審査期間の短縮や帯同家族の就労範囲の拡大など、世界的な人材獲得競争に対応する動きが見られます。
特定技能の拡大
国内の労働力不足を補うための「特定技能」制度についても、対象分野の追加や、特定技能2号(家族帯同が可能で、在留期間の上限がない区分)への移行ルートの整備が進められています。
新しい働き方への対応(デジタルノマド)
2024年4月より、IT技術を活用して場所にとらわれずに働く外国人を対象とした「特定活動(デジタルノマド)」の制度が開始されました。6ヶ月以下の滞在が可能となるもので、在留カードの発行はございません。
3. 主な在留資格の種類と分類
現在、日本の在留資格は多岐にわたりますが、以下の4つに分類されるのが一般的です。
(1) 就労が認められる在留資格(活動に基づく資格)
日本で報酬を得て働くことが可能な資格です。職務内容や本人の経歴(学歴・実務経験)との適合性が厳格に審査されます。
代表例: 技術・人文知識・国際業務、高度専門職、経営・管理、技能(調理師等)、特定技能、企業内転勤など。
(2) 身分・地位に基づく在留資格
日本人と結婚している方や日系人など、身分関係に基づいて付与されます。活動内容に制限がなく、単純労働を含めた就労が可能です。
代表例: 日本人の配偶者等、永住者、永住者の配偶者等、定住者。
(3) 原則として就労が認められない在留資格
日本での活動が主目的であり、就労は原則不可です(資格外活動許可を得れば、一定範囲でのアルバイト等は可能です)。
代表例: 留学、家族滞在、文化活動、短期滞在。
(4) 指定される活動による在留資格
法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動です。
代表例: 特定活動(外交官の家事使用人、インターンシップ、ワーキングホリデー、本邦大学卒業者など)。
4. ビザ免除措置と「日本版ESTA(JESTA)」導入の論点
観光立国推進のため、日本は多くの国・地域に対して「短期滞在」の査証免除措置(ビザ免除)を実施しています。しかし、近年この制度に関連して新たなセキュリティ対策の導入が検討されています。
査証免除措置の現状
米国、英国、韓国、台湾など、約70の国・地域(2024年時点)のパスポート所持者は、商用や観光、親族訪問などを目的とする短期間の滞在であれば、事前に査証を取得することなく日本に入国することが可能です。
日本版ESTA(JESTA)の導入検討
一方で、査証免除措置を利用して入国した外国人による不法就労やオーバーステイ、犯罪などの問題も顕在化しています。これに対処するため、米国のアメリカ電子渡航認証システム(ESTA)に類似した「日本版ESTA(仮称:JESTA)」の導入を検討しています。
この制度が導入された場合、査証免除対象国・地域の出身者であっても、渡航前にオンラインで氏名や旅券番号、渡航目的などを申告し、渡航認証を受けることが必要となる見込みです。これにより、上陸拒否事由に該当する人物の航空機搭乗前のスクリーニングが可能になると期待されています。
まとめ
日本の査証・在留資格制度は、国内の経済状況や国際情勢に合わせて頻繁に法改正や運用の変更が行われます。
特に近年では、デジタルノマドのような新しいライフスタイルへの適応や、JESTAのような国境管理の厳格化など、アクセシビリティの向上とセキュリティ確保の両立を図る動きが顕著です。申請を検討される際は、外務省や出入国在留管理庁が発信する最新の一次情報を確認し、個々の事情に合わせた適切な手続きを選択することが求められます。
