商業登記関係 株主総会議事録を取締役、監査役の就任承諾を証する書面として援用する
取締役、監査役の変更登記と就任承諾書
取締役及び監査役(以下、併せて「役員」といいます)が就任するときは、株主総会の決議による選任とその就任承諾が必要です。
そして、役員の就任(重任)登記の申請書にはその就任を承諾したことを証する書面を添付しなければなりません(商業登記法第54条1項)。
就任を承諾したことを証する書面の典型的なものは「就任承諾書」です。
一方で、就任を承諾したことを証する書面として、一定の要件を満たした株主総会議事録を用いることも可能とされています。
株主総会議事録の記載を援用する
役員の就任(重任)に係る変更登記の申請書には、その就任を承諾したことを証する書面の添付が求められています。
上記のとおり、就任承諾書に代わり、株主総会議事録の記載を援用することも可能です。
就任承諾書の代わりに株主総会議事録の記載を援用するとき、次のような点に注意が必要です。
就任を承諾した旨の記載
就任承諾書の代わりに株主総会議事録の記載を援用するときは、選任された役員がその就任を承諾していることを議事録から読み取れなくてはなりません。
役員の選任議案の最後に、
等と記載します。
「席上就任を承諾した。」「即時就任を承諾した。」等のように、選任された役員がその場で就任を承諾していることが分かるようにしておくことがベターです。
「被選任者は、その就任を承諾した。」でも登記審査が通るケースもあったように思いますが、法務局によっては補正の連絡が入ることがあったため、「席上」や「即時」の文字があった方が無難でしょう。
就任を承諾した旨の報告
株主総会議事録の記載を就任承諾書の代わりとして援用するには、その就任承諾をした役員が当該株主総会に出席をして、その場で就任承諾をした旨の記載が必要です。
議長や株主、出席役員等が、選任された取締役が就任承諾をした(していた)ことを株主総会で報告した旨の記載が株主総会議事録にあったとしても、当該議事録は就任承諾書の代わりにはなりません。
みなし株主総会と就任の承諾を証する書面の援用
みなし株主総会の場合は、株主が集まって実際に株主総会を開催しているわけではないため、株主総会中に席上で就任の承諾をすることはできません。
そのため、みなし株主総会で役員を選任したときは、必ず当該役員の就任承諾書を用意しなければならないことになります。
取締役となる時期と出席取締役
ある取締役Aが第10回定時株主総会の終結時に任期満了する場合において、取締役Aの後任として取締役Bが選任された場合、当該株主総会において取締役Bが席上で就任承諾をしたとしても、その就任の効力が発生するタイミングは当該株主総会が終結した時です。
そのため、取締役Bは当該株主総会の株主総会議事録に記載する「出席取締役」ではないということになります。
既に辞任している取締役の後任取締役や、増員取締役が株主総会の中で選任され即時就任を承諾したのであれば、当該取締役は「出席取締役」に該当します。
取締役候補者として議事録に記載
就任承諾書として株主総会議事録の記載を援用するには、就任した役員が出席していたことが当該議事録の記載から分かることが望ましいとされています。
一方で、上記取締役Bは出席役員としてその氏名は記載することができません。
どうすれば良いか難しい問題ではありますが、当事務所では出席取締役欄に「取締役候補者」として取締役Bの氏名を記載しています。
就任した役員の押印は必要か
会社法上は株主総会議事録への押印義務はなく、定款に別段の定めがない限り、議長・議事録作成者である代表取締役が会社実印を押印する会社が多いのではないでしょうか。
定款に次のように定められている会社の株主総会議事録には、「議長及び出席した取締役」が署名若しくは記名押印(以下、併せて単に「記名押印」といいます)をします。
就任承諾書に代わり株主総会議事録の記載を援用するときに、新任の役員の記名押印は必ずしも求められている事項ではありませんので、今回選任された役員以外の者が議長・議事録作成者として記名押印をしている株主総会議事録でも問題ありません。
(選任され、就任承諾をした役員の押印は必須ではありません。)
なお、新任の取締役が出席取締役に該当し、定款に出席取締役も議事録に記名押印すると定められている場合は、定款の定めに従い記名押印してください。
登記申請書への記載
役員の就任登記の申請書には、就任承諾を証する書面として株主総会議事録の記載を援用することを登記官へ示すために、添付書類の記載欄に、
等と記載します。
新規就任役員と本人確認証明書
新たに次の役員が就任するときは、その変更登記の申請書に本人確認証明書の添付が義務付けられています。
- 取締役会設置会社の取締役
- 監査役
就任承諾書に記載されている役員の住所・氏名と、本人確認証明書に記載されている当該役員の住所・氏名が一致していることは、登記官のチェック事項とされています。
(東京都中央区銀座1-1-1と東京都中央区銀座一丁目1番1号は一致していると認識されます。)
そのため、新たに選任された役員に関する変更登記の申請につき、就任承諾書として株主総会議事録の記載を援用するときは、当該株主総会議事録に選任された役員の氏名だけではなく、その住所も記載されていなければなりません。
なお、再任(重任)の場合は本人確認証明書の添付が不要ですので、就任承諾書や株主総会議事録には、当該役員の住所が記載されていなくても登記手続き上は問題ありません。
役員の就任と印鑑証明書
取締役会非設置会社の取締役Cが新たに就任するときは、その就任の承諾を証する書面に個人実印を押印し、加えて印鑑証明書の添付が求められます。
取締役Cの就任承諾書として株主総会議事録の記載を援用するときは、当該議事録に取締役Cの住所・氏名が記載されていて、かつ出席取締役等として個人実印を押印している必要があります。
当該議事録にその旨の記載や押印が無いのであれば、就任を承諾したことを証する書面として使用することはできませんので、別途就任承諾書を用意して記名押印することになるでしょう。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。