商業登記関係 取締役の任期短縮と退任と損害賠償請求と。
取締役の任期は定款で定められる
株式会社の取締役には任期が必ずあり、基本的には任期が満了するとともに当該取締役は退任します。なお、当該取締役を再度選任することは可能です。
会社の取締役の任期については登記簿謄本には記載されず、当該会社の定款に記載されています。
取締役の任期については、以下の記事もご参照ください。
≫取締役の任期は何年がいい?
≫取締役、監査役の任期の計算方法
定款は株主総会の特別決議によって変更できる
株式会社の定款は、当該会社の株主総会の特別決議によってその内容を変更をすることが可能です。
取締役の任期に関する規定も定款の内容ですので、株主総会の特別決議によって変更をすることができます。
取締役の任期変更と、取締役の退任
取締役の任期が10年(選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで)の株式会社があったとします。
この会社の取締役であるAは平成25年6月25日の定時株主総会で選任されました。この場合、取締役Aの任期は平成35年(おそらく)6月にある定時株主総会の終結時まで、ということになりそうです。
しかし、平成28年6月30日の定時株主総会において、取締役の任期を2年とする定款変更にかかる議案が承認されました。
この場合、取締役Aの任期も2年に短縮されてしまいますので、既に3年取締役を務めている取締役Aは任期が満了することにより退任することになります。
なお、平成28年6月30日の定時株主総会において、取締役の任期を5年と変更された場合は、取締役Aもこの定款変更の影響を受け任期は平成30年(おそらく)6月にある定時株主総会の終結時までとなります。
取締役の解任と損害賠償請求
会社法第339条によると、取締役は株主総会の決議によって解任することができる旨と併せて、その2項に解任された取締役が解任によって生じた損害の賠償を請求することができるとされています。
会社と取締役は委任関係にあるところ、10年間会社の運営を任せますと取締役を選任したのに、途中で解任することにより一方的にその関係を打ち切ったのであれば、打ち切られた方(取締役)としては当初の約束と違うと主張することができそうです。
もちろん、例えば取締役が会社のお金を横領したなど、解任に正当な理由があるのであれば、当該取締役は損害賠償請求をすることはできません。
(解任)
会社法第339条1. 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2. 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
定款変更による任期短縮・退任への類推適用
東京地判平成27・6・29の判決要旨によると、定款の取締役の任期規定を変更(短縮)することにより取締役が退任をすることになる場合、会社法第339条2項を類推適用し、正当な理由がある場合を除き、当該定款変更の結果として退任することによって生じた損害の賠償を請求することができるようです。
1人株主1人取締役の会社で、今後もその状態を継続していくのであれば取締役の任期は10年で良いと思います。
しかし、取締役が複数名いるのであれば任期を10年とすると、途中で辞めてもらいたくなったような場合、辞めてもらうことは大変です。
取締役の任期を1-2年と短くしておくことにより、辞めてもらいたければ任期満了後に選任しないだけでその目的を達成することが可能です。
役員改選や登記が面倒、費用がかかるから、、、と取締役の任期を10年とするのではなく、このようなリスクも検討した上で取締役の任期を定めた方が良いでしょう。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。