商業登記関係 自己新株予約権の消却手続きと登記
新株予約権の取得
新株予約権を発行した後に、取得条項の発動や新株予約権者との合意等により、発行会社がその発行した新株予約権を取得することがあります。
≫発行会社が取得条項に基づき新株予約権を取得する手続きと登記
新株予約権を発行した会社が、その発行した新株予約権を取得したときにおける当該新株予約権を自己新株予約権といいます。
会社法上、発行会社に自己新株予約権を消却する義務は課されていませんが、自己新株予約権を消却するのであればその手続きは会社法の定めに従って行う必要があります。
自己新株予約権の消却手続き
株式会社は、自己新株予約権を消却することができます(会社法第276条1項)。
自己新株予約権を消却するときは、取締役会の決議(取締役会非設置会社は取締役の過半数の決定)によって次の事項を定めます。
- 消却する自己新株予約権の内容
- 消却する自己新株予約権の数
- 自己新株予約権の消却の効力発生日(定めない場合は決議日に消却されます)
自己新株予約権の消却の効力発生日は必ずしも定める必要はありませんが(決議日に消却の効力発生)、当該取締役会の決議日以降に取得する予定の自己新株予約権を消却するようなケースでは効力発生日を定めることも可能です。
一例として、取得条項に基づき取締役会において新株予約権の取得を決議し、同じ取締役会において新株予約権の取得を条件として自己新株予約権の消却も決議してしまうケースです。
20●●年12月1日 | 取締役会の決議 ①退職者から自己新株予約権150個を取得する決議 ②自己新株予約権150個の取得を条件に、取得した自己新株予約権150個を20●●年12月31日付で消却する決議 |
20●●年12月2日 | 退職者へ保有する新株予約権を発行会社が取得する旨の通知 |
20●●年12月20日 | 自己新株予約権の取得 |
20●●年12月31日 | 自己新株予約権の消却の効力発生 |
翌年1月13日まで | 法務局へ登記申請 |
新株予約権の個数の減少と登記
新株予約権が消却されると、新株予約権の数が減少することにより登記事項に変更が生じますので、新株予約権が消却されてから2週間以内にその旨の登記申請を行います(会社法第915条1項)。
※新株予約権を発行会社が取得しただけでは登記事項に変更は生じず、消却した時に登記事項に変更が生じます。
新株予約権の数の減少に関する登記に加えて、当該新株予約権の目的である株式の総数も登記されているときはその数も減少しますので、同時にその変更登記も行います。稀に、新株予約権の行使条件にも新株予約権の目的である株式数の記載があるときもありますので、必要に応じてそちらの変更も含めます。
なお、新株予約権の目的である株式の数ではなくその数の算定方法を定めているケースや、新株予約権1個につき普通株式1株とのみ定められている(目的となる株式の総数が記載されていない)ケースでは、その記載内容によっては新株予約権の数の変更だけで済むこともあります。
新株予約権の全部が消却されたときは、全部が消却されたことにより当該新株予約権が消滅した旨の登記申請を行います。
添付書類
この登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 取締役会議事録(取締役会非設置会社においては取締役の決定書)
- 定款(取締役会決議がみなし決議の場合)
この登記の登録免許税は3万円です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。