商業登記関係 司法書士が株式交換の手続きに関与するときに気を付けている点
株式交換と登記手続き
グループ会社を整理するときやM&Aの場面等において、株式交換の手法が採られることがあります。
株式交換の手続きについては、こちらの記事をご確認ください。
税務的なことは税理士の先生にお任せするとして、司法書士の視点からは次のような点に注意をしています。
あくまで一例ですので、各会社の状況に応じて適切な手続きを踏んでいただければと思います(例:種類株式発行会社、存続会社が合同会社等)。
ここでは株式交換完全親会社を完全親会社、株式交換完全子会社を完全子会社と表現し、株式交換の対価を完全親会社の株式であることを前提としています。
株式交換の対価
株式交換の対価につき、完全子会社の株主に対して完全親会社の株式を交付するケースが多いのではないでしょうか。
ほとんどのケースでは税理士の先生が関与しているため、完全親会社及び完全子会社の株価を算定した上で株式交換に臨むことになります。
完全親会社は資本金1000万円で1000株発行しているから1株1万円、完全子会社は資本金100万円で20株発行しているから1株5万円、のように1株の価格を資本金から単純計算しているケースは見たことがありませんが、交換比率は必ず税理士の先生に確認をした方がいいでしょう。
株券発行会社と株券提供公告
完全子会社が株券発行会社で株券を発行している場合は、株券を提出しなければならない旨を株券提出日の1ヶ月前までに公告し、かつ、各別にこれを通知します(会社法第219条1項)。
この公告をしたことを証する書面は、株式交換の登記申請の添付書類となるため、株券提供公告の手続きを無視することはできません。
ただし、当該株式の全部について株券を発行していない場合は株券提供公告+株主への当該通知は不要となりますので、子会社が株券発行会社であるケースでは実際に株券を発行しているかどうか確認します。
株式交換を機に、株式交換の前後で株券不発行会社へ移行することもあるでしょう。
完全子会社が公開会社
完全子会社が公開会社であり完全親会社が非公開会社の場合、完全子会社の株主総会において株式交換契約を承認するときは、「特別決議」ではなく「特殊決議」が求められます(会社法第309条3項、会社法第783条1項)。
完全親会社の監査役と完全子会社の取締役
監査役は、その子会社の取締役若しくは支配人その他の使用人又は当該子会社の会計参与若しくは執行役を兼ねることができません(会社法第335条2項)。
株式交換をした結果、完全親会社の監査役と完全子会社の取締役が同一人物となる場合は、どちらかの役職を退任する必要が生じます。
特に、役員や株主が親族のみで構成されている株式会社同士の株式交換においては、この兼任禁止規定に抵触しないよう注意します。
完全親会社の対価が自己株式
株式交換の対価として完全親会社の株式を完全子会社の株主に交付するケースで、その交付する株式が完全親会社の自己株式であることがあります。
この場合、増加しする親会社の発行済株式数や株主資本等変動額に注意します。
完全子会社の株式の対価が全て完全親会社の自己株式であれば、親会社の発行済株式数は増えないため、株式交換の手続きにおいて登記申請が不要というケースもあるでしょう。
完全子会社の自己株式に対する対価
完全子会社の自己株式も株式交換の対象となりますので、完全子会社の自己株式に対しても完全親会社が対価を交付します。
この対価が完全親会社の株式であるときは、株式交換をした結果、完全子会社が完全親会社の株式を保有するという事態が生じます。
そうならないよう、株式交換の効力が生じるまでに完全子会社が自己株式を消却することがほとんどですので、株式交換をする際は完全子会社が自己株式を保有していないか注意します。
完全親会社の保有する完全子会社の株式
完全親会社は、株式交換の効力発生日に、完全子会社の発行済株式の全部を取得します(会社法第769条1項)。
このときに、株式交換の効力発生より前に完全親会社が完全子会社の株式を保有している場合は、当該株式につき完全親会社がその対価を支払うということはありません。
完全子会社が保有している完全子会社株式(自己株式)にはその対価が交付されますが、完全親会社が保有する完全子会社株式に対してはその対価が交付されないということです。
完全子会社の発行済株式が100株、そのうち完全親会社が20株保有していたときは、完全親会社以外の(完全子会社の)株主が保有している80株に対して完全親会社が対価を支払うことになります。
株式交換の対価が完全親会社の株式であるときは、株式交換の際に完全親会社が発行する株式数につき、完全親会社が保有する完全子会社の株式に対して対価を交付しないよう注意します。
新株予約権付社債と債権者保護手続き
新株予約権付社債を発行している会社はそう多くはありません。
もし、完全子会社が新株予約権付社債を発行しているときは、当該社債権者につき債権者保護手続きが必要となります。
完全親会社において債権者保護手続きが必要となるケースもありますが、完全子会社が新株予約権付社債を発行している場合を除き、ケースとしてはあまりないかもしれません。
≫株式交換の手続きにおいて債権者保護手続きが必要となるとき
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。