商業登記関係 定時株主総会で監査役の再選の手続きを忘れてしまった
定時株主総会と監査役の再選
事業年度が毎年4月1日から翌年3月31日までという株式会社においては、5月又は6月に定時株主総会を開催することがほとんどかと思います。
定時株主総会においては、役員の任期満了に注意しなければなりません。
取締役の任期を「選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」と定款に定めている株式会社は毎年取締役の選任決議が必要となるため、取締役の選任に関する決議は忘れないでしょう。
また、会計監査人を置いている会社は、会計監査人を変更しない場合、会計監査人の選任決議は不要ですが再任の登記申請は必要です。
監査役の任期
監査役の任期は「選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(会社法第336条1項)」であり、4年という数字を、非公開会社においては、定款によって10年まで伸長することが可能です。
今年の定時株主総会の終結時に取締役・監査役の任期が切れるにも関わらず、定時株主総会において取締役は選任したが、監査役の選任をし忘れてしまった場合はどうすればいいでしょうか。
選任懈怠と権利義務監査役
任期が満了した監査役は退任します。
ところで、監査役が欠けた場合又は会社法若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了により退任した監査役は、新たに選任された監査役が就任するまで、なお役員としての権利義務を有するとされています(会社法第346条1項)。
そのため、監査役設置会社で、監査役が1名しかいない株式会社においては、当該監査役が任期満了により退任しても、引き続き権利義務監査役として監査役の業務を遂行することになります。
一方で、定款に「当会社の監査役は、1名以上とする。」と定めている監査役設置会社において、監査役A(今年任期満了)と監査役B(来年任期満了)という場合は、監査役Aは定時株主総会の終結時に退任してしまいますので、それ以降監査役の業務を行うことができません。
株主総会を選任する
監査役は株主総会の決議によって選任します。これは定時株主総会に限られませんので、臨時株主総会で監査役を選任することも可能です。
なお、監査役選任の決議要件は特殊普通決議であり、定款によっても定足数を3分の1より低減することができません。
- 株主総会の開催
- 監査役の就任承諾
- 登記申請
という流れで手続きを進めていきます。
株主総会の開催
取締役の決定(取締役会の決議)によって、株主総会を開催することを決定します。
監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数)の同意を得なければならないとされていますので(会社法第343条1項)、監査役の同意を得ておきます。
株主総会を開催し、監査役を選任します。
株主が1名の株式会社であれば、招集通知を送って数日後に株主総会を開催するよりも、株主の同意を得て招集手続きを省略するか(会社法第300条)、いわゆる書面決議(会社法第319条1項)が用いられることが多いでしょう。
監査役の就任承諾
株主総会で監査役に選任された人は、その就任を承諾することによって監査役になります。
就任承諾書に監査役の記名押印又は署名をもらっておきましょう。
なお、登記手続きにおいては監査役がその就任を承諾したことを証する書面が求められ、その書面に代わり株主総会議事録を援用することも可能とされています。
≫株主総会議事録を取締役、監査役の就任承諾を証する書面として援用する
みなし株主総会議事録(会社法第319条1項)を使用するときは、当該議事録を就任承諾を証する書面として援用することはできませんのでご注意ください。
登記申請
監査役が就任承諾をした時から2週間以内に、一例として次の書類を添付して法務局へ登記申請を行います。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任承諾書
選任された監査役につき、その退任と就任の登記を一つの申請で行う場合は、本人確認証明書は不要とされています。
登記申請書に記載する監査役の退任日は、その終結時に監査役の任期が満了する定時株主総会の開催日です。
仮に、2020年6月25日に定時株主総会(終結時に監査役Xの任期満了)が開催され、2020年8月10日の臨時株主総会で監査役Xが選任された場合は、
- 監査役X 2020年6月25日退任
- 監査役X 2020年8月10日選任
となります。
上記の例で、2020年8月10日付け臨時株主総会議事録には、監査役が2020年6月25日に任期が満了し退任している旨を記載しておきます。
第1号議案 監査役選任の件
議長は、2020年6月25日付けの定時株主総会終結の時をもって監査役全員が任期満了により退任しているため、改めて監査役として下記の者を選任したい旨を説明し、本議案の賛否を議場に諮ったところ、満場一致をもって原案どおり承認可決された。
記
汐留太郎
なお、被選任者は即時就任を承諾した。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。