商業登記関係 取締役1名の株式会社が取締役を1名追加し、代表取締役が2名となるときの手続きと登記
共同代表となる取締役を追加する
取締役1名の株式会社が取締役1名を追加し、追加された取締役も代表取締役としたいケースがあります。
取締役は株主総会の決議によって選任し(会社法第329条1項)、取締役が2人以上ある場合には、取締役は、各自、株式会社を代表しますので(会社法第349条2項)、選任された取締役が就任を承諾すれば、書面が揃っている限り取締役及び代表取締役の就任登記ができてしまうかもしれません。
一方で、会社法に則った手続きを適正に踏んでおかないと、実体において既存の取締役が退任した、あるいは新任取締役の就任が無効であるということが起こり得ます。
取締役の変更を行うときは、登記簿と定款の確認は必須です。ここでは取締役Aが1名の株式会社X(取締役会非設置会社、唯一の株主はA)において、取締役Bを追加してBも代表取締役になるケースを見てみます。
取締役の員数
会社法上、取締役会非設置会社における取締役の員数に関する規定はありませんが、定款でその定めを設けているときはそれに従います。
下記の記載例のように取締役を1名と限定しているときは、取締役Bを選任する前提として株主総会の決議により当該定款の定めを変更します。
第●●条 当会社の取締役は、1名とする。
取締役の任期(重要)
取締役には必ず任期があり、定款に別段の定めのない限り選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(会社法第332条1項)。
非公開会社においては取締役の任期につき、定款で定めることにより上記の2年を10年まで伸長することができるため、1人法人の多くは取締役の任期を伸長しています(インターネットの定款雛形から定款を作った会社は2年のままとしていることが少なくありません)。
第●●条 取締役の任期は、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。
まず、取締役Bの選任時において取締役Aの任期が満了してAが権利義務取締役となっている場合、単にBを取締役に選任するとAは取締役を退任してしまいます。
Aが権利義務取締役となっている状態でAが取締役を継続するのであれば、Aを取締役として再任する株主総会の決議が必須です。この手続きを忘れると、取締役はBのみという状態となってしまいます。
次に、取締役が1名から複数名になるタイミングで取締役の任期を短縮するケースも少なくありません。Bの取締役としての適正を定期的にチェックしたいニーズに沿った対応です。
代表取締役の員数と選定方法(重要)
取締役が2人以上ある場合には、取締役は、各自、株式会社を代表するところ(会社法第349条2項)、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができます(会社法第349条3項)。
代表取締役の選定方法についても、定款に定めを設けている株式会社が多いでしょう。
第●●条 当会社に取締役を複数置く場合には、代表取締役1名を置き、取締役の互選により定める。当会社に置く取締役が1名の場合には、当該取締役を代表取締役とする。
上記の例では、代表取締役「1名」を置くこととなっているため、これを「2名」あるいは「1名以上」とする定款変更を行います。
次に、取締役を複数置く場合には代表取締役を1名以上選定しますので、当該選定機関により、BだけでなくAも代表取締役として選定します。Aは既に代表取締役であるため、Bのみを代表取締役として選定するとAは代表取締役ではなくなってしまうため注意が必要です。
最後に、株主がAのみのような場合、上記の定款の定めでは(考えにくい状況ではありますが)Bが反対すると代表取締役を選定することができなくなるため、選定機関を株主総会の決議に変更しておくことが考えられます。
役付取締役
会社法上に規定はありませんが、取締役につき会長、社長、副社長、専務といった役職を定款で定めることがあります。
第●●条 代表取締役は、社長とし、当会社を代表する。
上記は代表取締役が1名であることを前提としているため、代表取締役のうち1名を社長とする内容とすることや、代表取締役に別の役職を設けるため社長以外に会長、副社長も追加することが考えられます。
特に、社長という役職は多くの場合、定款において株主総会の招集権者や議長として定められているため、そうであれば誰が社長かは明確にしておくのが良いでしょう。
取締役を選任し、代表取締役を選定する
株式会社Xが取締役・代表取締役に選任・選定するときの手続きの一例は次のとおりです。各会社において状況は異なるため、自社の定款と状況を確認の上、適切な方法を採用してください。
- 株主総会の決議
- 取締役、代表取締役の就任承諾
- 登記申請
1.株主総会の決議
取締役は株主総会の決議によって選任しますので(会社法第329条1項)、株主が1名の株式会社であれば「みなし決議(会社法第319条1項)」で行うことがスムーズです。
株主総会の議案は、定款変更が不要な場合は取締役選任議案のみとなりますが、定款変更をともなう場合の決議事項の一例は次のとおりです(あくまで一例ですので、各社の状況に応じて決議内容を決定ください)。
