商業登記関係 【2021年3月1日施行、改正会社法】株式交付の手続きと登記
改正会社法の施行と株式交付
2021年3月1日に改正会社法が施行され、新たな組織再編行為として「株式交付」が会社法に規定されました。
株式交付とは、株式会社が他の株式会社をその子会社とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいいます(会社法第2条32号の2)。
他の株式会社を子会社化する手段として、組織再編行為として株式交換という方法がありましたが、それに加えて株式交付という方法も選択することができるようになりました。
株式交換との違い
株式交換と株式交付の違いは次のとおりです。
子会社の株主総会決議 | 必要 | (株式の譲渡承認を株主総会の決議でする場合は必要) |
株式交付の手続き
株式交付をするための会社法上の手続きの一例は次のとおりです。
ここでは、株式交付親会社(以下、単に「親会社」といいます)・株式交付子会社(以下、単に「子会社」といいます)ともに非公開会社で取締役会設置会社であり、新株予約権や種類株式、株券は発行しておらず、株式交付の対価は親会社の株式のみであることを前提としています。
以下、手続きの多くは親会社のものであり、子会社の手続きは原則として株式の譲渡承認決議のみです。株式交換と異なり、子会社の株主総会の決議等は会社法上、求められていません。
- 株式交付計画の作成
- 取締役会の決議
- 株主総会の招集通知発送(株主へ株式交付に関する通知含む)
- 事前開示書面等の備置
- 株主総会の決議
- 子会社の株式の譲渡しの申込みをしようとする者に対する通知及び申込み
- 親会社株式の割当て及び通知
- 子会社の取締役会の決議(株式の譲渡承認)
- 株式交付の効力の発生
- 事後開示書面等の備置
- 登記(必要であれば)
1. 株式交付計画の作成
株式会社が株式交付をする場合には、親会社は株式交付計画を作成し、その株式交付計画において、次に掲げる事項を定めます(会社法第774条の3)。
- 子会社の商号及び住所
- 親会社が株式交付に際して譲り受ける子会社の株式の数の下限
- 親会社が株式交付に際して子会社の株式の譲渡人に対して当該株式の対価として交付する親会社の株式の数及び親会社の資本金及び準備金の額に関する事項
- 子会社の株式の譲渡人に対する親会社の株式の割当てに関する事項
- 子会社の株式の譲渡しの申込みの期日
- 株式交付の効力発生日
2. 取締役会の決議
業務執行の一環として、株式交付計画を取締役会の決議で承認します。
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行います(会社法第369条1項)。
決議をする際は、特別の利害関係を有する取締役に注意が必要でしょうか。
3. 株主総会の招集通知発送(株主へ株式交付に関する通知含む)
親会社は、効力発生日の20日前までに、その株主に対し、株式交付をする旨並びに株式交付子会社の商号及び住所を通知します(会社法第816条の6第3項)。
株主総会の招集通知と同時に(同じ書面で)行うこともできますので、招集通知が当該通知を兼ねる形の内容とするケースが多いのではないでしょうか。
この株式交付に関する株主への通知は、株主全員の同意があれば20日という期間を短縮することができるとされています。
株主総会も株主全員の同意があれば招集手続きを省略できますし(会社法第300条)、みなし決議(会社法第319条1項)もありますので、これらを利用することにより、株式交付の手続き期間を短縮することができます。
なお、次の場合は、上記の通知につき、公告をもってこれに代えることができます(会社法第816条の6第4項)。
- 親会社が公開会社である場合
- 親会社が株主総会の決議によって株式交付計画の承認を受けた場合
4. 事前開示書面等の備置
親会社は、株式交付計画備置開始日から効力発生日後6ヶ月を経過する日までの間、株式交付計画の内容及び会社法施行規則第213条の2で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置きます(会社法第816条の2第1項)。
株式交付計画備置開始日とは、次のうちいずれか早い日をいいます(会社法第816条の2第2項)。
- 株主総会の決議が必要なときは当該株主総会の日の2週間前の日(みなし決議を行うときは、当該決議に関する提案があった日)
- 反対株主の株式買取請求に関する通知の日
5. 株主総会の決議
親会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議によって、株式交付計画の承認を受けなければなりません(会社法第816条の3第1項)。
なお、公開会社において、簡易株式交付に該当する場合は、この株主総会の決議は不要です(会社法第816条の4第1項)。
ただし、公開会社において、簡易株式交付に該当する場合でも、会社法施行規則第213条の6で定める株式数を有する株主が、株主への通知又は公告の日から2週間以内に株式交付に反対する旨を株式交付親会社に対し通知したときは、株主総会の決議が必要となります(会社法第816条の4第2項)。
