商業登記関係 監査等委員会設置会社の取締役(監査等委員を含む)全員の再任手続きと登記
監査等委員会設置会社
平成27年(2015年)5月1日施行の改正会社法により、監査等委員会設置会社という機関設計を選択することができるようになりました。
監査等委員会を置く株式会社のことを監査等委員会設置会社といい(会社法第2条11の2号)、株式会社であれば公開会社・非公開会社を問わず、定款の定めによって、監査等委員会を置くことができます(会社法第326条2項)。
監査等委員会設置会社においては、株主総会及び取締役のほか、次の機関を置きます。
監査役(会)設置会社と異なり、監査役(会)を置くことはできません(会社法第327条4号)。
監査役ではなく、社外取締役が過半数を占める監査等委員会がの職務の執行の監査を行う点に特徴があります(会社法第399条の2・3項1号)。
監査等委員会設置会社の役員構成
監査等委員会の役員は、監査等委員である取締役とそうでない取締役によって構成され、監査等委員である取締役は業務執行を兼ねることができません(会社法第331条3項)。
監査等委員会設置会社においては、監査等委員である取締役は、3名以上で、その過半数は、社外取締役でなければなりませんので(会社法第331条6項)、これからのことから、ミニマムの構成は業務執行取締役1名、監査等委員である取締役3名(うち社外取締役2名以上)の計4名となります。
監査等委員ではない取締役の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであり、監査等委員である取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(会社法第332条)。
この監査等委員である取締役の任期を短縮することはできません。
会計監査人の任期も、監査等委員ではない取締役同様に、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであることから(会社法第338条1項)、監査等委員会設置会社においては、毎年役員変更の手続き(登記手続きを含む)が必要となります。
取締役等の再任の手続きの流れ
監査等委員会設置会社の取締役等の再任の一般的な手続きの流れは次のとおりです。
- 取締役会の決議(決算承認、株主総会の招集決定)
- 定時株主総会の招集
- 定時株主総会の決議
- 取締役会の決議(代表取締役の選定)
- 登記申請
定時株主総会の決議
定時株主総会の決議によって取締役を選任(再任)します。当該議事録につき、登記手続き上のポイントは次のとおりです。
- 単元株を設定しているときは発行済株式数=議決権数となっていないこと(一部例外あり)
- 原則として、特殊普通決議の要件を満たしていること(会社法第341条)
- 当該定時株主総会の終結時に任期が満了する旨の記載があること ※1
- 監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して選任していること(会社法第329条2項)
- 就任承諾書につき議事録の記載を援用する場合は、出席役員としての氏名の記載及び席上就任承諾をした旨の記載があること ※2
- 原則として、登記簿上の取締役の氏名と再任した取締役の氏名が一致していること ※3
※1 監査等委員である取締役につき、当該定時株主総会の終結時に任期が満了する取締役とそうでない取締役がいる場合は、誰が任期満了するか分かるようにしておきましょう。
※2 新任の取締役がこの援用をするには当該取締役の住所の記載も必要です。
※3 登記簿に旧姓併記をしていない取締役が旧姓で活動している場合、任期の途中で婚姻によって姓が変わった場合の記載ぶりに注意しましょう。
取締役会の決議
取締役会の決議によって代表取締役を選定します。当該議事録につき、登記手続き上のポイントは次のとおりです。
- 決議要件を満たしていること ※1
- 就任承諾書につき議事録の記載を援用する場合は、出席取締役としての氏名及び住所の記載並びに席上就任承諾をした旨の記載があること ※2
- 出席役員の記名押印(※3)又は電子署名(※4)があること
※1 原則として、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行います。被選定者たる取締役も決議に参加できます。
※2 再任で住所に変更がない場合は、住所の記載がなくても登記は可能ですが、変更がないことを確認するためにも住所を記載していただけると、担当司法書士が喜びます。
※3 商業登記規則第61条6項により出席役員全員の実印+印鑑証明書を避けるため、再任した代表取締役が会社実印を押印するケースがほとんどでしょう。
※4 代表取締役選定に関する取締役会議事録への電子署名は、下記リンク先の要件を満たす必要があり、現状はまだ多くの会社では採用されていない印象です。
≫商業・法人登記のオンライン申請について(第3 電子証明書の取得)法務省
登記申請
役員再任の効力が生じてから2週間以内に、管轄登記所へ登記申請を行います。役員全員再任の登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録
- 就任承諾書(議事録で援用しない場合)
- 定款(取締役会決議が書面又は電磁的記録による決議である場合)
また、当該登記の登記すべき事項は次のとおりです。
- 監査等委員である取締役及びそれ以外の取締役の氏名
- 取締役のうち社外取締役であるものについて、社外取締役である旨
- 代表取締役の氏名及び住所
- 会計監査人の氏名又は名称
- 監査等委員である取締役及びそれ以外の取締役、代表取締役、会計監査人の重任日及び重任した旨
会計監査人の重任登記
会計監査人の任期は、監査等委員ではない取締役と同じく、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(会社法338条1項)。
取締役と異なる点として、会計監査人は、任期を迎える定時株主総会において別段の決議がされなかったときは、当該定時株主総会において再任されたものとみなされます(会社法第338条2項)。
会計監査人を変更しない場合、定時株主総会の議案として会計監査人の選任が掲げられることはほとんどありませんが、その場合でも会計監査人の重任登記は必要ですので登記をし忘れないようご注意ください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。