商業登記関係 マンション管理組合法人の理事の再任手続きと登記
マンション管理組合法人の役員
マンション管理組合法人には理事を置かなければならず(建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」といいます)第49条1項)、また監事を置かなければなりません(区分所有法第50条1項)。
理事と監事は兼ねることができませんので(区分所有法第50条2項)、マンション管理組合法人には少なくとも理事1名、監事1名の計2名が必要ということになります。
理事が複数いるときは、各理事がマンション管理組合法人を代表しますが(管理組合法人第49条4項)、規約の定め等によって複数の理事の中からマンション管理組合法人を代表すべき理事を定めることが可能です(区分所有法第49条5項)。
そのため、複数の理事がいるマンション管理組合法人においては、特定の理事を当該法人を代表すべき理事としているケースが多いのではないでしょうか。
ここでは理事が複数いて、その中から代表すべき理事が1名選定されているマンション管理組合法人を前提としており、この代表すべき理事を「理事長」と表現しています。
マンション管理組合法人の役員に関する登記事項
マンション管理組合法人の登記事項は次のとおりです(組合等登記令第2条2項)。
- 目的及び業務
- 名称
- 事務所の所在場所
- 代表権を有する者の氏名、住所及び資格
- 共同代表の定めがあるときは、その定め
- 存続期間又は解散の事由を定めたときは、その期間又は事由
役員に関する登記事項としては上記「4」「5」が該当し、代表権を有する者が1名の場合は「5」は不要です。
なお、「代表権を有する者の資格」は、理事長や代表理事として選定されている理事についても、その資格名は「理事長」や「代表理事」とは登記されず「理事」として登記されます。
理事の再任手続き
上記のとおりマンション管理組合法人においては、代表権を有する理事(以下「理事長」と表現します)の氏名及び住所が登記事項とされていますので、当該理事に変更が生じたときはその旨の登記申請を行います。
また、理事長が交代等しなくても、当該理事が任期満了によって再任されたときは、その旨の登記申請を行わなければなりません。
ここでは、理事長が再任する場合の手続きを見ていきます。
理事の任期
理事には任期があり、規約に別段の定めがない限り、理事の任期は2年です(区分所有法第49条6項)。
この任期は、規約に定めることにより、3年以内において別段の期間を定めることができます(区分所有法第49条6項ただし書き)。
2年という確定任期だと集会等を開催するタイミングに悩むマンション管理組合法人もあるため、株式会社の取締役の任期のような定め方を規約にすると柔軟性があるでしょうか(選任後●年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時集会(別途定義)の終結の時までとする等)。
集会の開催、理事の選任
理事は、原則として集会の決議によって選任します(区分所有法第25条1項、第49条8項)。
集会の招集の通知は、規約に別段の定めがない限り、会日より少なくとも1週間前に、会議の目的たる事項を示して、各区分所有者に発します(区分所有法第35条1項)。
理事の選任は、規約等に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決定します(区分所有法第39条1項)。
理事の互選
理事が数人あるときは各理事がマンション管理組合法人を代表しますが、規約若しくは集会の決議によって、理事の中から理事長を定めることも可能です(管理組合法人第49条5項)。
理事が数人いて、かつ理事長の選定方法を「理事の互選」と規約に定めている場合は、理事の互選によって理事長を選定します。
理事の互選によって代表する理事を選定する場を理事会と称してもよく、この理事会の議事録(理事会議事録)を理事長の選定を証する書面として使用することができます。
集会で理事長を選定するマンション管理組合法人は、集会議事録が理事長の選定を証する書面となります。
理事及び理事長の就任承諾
選任された理事は、その就任の承諾をすることによって理事の職に就きます。
理事の互選等によって理事長を選定したときは、理事長としての就任の承諾も必要です。
口頭でも就任承諾の効力は生じますが、登記手続きとの関係で、選任の場での席上就任(+議事録への記載)あるいは就任承諾書をもらっておく良いかもしれません(下記「添付書類」参照)。
理事の再任登記
理事長が任期満了したことにより退任し、当該理事長が再任したときは、再任したときから2週間以内にその旨の登記申請を管轄法務局へ行います。
退任と就任のタイミングがズレてしまい、再任とならないときは、退任+就任した旨の登記申請を行います。
添付書類
理事が複数いるマンション管理組合法人の理事長再任の登記申請の添付書類の一例は次のとおりです。
<理事長を理事の互選で選定すると規約で定められているケース>
- 集会議事録
- 理事の互選を証する書面
- 就任承諾書(理事及び理事長として)※理事長分
- 規約
<集会で代表する理事を定めるケース>
- 集会議事録
- 就任承諾書(理事及び理事長として)※理事長分
集会や理事の互選の場において、席上で理事及び理事長が就任を承諾し、その旨の記載が議事録にある場合には、就任承諾書の添付を省略することが可能です。
集会議事録への押印
集会の議事については、議長は、書面又は電磁的記録により議事録を作成しなければならず、議事録には議事の経過の要領及びその結果を記載し、又は記録しなければなりません(区分所有法第42条1項、2項)。
多くの管理組合法人においては、この集会議事録は書面で作成されているのではないでしょうか。
書面で作成された集会議事録には、議長及び集会に出席した区分所有者の2人がこれに署名押印しなければならないとされています(区分所有法第42条3項)。
この押印につき、区分所有法上は押印する印鑑の指定はありませんが、集会で理事長を再任したときの集会議事録には、理事長が法人実印を押印しておくことが一般的です(事項参照)。
理事の印鑑証明書の要否
理事長再任の登記手続きにおいて、理事長を選定した書面につき、理事長が法人実印を押した場合を除き、記名押印した人全員の印鑑証明書が求められます。
理事長を選定したことを証する書面につき、理事長が法人実印を押印することにより、記名押印者全員の印鑑証明書の添付を不要とすることが可能です。
ここでは理事長が再任するケースを記載していますが、理事長が交代する場合で、変更前の理事長が記名押印しない(できない)場合は、記名押印者全員の実印押印+印鑑証明書が必須となります。
集会議事録の記名押印者は前述のとおりですが、理事の互選によって理事長を定めた場合には、少なくとも理事の過半数の一致があったことを証する書面に押された互選に係る同意をした理事全員が記名押印します。
登録免許税
マンション管理組合法人の変更登記に登録免許税はかかりません。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。