商業登記関係 多くの中小企業において、官報で行う決算公告には何を記載するか
株式会社の決算公告義務
株式会社は、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならず(会社法第440条1項)、公告方法が官報又は日刊紙である株式会社は、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)の要旨を公告すれば足ります(会社法第440条2項)。
公告方法が官報又は日刊紙である株式会社につき、計算書類の公告(決算公告)の内容は次のように整理できます。
貸借対照表+損益計算書 ※ | |
貸借対照表 ※ | |
貸借対照表+損益計算書 | |
貸借対照表 |
※公開会社の貸借対照表の要旨における固定資産に係る項目は、有形固定資産・無形固定資産・投資その他の資産の項目に区分します(会社計算規則第139条3項)。
– 最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上
– 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上
ここでは、多くの会社が該当するであろう「非公開会社・大会社以外」+「公告方法=官報」である株式会社の決算公告について確認していきます。
なお、有限会社及び合同会社には決算公告義務はなく、一般社団法人及び一般財団法人には決算があります。
決算公告の手続き
決算公告をするときは、一例として次のステップで行います。
- 株主総会で承認された貸借対照表及び損益計算書を用意する。※
- 決算公告の原稿を作成する。
- 官報販売所に掲載の依頼をする。
※会計監査人設置会社は原則として、承認ではなく報告で済みます(会社法第439条)
決算公告は「定時株主総会の終結後遅滞なく(会社法第440条1項)」行う必要がありますが、1ヶ月以内等の具体的な期限はありません。また、定時株主総会の終結から半年以上経過していたとしても、掲載できないということはありません。
2.決算公告の原稿を作成する。
原稿は、こちらのサイトのエクセルファイルをDLするのが便利です。公告する貸借対照表の項目の数次第となりますが、「2枠」又は「3枠」に収まるケースが多いでしょう。
≫決算公告>大会社以外(非公開会社) (株式会社兵庫県官報販売所)
DLしたエクセルファイルに、決算公告をする会社の必要情報を記載します。
貸借対照表の要旨は、次に掲げる部に区分します(会社計算規則第138条)。
2.負債
3.純資産
1.資産の部
資産の部は、次に掲げる項目に区分します(会社計算規則第139条1項)。
2.固定資産
3.繰延資産
次のような貸借対照表の会社が決算公告を行う場合は、流動資産及び固定資産の金額だけ記載すれば問題ありません。
– 現金・預金 80
– 売掛金 20
固定資産 1000
– 土地 800
– 建物 200
上記の資産の部につき、決算公告に最低限記載する内容
↓↓↓
固定資産 1000
資産の部の各項目は、適当な項目に細分することができますが(会社計算規則第139条2項)、最低限の記載で済ますのであれば細分は不要です。
2.負債の部
負債の部は、次に掲げる項目に区分します(会社計算規則第140条1項)。
2.固定負債
負債に係る引当金がある場合には、当該引当金については、引当金ごとに、他の負債と区分しなければなりませんので(会社計算規則第140条1項)、記載を忘れないよう注意が必要です。
– 買掛金 60
– 短期借入金 30
– 賞与引当金 10
固定負債 2000
– 長期借入金 2000
上記の負債の部につき、決算公告に最低限記載する内容
↓↓↓
– 賞与引当金 10
固定資産 1000
負債の部の各項目は、適当な項目に細分することができますが(会社計算規則第140条3項)、最低限の記載で済ますのであれば細分は不要です(引当金の記載は必要)。
3.純資産の部
純資産の部は、次に掲げる項目に区分します(会社計算規則第141条1項)。
2.評価・換算差額等
3.株式引受権
4.新株予約権
上記のうち「1.株主資本」以外はあまり見ませんので、ここでは貸借対照表の純資産の部に「1.株主資本」のみがあるとします。
「1.株主資本」に係る項目は、次に掲げる項目に区分します(会社計算規則第141条2項)。
2.新株式申込証拠金
3.資本剰余金
4.利益剰余金
5.自己株式
6.自己株式申込証拠金
資本剰余金に係る項目は、次に掲げる項目に区分します(会社計算規則第141条3項)。
2.その他資本剰余金
利益剰余金に係る項目は、次に掲げる項目に区分します(会社計算規則第141条4項)。
2.その他利益剰余金
純資産の部につき「新株式申込証拠金」「自己株式」「自己株式申込証拠金」が計上されている会社は多数ではありませんので(自己株式はあるかも)、多くの会社においては、決算公告をする純資産の部の項目は次のとおりです。
資本剰余金
– 資本準備金
– その他資本剰余金
利益剰余金
– 利益準備金
– その他利益剰余金
その他利益剰余金を更に繰越利益剰余金等に細分化することができますが、細分化は必須事項ではありません。
当期純損益
貸借対照表の要旨には、当期純損益金額を付記しなければなりませんので(会社計算規則第142条)、利益剰余金の下に当期純損益をカッコ書きして完成です。
当期純「利益」と当期純「損失」の記載を間違えないようにしましょう。
金額の表示の単位
貸借対照表の要旨に係る事項の金額は、百万円単位又は十億円単位をもって表示します(会社計算規則第144条1項)。
株式会社の財産又は損益の状態を的確に判断することができなくなるおそれがある場合には、貸借対照表の要旨又は損益計算書の要旨に係る事項の金額は、適切な単位をもって表示します(会社計算規則第144条1項)。
各項目の金額が大きくない場合は、千円単位で記載することも少なくありません。
決算公告掲載例
株式会社兵庫県官報販売所さんが提供しているこちらの掲載例が参考になります。
決算公告の申込みは、引用元である上記株式会社兵庫県官報販売所さんのリンク先から行うことができます。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。