商業登記関係 株式交換の手続きと登記
株式交換
会社法第2条によると、株式交換とは、株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社または合同会社に取得させることをいいます。
以下、株式交換によって相手の発行済株式の全部を取得する会社を完全親会社、完全親会社に全部の発行済株式を取得される会社を完全子会社といいます。
完全親会社は1社となりますが、完全子会社は2社以上でも問題ありません。
株式交換の当事会社となれるのは、上記のとおり<株式会社>と<合同会社>のみです。
特例有限会社と株式交換
特例有限会社は株式交換における完全親会社にも完全子会社にもなることができません。
特例有限会社が株式交換を行う場合は、その前提として特例有限会社を株式会社へ移行しなくてはなりませんので、この手続きもスケジュールに組み込む必要があります。
株式交換のスケジュール
4月1日を効力発生日とするスケジュール例です。
2月中旬 | 株式交換の準備 (株式交換契約内容の確認等) | 株式交換の準備 (株式交換契約内容の確認等) |
2月25日 | 取締役会決議 (株式交換契約の承認、株主総会の招集決定) | 取締役会決議 (株式交換契約の承認、株主総会の招集決定) |
2月26日 | 株式交換契約の締結 契約書等の事前備置 | 株式交換契約の締結 契約書等の事前備置 |
3月5日 | 株主総会招集通知 反対株主等への通知 | 株主総会招集通知 反対株主等への通知 |
3月25日 | 株主総会決議 (株式交換契約の承認) | 株主総会決議 (株式交換契約の承認) |
4月1日 | 株式交換の効力発生 | 株式交換の効力発生 |
4月1日以降 | 株式交換の登記申請 (2週間以内) 株式交換に関する書類の事後備置 | 株式交換の登記申請 (2週間以内) 株式交換に関する書類の事後備置 |
※完全子会社で登記申請が必要となるケースは少ないかもしれません。
株式交換における債権者保護手続きと株券等提供公告
組織再編において時間のかかるものとして、官報公告等による債権者保護手続き(1ヶ月間)があります。
株式交換においては、債権者保護手続きが必要となるのは、
- 完全子会社の株主に対する株式交換の対価が株式以外の場合
- 完全親会社が完全子会社の新株予約権付社債を承継したとき
に限られていますので、債権者保護手続きが必要なケースは多くはありません。
また、完全子会社が株券発行会社であるときは株券等提供公告(1ヶ月)も必要となりますが、完全子会社の株主が1名2名と少数であれば、株主全員に株券不所持の申出をしてもらうことにより、上記公告(及び通知)をしなくて済みます。
手続き上、債権者保護手続き、株券等提供公告、あるいは有限会社の株式会社への組織変更をする必要があるのであれば、それを考慮したスケジュールに組み直す必要があります。
株式交換の一般的な手続き
株式交換の一般的な手続きは次のとおりです。
株式交換を行う会社の事情等により、株式交換以外の手続きを併せて行うケースもあるでしょう。
手続きに瑕疵があると株式交換が無効となる可能性がありますので、株式交換の手続きが不安な方は、司法書士に相談することをお勧めします。
株式交換契約の締結
株式交換をする会社は、株式交換契約を締結しなければなりません(会社法第767条)。
株式交換契約書には最低限、次の事項を定める必要があります(会社法第768条1項)。
- 完全親会社・完全子会社の商号・住所
- 株式交換の対価等と割当てに関する事項
- 効力発生日
書面の事前備置
完全親会社・完全会社は株主総会開催日の2週間前等の会社法で定められた日から、一定の事項を記載した書面等を本店に備え置かなければなりません(会社法第782条、同法第794条)。
完全親会社・完全子会社ともに、効力発生日から6ヶ月を経過するまで備え置きます。
以下は、事前開示書類に記載する一定の事項の一例です。
<完全子会社>
- 株式交換契約の内容
- 株式交換の対価の相当性に関する事項
- 株式交換の対価について参考となるべき事項
- 計算書類等に関する事項
- 効力発生日以降に完全親会社の債務の履行の見込みに関する事項
(株式交換について異議を述べることができる債権者がいるとき)
<完全親会社>
- 株式交換契約の内容
- 株式交換の対価の相当性に関する事項
- 計算書類等に関する事項
- 効力発生日以降に完全親会社の債務の履行の見込みに関する事項
(株式交換について異議を述べることができる債権者がいるとき)
債権者保護手続き
債権者保護手続きの必要な株式交換においては、官報公告によって、株式交換をすること、株式交換をする相手の商号・住所、原則として貸借対照表の要旨、債権者が一定期間異議を述べることができる旨を掲載しなければなりません。
これは会社の公告方法として日刊新聞紙や電子公告を定めている場合も同様です。
株式交換公告と一緒に貸借対照表の要旨も掲載する場合は、官報申込みから10~11営業日程度、貸借対照表の要旨を掲載しない場合は5~6営業日程度、申込みから掲載まで要します。
但し、株式交換において債権者保護手続きが必要となるのは、次のケースに限られています。
- 完全子会社の株主に対する株式交換の対価が株式以外の場合