6. 子会社の株式の譲渡しの申込みをしようとする者に対する通知及び申込み
親会社は、子会社の株式の譲渡しの申込みをしようとする者に対し、次に掲げる事項を通知します(会社法第774条の4第1項)。
- 親会社の商号
- 株式交付計画の内容
- 交付対価について参考となるべき事項
- 親会社の計算書類等に関する事項
子会社の株式の譲渡しの申込みをする者は、申込期日までに、次に掲げる事項を記載した書面を親会社に交付します(会社法第774条の4第2項)。
- 申込みをする者の氏名又は名称及び住所
- 譲り渡そうとする子会社の株式の数
7. 親会社株式の割当て及び通知
親会社は、申込者の中から親会社が子会社の株式を譲り受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる親会社が譲り受ける子会社の株式の数を定めます(会社法第774条の5第1項)。この決定は、取締役会の決議によるでしょうか。
なお、親会社は、申込者に割り当てる当該株式の数の合計が株式交付計画書の下限の数を下回らない範囲内で、申込者が譲り渡そうとする子会社の株式の数よりも減少することができます。
親会社は、効力発生日の前日までに、申込者に対し、当該申込者から当該親会社が譲り受ける子会社の株式の数を通知します(会社法第774条の5第2項)。
総数譲渡し契約を締結する場合は、上記「申込み+割当て」は不要となります(会社法第774条の6)。
8. 子会社の取締役会の決議(株式の譲渡承認)
取締役会設置会社において、非公開会社の株式の譲渡を承認するときは、原則として取締役会の決議によって行います(会社法第139条1項)。
株式交付も株式の譲渡に該当しますので、この承認手続きは必要とされています。
親会社が子会社の株式を保有していて、子会社の定款に株主間の株式譲渡は承認不要という定めがあれば、株式交付において譲渡承認に関する子会社の取締役会の決議は不要となるでしょうか。
9. 株式交付の効力の発生
子会社の株式の譲渡人となった者は、効力発生日に、割当て等を受けた子会社の株式を親会社に給付します(会社法第774条の7第2項)。
親会社は、効力発生日に、上記給付を受けた子会社の株式を譲り受けます(会社法第774条の11第1項)。
10. 事後開示書面等の備置
親会社は、効力発生日後遅滞なく、次の事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成します(会社法第816条の10第1項、会社法施行規則第213条の9)。
対価が親会社株式のみ、種類株式・新株予約権を発行していない会社の株式交付の例
- 株式交付が効力を生じた日
- 株式交付をやめることの請求に係る手続の経過
- 反対株主の株式買取請求に係る手続の経過
- 株式交付に際して親会社が譲り受けた子会社の株式の数
- 上記に掲げるもののほか、株式交付に関する重要な事項
親会社は、効力発生日から6ヶ月間、前項の書面又は電磁的記録をその本店に備え置きます(会社法第816条の10第2項)。
株式交付の登記手続き
株式交付において親会社の発行済株式数、資本金の額に変更が生じる場合は、株式交付の効力発生日から2週間以内に、その変更登記申請を行います。
株式交付の対価が親会社が新たに発行する株式のみで、簡易株式交付には該当せず、親会社の資本金の額は増えないケースにおける、その変更登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株式交付計画書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 株式の譲渡しの申込証明書(又は総数譲渡し契約書)
その他の登記
次のようなケースでは、その旨の変更登記も行います。
- 親会社が対価として新株予約権を発行するケース
- 親会社が発行可能株式総数を変更するケース
- 子会社が自己株式の消却をするケース
- 子会社の役員を変更するケース
登記が不要の場合
株式交付において、子会社株主に対して交付する株式が全て親会社の自己株式であるときは、発行済株式数や資本金の額に変更が生じませんので、(左記以外の他の登記事項に変更が生じなければ)親会社の変更登記は不要です。
子会社についても、自己株式の消却や役員の変更等を行わなければ、基本的には変更登記は不要です。
債権者保護手続きが必要なケース
株式交換同様に、株式交付の対価が親会社の株式のみであるときは、債権者保護手続きは不要です(会社法第816条の8第1項)。
株式交付の対価として、親会社の株式以外に金銭等も交付するケースで、当該金銭等の合計額が、株式を含めた対価の総額に対して20分の1を超える場合は債権者保護手続きが必要となります(会社法施行規則第213条の7)。
債権者保護手続きは、他の組織再編行為同様に、原則として官報公告+知れている債権者へ個別催告をする方法によって行います。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。