商業登記関係 株式会社の種類株式に関する登記事項は何でしょうか
株式会社の登記事項
株式会社の登記事項は会社法第911条3項に定められており、種類株式を新たに設定(変更)したときに変更が生じる項目は次のとおりです。
なお、以下公開会社以外の会社(非公開会社)で、かつ、初めて種類株式(A種優先株式)を設定するケースを前提としています。
- 発行可能株式総数(変わらないこともあり)
- 発行する株式の内容(種類株式発行会社にあっては、発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容)
A種優先株式を設定するときは、それに基づいて資金調達を行うことがほとんどですから、A種優先株式を新たに発行したときは次の項目にも変更が生じます。
- 資本金の額
- 発行済株式の総数並びにその種類及び種類ごとの数
種類株式の内容を登記する
種類株式の内容は「発行する株式の内容(種類株式発行会社にあっては、発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容)(会社法第911条3項7号)」に該当します。
そのため、当該定款変更の効力が生じてから2週間以内にその変更登記を管轄法務局へ申請します。
種類株式の内容は、登記簿の「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」に記載されます。
余談ではありますが、登記簿のボリュームは主に種類株式と新株予約権が膨らませるため、会社の役員を登記簿から確認するときに、種類株式と新株予約権の間にある役員欄を探すことに毎回少し苦労します。
種類株式の登記事項
A種優先株式の内容として登記する事項は、原則として、会社法第108条1項に該当する事項です。
以下はあくまで一般例となりますので、各種類株式の内容によって登記するしないを判断していきます。
剰余金の配当
剰余金の配当(会社法第108条1項1号)に関する事項は登記事項です。
A種優先株式の優先配当額の調整式がある場合は、剰余金の配当に関する事項として、当該調整式も登記します。
また、参加型か非参加型か、累積型か非累積型かの定めがあれば同様に登記します。
なお、剰余金の配当につき、A種優先株式が優先も劣後もしていない(普通株式と同列)であれば、必ずしも当該事項を登記する必要はありません。
残余財産の分配
残余財産の分配(会社法第108条1項2号)に関する事項は登記事項です。
A種優先株式の優先分配額の調整式がある場合は、残余財産の分配に関する事項として、当該調整式も登記します。
なお、残余財産の分配につき、A種優先株式が優先も劣後もしていない(普通株式と同列)であれば、必ずしも当該事項を登記する必要はありません。
黄金株の導入や親族からの資金調達ではなく、VC等からの資金調達の場合は残余財産の分配はほぼ必ず入っています。
株主総会において議決権を行使することができる事項
議決権を行使することができる事項(会社法第108条1項3号)は登記事項です。
議決権を行使することができる事項につき、特に制限を設けない場合は必ずしも登記する必要はありません。
会社法第322条2項の定款の定めがある場合はその旨を登記することができ、会社法第199条4項の定款の定め及び会社法第238条4項の定めについては登記することができません。
登記する実益はさておき、議決権がある旨や1株につき1議決権がある旨を登記している例もあります。
株式の譲渡制限に関する事項
株式の譲渡制限に関する事項(会社法第108条1項4号)は登記事項ですが、非公開会社においては、株式全てに譲渡制限を付けますので、「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」の欄に別途株式の譲渡制限に関する事項は記載しないことが多いでしょう。
取得請求権に関する事項
取得請求権に関する事項(会社法第108条1項5号)は登記事項です。
普通株式や金銭等との引き換えにする取得請求権がある場合は登記します。
A種優先株式の取得と引き換えに交付する株式や金銭等につき、調整式がある場合は当該調整式も登記します。
登記とは関係ありませんが、取得請求の対価が金銭であるときは、分配可能額の範囲内でしか取得請求権を行使することができません。
取得条項に関する事項
取得請求権に関する事項(会社法第108条1項6号)は登記事項です。
A種優先株式の取得と引き換えに交付する株式や金銭等につき、調整式がある場合は当該調整式(今までの調整式を準用する場合はその旨)も登記します。
全部取得条項に関する事項
取得請求権に関する事項(会社法第108条1項7号)は登記事項です。
スクイーズアウトや100%減資をするときに用いられることがあるかも、、、という条項です。
拒否権に関する事項
拒否権に関する事項(会社法第108条1項8号)は登記事項です。
取締役全員の同意があるときは、当該種類株主総会の決議を不要としているケースもあります。
登記には関係ありませんが、種類株式を実際に発行している会社において何か決議をするときは、種類株主総会の決議も必要かどうかは重要であり、拒否権条項はよくチェックする条項の一つです。
役員選任権に関する事項
取締役や監査役の選任権に関する事項(会社法第108条1項9号)は登記事項です。
VC等から出資を受ける際、種類株式に役員選任権を付けることは多くありません。
一方で、投資契約等によってVC側が取締役1名を選任する権利を保有ことはありますが、これは債権的なお話なので登記はしません。
株式の分割等、みなし清算条項
定款に次のような記載があっても、原則として、当該記載は登記事項ではありません。
念の為申し上げると、残余財産の分配や取得請求権に関する調整式に株式の分割等が出てきた場合、それは調整式の一部なので登記事項です。
また、合併等の際にA種優先株主が優先して対価を得られるようにしておく、みなし清算条項が定款に記載されることがありますが、原則として、これも登記事項ではありません。
その他
定款に記載されている種類株式に関する事項を全てそのまま登記できれば比較的楽にはなりますが、登記事項を抜粋して登記申請書に記載しなければなりません。
気を付けなければならない点の一つとして、
- 当会社の株式のいずれかの金融商品取引所への上場(以下「株式公開」という。)
- 取締役会(取締役会非設置会社の場合は、取締役の過半数による決定による、以下同じ。)
のような定義付けが、定款上はバランスが取れていても登記簿ではバランスが取れなくなってしまっていないか、があります。
つまり、定義付けに関する文章が登記事項でないときに、登記簿にいきなり「株式公開」や「取締役会(のみ)」が出てきてしまうケースです。
また、定款上は「定款第●条に従い分配される。」等という記載があるときに、これをそのまま登記してしまうと登記簿上何を指しているのか不明になることがあるため、当該定款第●条の部分を登記簿上分かるように変換したりします。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。