- 完全親会社が完全子会社の新株予約権付社債を承継したとき
債権者への個別催告
債権者保護手続きの必要な株式交換においては、官報公告と併せて、各債権者への各別の催告も必要とされています。
(しつこいようですが、債権者保護手続きの必要な株式交換は多くありません。)
この各債権者への催告は、定款で公告方法を日刊新聞紙や電子公告と定めているときは、官報公告に加えて定款の公告方法による公告を行うことにより省略することができます。
公告方法が官報である会社は、公告方法を変更しない限り、各債権者への催告を省略をすることはできません。
完全子会社の株券等提出公告
完全子会社が株券等を発行をしている株式会社である場合は、効力発生日の1ヶ月以上前の日までに、株券等の提出公告及び各株主等への通知が必要とされています。
株券発行会社においても、実際に株券を発行していない会社はこの手続きは不要です。
完全子会社が株券発行会社でその株主が1名2名と少数であれば、株主全員に株券不所持の申出をしてもらうことにより、上記公告及び通知をしなくて済ませることができます。
株主総会招集通知と反対株主等への通知
株主総会を開催するときは、原則として総会日の1週間前、公開会社においては2週間前までに招集通知を発送しなければなりません。
非公開会社でかつ取締役会非設置である会社は、定款で1週間よりも短い期間にすることも可能です。
1週間前に招集通知を発送する必要のある会社は、発送日から株主総会開催日まで、まる7日間が必要となります。例えば3月25日(水曜日)に株主総会を開催するときは、3月17日(火曜日)までに招集通知を発送しなければなりません。
なお、書面投票または電子投票を実施する場合は、非公開会社においても2週間前までに招集通知を発送する必要があります。
完全親会社・完全子会社ともに、その株主等に対して、効力発生日の20日前までに株式交換をする旨等を通知または公告をする必要がありますが、これを単独でする必要はなく、株主総会の招集通知と併せて通知をしたりすることもできます。
株主総会の決議
簡易株式交換や略式株式交換の場合は、一定の場合を除き株主総会の決議は不要となりますが、原則として株式交換の効力発生日の前日までに株主総会の【特別決議】による承認が必要となります。
但し、完全子会社が公開会社で、合併の対価が譲渡制限株式である場合は、完全子会社の株主総会の【特殊決議】が必要となります。
また、株式交換の対価が持分会社の持分である場合は、完全子会社の【総株主の同意】が必要となります。
≫株主総会とその決議要件(普通決議、特別決議、特殊決議 他)
完全子会社が種類株式発行会社である場合は、種類株式にかかる種類株主総会の決議も必要となるケースがあります。
株式交換の効力発生
株式交換においては、登記が効力発生要件ではないため、株式交換契約書において効力発生日と定めた日に株式交換の効力が発生します。
そのため、効力発生日として法務局が開いていない土日祝日を定めることも可能です。
株式交換の登記申請
株式交換の登記は、効力発生日から2週間以内に、完全親会社の変更登記と完全子会社の変更登記を同時に申請しなければなりません。
変更登記を同時に申請するとは、親会社の管轄法務局に両方の登記を、実務上登記申請書に連番を記載して申請することをいいます。
完全子会社について変更登記をする必要が発生することは、あまりありません。
なお、完全子会社の新株予約権を、完全親会社が承継したようなケースでは完全子会社の登記申請も必要となります。
完全親会社についても、株式交換の対価が全て自己株式であったため発行済株式も資本金も変わらないようなケースでは、登記申請をする必要がありません。
株式交換の登記に係る添付書類
株式交換の登記申請に添付する書類の一例は次のとおりです。
登記申請の内容、会社のご事情に応じて必要となる書類を添付ください。
<完全親会社にかかる登記申請添付書類>
- 株式交換契約書
- 株式交換契約を承認した株主総会議事録(完全親会社・完全子会社)
- 債権者保護手続き関係書面(必要であれば)
- 株券提供公告をしたことを証する書面
(または株券を発行していないことを証する書面・・・株主名簿など) - 完全子会社の登記事項証明書(完全子会社と管轄法務局が異なる場合)
※完全子会社の会社法人等番号を記載した場合は不要 - 資本金の計上証明書
- 株主リスト(完全親会社・完全子会社)
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
<完全子会社にかかる登記申請添付書類>
- 印鑑証明書(完全親会社と管轄法務局が異なる場合)
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
書面の事後備置
完全親会社・完全子会社は、吸収合併の効力発生日以後遅滞なく、法務省令で定められている事項につき記載した書面または電磁的記録を作成しなければならず、効力発生日から6ヶ月間会社の本店に備え置かなければなりません(会社法第801条)
法務省令で定められている事項とは、株式交換の効力が発生した日、株式交換により完全親会社に移転した完全子会社の株式の数及び種類等です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。