商業登記関係 権利義務代表取締役になる場合、ならない場合
代表取締役としての権利義務を有する
株式会社において、代表取締役が欠けた場合又は定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した代表取締役は、新たに選定された代表取締役が就任するまで、なお代表取締役としての権利義務を有します(会社法第351条1項)。
特定のケースにおいては、取締役を辞任したり、代表取締役を辞任したとしても、代表取締役としての職務を執行し続けなければならないということがあります。
代表取締役が欠けた場合とは、代表取締役が1名もいなくなってしまうケースを指します。
また、定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合とは、定款に「当会社の代表取締役は、2名以上とする。」等の定めを置いている株式会社において、代表取締役が1名以下となってしまうケースを指します。
上記「代表取締役としての権利義務を有」する者を、ここでは権利義務代表取締役といいます。
任期の満了又は辞任により退任した代表取締役
任期満了により退任した代表取締役とは、当該取締役の任期が満了して取締役を退任(結果として代表取締役も退任)した代表取締役を指します。
辞任により退任した代表取締役とは、取締役を辞任した代表取締役や、代表取締役の地位のみ辞任した代表取締役を指します。
代表取締役の地位は取締役の地位を前提としている関係上、退任した代表取締役が権利義務代表取締役に該当するかどうかはシンプルではないケースがあります。
権利義務代表取締役になる場合、ならない場合
代表取締役たる取締役が、取締役を任期の満了又は辞任により退任したときに、当該取締役が権利義務代表取締役になるかどうかは、登記簿と定款をよく確認する必要があります。
まず、任期の満了又は辞任により退任した取締役がそもそも権利義務取締役にならなければ権利義務代表取締役とはなりません。
例えば、権利義務代表取締役になるケースとしてシンプルな例は次のとおりです。
- 取締役会設置会社
- 任期中の取締役ABC
- 代表取締役A
上記の株式会社において取締役Aが辞任したときは、Aは権利義務取締役に該当します。
Aが代表取締役を退任すると代表取締役が欠けた場合に該当するため、Aは権利義務代表取締役となります。
取締役の任期がこれから満了する場合
任期中の取締役がこれから満了する場合はどうでしょうか。
- 取締役会設置会社
- 任期中の取締役ABC
- 代表取締役A
上記の株式会社において、取締役全員の任期が2021年3月20日付け定時株主総会の終結時に満了するとします。
当該定時株主総会において取締役が3名以上選任されなかった、あるいは選任されたけれども彼らが就任の承諾をしなかったときは、Aは権利義務代表取締役となります。
取締役の任期が既に満了している場合
取締役全員の任期が既に満了している会社は少なからずあります。
- 取締役会設置会社
- 任期が満了している取締役ABC
- 代表取締役A
上記の株式会社において、任期満了後にAが代表取締役に選定されていない限り、Aは既に権利義務代表取締役となっています。
ところで、Aは権利義務取締役であるため取締役を辞任することができません。
同様に、Aが権利義務代表取締役である場合、Aは権利義務代表取締役の地位のみを辞任することもできません。
取締役の辞任後に取締役1名追加する場合①
取締役が辞任するときに、後任が就任する場合があります。
- 取締役会設置会社
- 任期中の取締役ABC
- 代表取締役A
上記の株式会社において、Aが取締役を辞任したときは、Aは権利義務取締役であり権利義務代表取締役となります。
その後、(取締役BCが任期中に)Dが取締役に就任したときは、Aは権利義務取締役ではなくなるため、Dが取締役に就任すると同時にAは権利義務代表取締役ではなくなります。
取締役の辞任後に取締役1名追加する場合②
取締役が辞任し、後任の取締役が選任されない間に、他の取締役の任期が満了する場合はどうでしょうか。
- 取締役会設置会社
- 任期中の取締役ABC
- 代表取締役A
上記の株式会社において、Aが取締役を辞任したときは、Aは権利義務取締役であり権利義務代表取締役となります。
その後、取締役BCの任期が満了した後にDが取締役に就任したとしても、Aの権利義務取締役の地位は継続するため、Aは権利義務代表取締役のままです。
もっとも、取締役を辞任した者(A)が代表取締役の権利義務を有している状態が望ましくないと考えると、他の取締役(例えばD)を代表取締役として選定することが考えられます。
取締役の辞任後に取締役1名追加する場合③
取締役が複数名同時に辞任し、後任の取締役が1名しか就任しない場合があります。
- 取締役会設置会社
- 任期中の取締役ABC
- 代表取締役A
上記の株式会社において、ABが取締役を辞任したときは、Aは権利義務取締役であり権利義務代表取締役となります。
その後、(取締役Cが任期中に)Dが取締役に就任したとしても、Aの権利義務取締役の地位は継続するため、Aは権利義務代表取締役のままです。
なお、前項と同様に、Dを代表取締役として選定し、Aを権利義務代表取締役から外すことは考えられます。
辞任する取締役が権利義務取締役とならない場合①
取締役を辞任する代表取締役たる取締役が、権利義務取締役とはならない場合があります。
- 取締役会設置会社
- 任期中の取締役ABCD
- 代表取締役A
上記の株式会社において、Aが取締役を辞任したときはAは権利義務取締役とはならないため、取締役を辞任することができます。
取締役ではなくなったAは、権利義務代表取締役にもなりません。
一般的には、Aが辞任するタイミングで新たな代表取締役を選定することがほとんどでしょう。
辞任する取締役が権利義務取締役とならない場合②
辞任する取締役の後任がすぐに就任する場合はどうでしょうか。
- 取締役会設置会社
- 任期中の取締役ABC
- 代表取締役A
上記の株式会社において、Aが取締役を辞任すると同時に取締役Dが就任するときは、Aは権利義務取締役とはなりません。
取締役ではなくなったAは、権利義務代表取締役にはなりません。
代表取締役が複数いる場合
代表取締役が複数いて、その一部が辞任した場合はどうでしょうか。
- 取締役会設置会社
- 任期中の取締役ABC
- 代表取締役AB
上記の株式会社において、取締役Aが辞任したときは、Aは権利義務取締役となりますが、代表取締役としてBがいますので、Aは権利義務代表取締役とはなりません。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。