商業登記関係 取締役、監査役の任期の計算方法
取締役・監査役の任期
株式会社の取締役・監査役には任期が定められており、定款に特段の定めのない株式会社においては、次のとおりとなります(監査等委員会設置会社を除く)。
取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。(会社法332条1項) | 監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。(会社法336条1項) |
公開会社ではない会社は、10年まで伸長可能 | 公開会社ではない会社は、10年まで伸長可能 |
定款により短縮可能 | 定款による短縮不可能 |
取締役・監査役の任期の計算方法
取締役を例にします。
取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで、です(会社法第332条1項)。
例えば3月末決算の会社で、定款に取締役の任期を2年(以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで)と定めている会社が、平成28年6月15日の定時株主総会で取締役Aを選任した場合、この取締役Aの任期は平成30年3月末の事業年度に関する定時株主総会の終結時まで、となります。
※増員規定や補欠規定が定款にある場合は、その規定に従います。
平成30年6月15日までという単純な2年間という計算ではありませんし、平成30年の定時株主総会を5月に行えば、5月の定時株主総会が終わった時点で任期も終わります。
なお、平成30年に定時株主総会が開催しなかった場合は、平成30年の6月末が任期満了日となります。
任期の起算日
会社法第332条1項及び会社法第336条1項にあるとおり、取締役・監査役の任期の起算点は「選任」時です。
例えば3月末決算の会社で、定款に取締役の任期を1年(以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで)と定めている会社が、平成28年3月15日に取締役Bを臨時株主総会で選任し、Bが平成28年4月5日に就任承諾をした場合の取締役Bの任期は、平成28年3月末までの事業年度に関する定時株主総会の終結まで、となります。
就任日の翌日を起算日とするとBの任期は平成29年6月頃の定時株主総会までになりますが、あくまで選任日の翌日が起算日です。
登記の原因日付
登記申請をするときは、取締役Bが就任した旨及びその日付を申請書の記載します。
就任の承諾をすることにより、初めて取締役としての地位を取得することから、上記取締役Bの就任の原因日付は平成28年4月5日となります。
登記簿には取締役Bが選任された日(平成28年3月15日)は出てきません。
任期途中に任期が伸長あるいは短縮された場合
株主総会の決議により、取締役・監査役の任期にかかる定款の内容を変更した場合、任期途中である取締役・監査役の任期はどうなるでしょうか。
結論から申し上げますと、現任の取締役・監査役の任期もその定款変更にともなって、変更後の任期の定めの効力が及ぶことになります。
取締役の任期を5年と定めている会社が任期を10年と変更した場合の取締役(選任後3年経過)は、残り2年であった任期が残り7年になりますし、取締役の任期を5年と定めている会社が任期を2年と変更した場合の取締役(選任後3年経過)は、定款変更時に任期満了となり退任することになります。
定款附則による任期調整
取締役の任期を5年と定めている会社が任期を2年と変更した場合の取締役(選任後3年経過)は、上記のとおり定款変更と同時に退任することになりますが、「平成●●年●●月●●日の定時株主総会で選任した取締役の任期は、平成●●年●●月●●日までの事業年度に関する定時株主総会の終結までとする。」のように、現任の取締役の任期だけは5年とすることも、定款に定めることにより実現することができます。
なお、当該定款の定めは将来自動的に定款から消えるわけではありませんので、当該取締役らが任期を満了した後に、当該定款の定めが自動的に消えるよう定めておく(文言を追加しておく)と、後日株主総会で定款の文言を削除する手間を省略できるでしょう。
決算期の変更と任期
例えば3月末決算の会社で、定款に取締役の任期を2年(以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで)と定めている会社が、12月末決算と変更した場合、平成28年6月に選任された取締役Xの任期はいつまででしょうか。
平成28年6月から2年以内に終了する事業年度のうち最終のもの、は平成29年12月末ですので、取締役Xの任期は、その平成29年12月末に関する定時株主総会(通常であれば平成30年2月or3月)までとなります。
補欠規定、増員規定
任期満了前に退任した取締役、監査役の補欠として選任された者の任期を前任者の任期の満了すべきときまでとする旨の定めが定款にある会社は、前任者が任期途中で退任した場合は、前任者の補欠である旨を明示して選任することによって、前任者の任期を引き継ぐことができます。
同様に、増員により選任された取締役の任期は他の在任取締役の任期の残存期間と同一とする旨の定めが定款にある会社は、増員取締役である旨を明示して選任することによって、在任取締役の任期と合わせることが可能です。
(弊所では選任時や株主総会議事録に、増員取締役として選任した旨と他の取締役と同じ任期となる旨は説明、記載するようにしています。)
この増員規定は監査役に対して定めることはできません。
補欠取締役・補欠監査役の意味
ここでいう補欠取締役・補欠監査役(会社法第336条)は、取締役・監査役の定められた人数を欠く場合に備えて予選された補欠取締役・補欠監査役(会社法第329条)とは異なります。
取締役・監査役ごとに異なる任期を定める
公開会社ではない会社においては、任期にかかる定款の内容が明確であれば可能であると解されています。
取締役Cについては5年、取締役Dについては8年、取締役Eについては10年と定めることも可能だと思います。
有限会社・合同会社の役員任期
株式会社と同じ営利法人である有限会社・合同会社には、取締役・監査役・代表社員について、任期の規定はありません。
取締役・監査役・代表社員の再任やそれにともなう登記手続きも不要です。
有限会社から株式会社へ組織変更した場合の取締役の任期
有限会社が株式会社に組織変更した場合で、有限会社の取締役がそのまま株式会社の取締役となる場合はどうでしょうか。
上記のとおり、株式会社には取締役の任期があり、有限会社には取締役の任期はありません。
有限会社が株式会社へと組織変更した場合、有限会社のときの在任期間をそのまま引き継ぐことになります。
株式会社の定款で取締役の任期を5年と定めたとしたら、有限会社の取締役が選任後3年経過している場合は残りの任期は2年であり、有限会社の取締役が選任後8年経過している場合は任期満了により退任することになります(再任可)。
会社法が施行されてから今年で10年
平成18年5月1日に施行された会社法により、非公開会社において役員の任期を10年と伸長することができるようになりました。
平成18年に就任、再任(重任)した取締役・監査役の任期を10年に変更した会社も多いかと思います。
ちょうど今年(平成28年)で会社法施行から10年経ちました。
平成28年の定時株主総会終結時に取締役・監査役の任期が満了する会社は、役員変更の登記申請を忘れないようにご注意ください。
既存の取締役・監査役と同一人物を再度選任した場合も、その旨の登記申請が必要です。
なお、役員の変更の効力が発生してから2週間以内に登記申請をしないと過料に処せられる可能性があります。
休眠会社
最後の登記から12年経過している株式会社(=12年間、何の登記申請もしていない会社)(休眠会社といいます)は、既に活動を止めてしまっている会社と判断されてしまい、一定の手続き(法務大臣による官報公告など)を経て解散をしたものとみなされてしまいます。これを「みなし解散」といいます。
最近では法務大臣による官報公告が平成26年11月17日に行われました。
任期の再確認
取締役が自分しかいない、株主含めて身内しか関係者がいないなどの理由で取締役・監査役の任期を10年にしている会社は、役員改選をする機会がなかなか無く、つい任期を忘れがちになってしまいます。
登記申請を忘れて登記懈怠・選任懈怠による過料に処せされる、休眠会社に該当して解散されてしまうことのないように、一度役員の任期を確認してはいかがでしょうか。
もし役員の任期が過ぎてしまっているときは、早急に再任等の手続き及び登記申請をすることをお勧めします。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。