取締役及び代表取締役を2名とすることを目的として、次のとおり当社の定款第●●条、第▲▲条及び第■■条を変更する。下線は変更箇所を示します。
(取締役の員数) 第●●条 当会社の取締役は、1名とする。 (取締役の任期) 第▲▲条 取締役の任期は、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。 (代表取締役及び社長) 第■■条 当会社に取締役を複数置く場合には、代表取締役1名を置き、取締役の互選により定める。当会社に置く取締役が1名の場合には、当該取締役を代表取締役とする。 2 代表取締役は、社長とし、当会社を代表する。 (新設) | (取締役の員数) 第●●条 当会社の取締役は、1名以上とする。 (取締役の任期) 第▲▲条 取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。 (代表取締役及び役付取締役) 第■■条 当会社に取締役を複数置く場合には、代表取締役1名以上を置き、株主総会の決議により定める。当会社に置く取締役が1名の場合には、当該取締役を代表取締役とする。 2 代表取締役のうち1名は、社長とし、株主総会の決議により定める。社長は、当会社を代表する。 3 株主総会は、その決議により、取締役の中から会長1名、副社長、専務取締役及び常務取締役各若干名を定めることができる。 |
第2号議案 取締役選任の件
前号議案の定款一部変更の効力が生じると取締役Aの任期が満了するため、また、取締役2名体制とするため、次の者を取締役として選任する。
取締役 A、B
第3号議案 代表取締役及び役付取締役選定の件
前号議案に基づきA及びBが取締役に就任すること条件に、次のとおり代表取締役、社長及び副社長を選定する。
代表取締役 社長 A
代表取締役 副社長 B
第4号議案 取締役の報酬決定の件
第2号議案に基づきA及びBが取締役に就任すること条件に、●年●月以降の取締役A及びBの取締役報酬を次のとおり決定する。
取締役A 月額金●●円
取締役B 月額金●●円
株主総会議事録への押印又は電子署名
上記の株主総会議事録はAが作成し、Aの会社実印又はAの個人実印で押印する必要がありますが(商業登記規則第61条6項)、個人実印で押印するとAの個人印鑑証明書も登記の添付書類となるため、Aの会社実印を押すことが一般的です。
紙+押印ではなく電子署名をする場合は、商業登記電子証明書や公的個人認証サービス電子証明書等による電子署名が必要となり、クラウドサインやfreeeサインによる電子署名では足りません。
2.取締役の就任承諾
会社と取締役は委任に関する規定に従いますので(会社法第330条)、取締役としての就任承諾をすることにより取締役に就任します。
上記のケースでは、代表取締役としての就任承諾は必須ではありませんが得ておくことが多い印象です(定款の定めに基づく取締役の互選によって選定された代表取締役は、代表取締役の就任承諾が必須です)。
就任承諾書の押印につき、Bは個人実印を押印するか、電子署名をする場合は公的個人認証サービス電子証明書等による電子署名が求められます。Aは登記手続き上その就任承諾書に押印は求められませんが、電子署名をする場合はクラウドサイン等による電子署名が求められます。
3.登記申請
取締役に変更(退任、就任)が生じてから2週間以内に、その登記申請をします(会社法第915条1項)。
株式会社Xにおける当該登記申請に係る添付書類の一例は次のとおりです(あくまで一例ですので、各社の状況に応じて書類をご準備ください)。電子データではなく書面で用意することを前提としています。
- 臨時株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任承諾書
- Bの印鑑証明書
旧氏の併記、住所非表示
Aを含め、登記簿に記載する役員の旧氏を併記する場合は旧氏の記載のある戸籍抄本等も準備します。
≫添付書面としての本人確認証明書及び旧氏の併記について(法務省)
代表取締役等住所非表示措置の申出をするときはそのための書面を準備します。
≫代表取締役等住所非表示措置について(法務省)
Bが会社実印を届け出るかどうか
Bが会社実印を届け出るかどうかによって印鑑届書等を準備します。
印鑑届書の提出は不要です。 | |
Aとは異なる印鑑でBが印鑑届書を提出します。 | |
Bが印鑑届書を提出し、同時に、Aの印鑑廃止届を提出します。 |
Bにつき印鑑カードの交付を新たに受ける場合は、Bの印鑑カード交付申請書も準備します。
しほサーチ
ステークホルダーが自分のみの状況においては、会社法の手続きや登記を自社で行うケースも少なくありません。一方で、役員が増える、出資を受けることで株主が増える等のステークホルダーに自分以外の人(会社)が入ってくるフェーズでは司法書士に相談するとスムーズかと思います。
お近くの司法書士は日本司法書士会連合会が提供している「しほサーチ」にてお探しください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。