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代表司法書士 石川宗徳の 所長ブログ&コラム

新株予約権付融資と募集新株予約権発行の登記

融資条件としての新株予約権

スタートアップが日本政策金融公庫から融資を受ける際に、新株予約権を付与することで無担保にて融資を受けることができる新株予約権付融資という仕組みがあります。

新株予約権付融資の概要
お申込み企業が新たに発行する新株予約権を当公庫が取得し、必要な資金を無担保で供給する仕組み(新たに発行される普通社債の取得又は貸付のいずれかによります)です。
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/shinkabu_startup.html

新たに発行される普通社債の取得又は貸付のいずれかによるとありますが、当法人が登記申請の代理人となるのは(偶然にも)貸付のケースばかりですので、貸付のケースにおける登記手続きについて見ていきます。

発行可能(種類)株式総数が足りるか確認する

新株予約権付融資は融資の条件として債権者に新株予約権を交付する仕組みですので、会社法上必要な手続きは募集新株予約権の発行(+多額の借財の承認)です。

ところで、新株予約権者が新株予約権を行使して取得することとなる株式の数は、発行可能株式総数から発行済株式(自己株式を除く。)の総数を控除して得た数を超えてはならないとされています(会社法第113条4項)。

新株予約権付融資の新株予約権の行使期間は発行日からスタートしますので(そのように設計されていますので)、当該新株予約権が仮に発行日に全て行使された場合でも株式を交付できるように発行可能(種類)株式総数を調整しておく必要があります。

種類株式発行会社が発行可能(種類)株式総数を変更するには、原則として株主総会だけではなく種類株主総会の決議も必要です(会社法第322条1項1号)。

種類株主総会の決議が必要か確認する

種類株式発行会社では、株主総会で何か決議をするときは種類株主総会の決議も必要か確認します。

発行可能(種類)株式総数の変更を行うときに原則として種類株主総会の決議も求められることは上記のとおりです。

その他に、新株予約権の目的である株式が種類株式であるときは、当該種類株式に係る種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議が必要です(会社法第238条4項)。

種類株式に拒否権(会社法第108条1項8号)が付いているときは、当該種類株主総会の決議も行います。

新株予約権を発行するまでの手続き

新株予約権を発行するときの手続きの一般的な流れは次のとおりです。非公開会社、取締役会設置会社を前提としています。

  1. 取締役会の決議
  2. 株主総会の招集
  3. 株主総会の決議
  4. 取締役会の決議
  5. 総数引受契約の締結
  6. 登記申請

なお、基本的には日本政策金融公庫が用意している雛形を利用することになります。取締役会、株主総会ともに実開催を前提としていますが、みなし決議(会社法第319条1項、同法第370条)により進めるケースも見ています。

1. 取締役会の決議

取締役会の決議によって、新株予約権の内容及び発行することの意思決定を行います。

また、株主総会の招集の決定(会社法第298条)も併せて行います。

多額の借財(会社法第362条4項2号)に関する重要な業務執行の決定として、借入につき取締役会で決議を得ておくケースもあるでしょうか。

2. 株主総会の招集

株主に対して株主総会の招集の通知を発します(会社法第299条1項)。

定款に別段の定めがある場合、書面投票制度(会社法第298条1項3号)や電子投票制度(会社法第298条1項4号)を採用する場合を除き、取締役会設置会社は、株主総会の日の1週間前までに株主総会の招集の通知を発します。

1週間前までとは、中7日を空けることを意味しますので、仮に2023年8月31日(木)を株主総会の日とする場合、2023年8月23日(水)までにその招集の通知を発する必要があります。

3. 株主総会の決議(種類株主総会の決議)

株主総会の特別決議により、新株予約権の募集事項を決定します(会社法第238条)。

種類株主総会の決議も必要なケースであれば、同日に種類株主総会の決議も行います。

4. 取締役会の決議

会社法第205条に基づき、日本政策金融公庫との総数引受契約を承認します。

上記「1. 取締役会の決議」において総数引受契約を承認しておくことも会社法上は可能ではあります。

5. 総数引受契約の締結

割当日までに日本政策金融公庫と新株予約権の総数引受契約を締結します。

割当日の到来

発行要項で定めた割当日に、日本政策金融公庫は引き受けた募集新株予約権の新株予約権者となります(会社法第245条1項)。

原則として無償発行ですので、新株予約権に関する払込みがされることはありません(融資に関する払込みはあるかと思います)。

6. 法務局へ登記申請

新株予約権は発行したときは割当日(発行日)から2週間以内に登記申請をします(会社法第915条1項)。

割当日以前に発行可能(種類)株式総数を変更したときは、その時から2週間以内に新株予約権の発行を含めて登記申請できるスケジュールとしておくことがスムーズかもしれません。

新株予約権の発行登記の添付書類の一例は次のとおりです。

  • 株主総会議事録(必要に応じて種類株主総会議事録)
  • 上記に関する株主リスト
  • 取締役会議事録(総数引受契約を承認したもの)
  • 総数引受契約書
  • 登記委任状(代理人に委任する場合)

新株予約権の発行登記の登録免許税は9万円であり、発行可能(種類)株式総数の変更登記も行うのであればその登記の登録免許税は3万円です。


この記事の著者

司法書士
石川宗徳

代表司法書士・相続診断士 石川宗徳 [Munenori Ishikawa]

1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)

2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。

2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。

また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。

RSM汐留パートナーズ司法書士法人では、
商業登記不動産登記相続手続き遺言成年後見など、
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