商業登記関係 2つの種類株式を同時に発行するときの募集事項の決定
募集株式の発行と募集事項の決定
総数引受契約方式により募集株式を発行するときは、募集事項の決定(会社法第199条)→総数引受契約の締結を承認(会社法第205条)→総数引受契約の締結(会社法第205条)→出資の履行(会社法第208条)→登記申請(会社法第915条)を行います。
申込み+割当て方式の方法(会社法第203条、204条)もありますが、引受人が少数の場合は実務上、総数引受契約方式(会社法第205条)の方が使いやすいためここでは総数引受契約方式を前提としています。
2つの種類の株式を同時に発行する
実務上あまり多くはない印象ですが、異なる2つの種類の株式を同時に発行することがあります。
種類株式を発行するのと同時に普通株主の持株比率を調整するために普通株式も発行する場合や、資本金を増やすために普通株式を発行しつつ、特別な目的をもって種類株式(拒否権付株式・無議決権株式等)を発行するケースです。各募集株式1株と引換えに払い込む金銭の額が税務上問題がないかは、顧問税理士の先生に確認をしながら進めることをお勧めします。
ここでは定款に種類株式の定めを置いていない取締役会非設置会社が、定款に新たに甲種株式を定め、普通株式と甲種株式を同時に発行する手続きを見ていきます。
甲種株式に係る定款変更
株主総会の決議により定款変更を行い、定款に甲種株式の内容を定めます。
種類株式を定めるための定款変更は株主総会の特別決議により行うことができますが、会社法第322条2項の定めを設けるときは普通株主全員の同意が必要となります(会社法第322条4項)。
また、普通株式を含めた種類株式の内容として会社法第199条4項及び会社法第238条4項の定めも設けておくと、今後募集株式の発行や新株予約権の発行を行うときに便利です。
1つの募集事項の決定では不可
募集株式を発行するときは、株主総会の決議によって募集事項(会社法第199条1項)を定めます。募集株式に係る募集事項は次のとおりです。
- 募集株式の種類及び数
- 募集株式の払込金額又はその算定方法
- 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
- 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間
- 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項
ここで、募集事項のうち、会社法第199条1項1号の募集株式の種類及び数は、2つの種類株式を1つの募集事項で決定することができない点に注意が必要です。
第1号議案 定款一部変更の件
別紙「定款変更案」のとおり当社の定款を変更すること。
第2号議案 募集株式の発行の件
次のとおり募集株式を発行すること。
1.募集株式の種類及び数:
普通株式 100株
2.募集株式の払込金額:
1株につき20万円
3.払込期日:
令和8年7月22日
4.増加する資本金及び資本準備金に関する事項
(略)
第3号議案 募集株式の発行の件
次のとおり募集株式を発行すること。
1.募集株式の種類及び数:
甲種株式 10株
2.募集株式の払込金額:
1株につき25万円
3.払込期日:
令和8年7月22日
4.増加する資本金及び資本準備金に関する事項
(略)
第2号議案 募集株式の発行の件
次のとおり募集株式を発行すること。
1.募集株式の種類及び数:
普通株式 100株
甲種株式 10株
2.募集株式の払込金額:
普通株式 1株につき20万円
甲種株式 1株につき25万円
3.払込期日:
普通株式、甲種株式ともに令和8年7月22日
4.増加する資本金及び資本準備金に関する事項
(略)
普通株式につき会社法第199条4項の定めを置いていない場合は、定款変更の効力発生後に普通株式に係る募集事項を決定しているため、普通株式に係る種類株主総会決議も求められます。
募集事項の決定の委任
株主総会の決議によって募集事項の決定を取締役(会)に委任することもでき(会社法第200条1項)、その場合、上記同様に種類株式ごとに募集事項の決定を委任することになります。
次のとおり当社の取締役へ募集事項の決定を委任すること。
1.委任に基づき募集事項の決定をすることができる募集株式の種類及び数の上限
普通株式 300株
2.委任に基づき募集事項の決定をすることができる払込金額の下限
普通株式1株につき20万円
第●+1号議案 募集株式の発行の件
次のとおり当社の取締役へ募集事項の決定を委任すること。
1.委任に基づき募集事項の決定をすることができる募集株式の種類及び数の上限
甲種株式 30株
2.委任に基づき募集事項の決定をすることができる払込金額の下限
甲種株式1株につき25万円
なお、取締役会非設置会社が募集事項の決定を取締役に委任する場合、募集株式の割当ての決定又は総数引受契約の承認を取締役が行うことができる旨を定款に定めない限り、当該委任に基づき取締役が募集事項を決定した場合でも、当該募集株式に係る割当て等をするときに再度株主総会の決議が必要となってしまいます。
≫取締役会非設置会社において、株式や新株予約権の割当てを取締役の決定で行う方法
発行可能株式総数、発行可能種類株式総数
新たに株式を発行するときは、株式発行後の発行済株式数又は発行済種類株式数が発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数を超えないように事前に確認をしておきます。
新株予約権のような潜在株式がある場合は、行使されたときに交付する対象株式数の発行枠も空けておきましょう。
種類株式発行後に発行可能株式総数・発行可能種類株式総数を変更するときは、種類株主総会(会社法第322条1項)が必要となってしまうため、後に株式分割を予定しているときは余裕をもった発行可能(種類)株式総数に変更しておきます。
総数引受契約の承認、締結
定款に別段の定めのない限り、株主総会の決議で総数引受契約の承認をします(会社法第205条2項)。
この総数引受契約の内容、締結方法は会社法に定めがないため、募集事項ごとに作成の上締結しても良く、また、1つの契約内容に2つの募集株式の発行に関する事項をまとめることも可能です。
ただし、引受人が複数いる場合は引受人らがその総数を引き受けることを示すため、「他の引受人とともにその総数を引き受ける」といった記載は必要となります。
出資の履行
払込期日又は払込期間の末日までに募集株式の払込金額の全額を払い込まなければなりません(会社法第208条1項)。この払い込みは、普通株式分、甲種株式分まとめて1回の振り込みがされていても問題ありません。
払込期日又は払込期間の末日の翌日以降に発行会社に着金があった場合、出資の履行をしないときに該当し当該募集株式は失効しますのでご注意ください(会社法第208条4項)。
特に海外投資家からの送金の場合、発行会社への着金が払込期日又は払込期間の最終日に間に合わなかった、手数料を引かれて払込金額に不足が生じてしまったということは起こり得ます。
登記すべき事項
甲種株式に係る発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容の変更登記に加え、発行済株式の総数並びに種類及び数の変更登記を申請します。
この変更の登記すべき事項の一例は次のとおりです。
「原因年月日」令和8年7月15日変更
「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」
普通株式 5000株
甲種株式 1000株
(略)
「原因年月日」令和8年7月15日変更
「発行済株式の総数並びに種類及び数」
発行済株式の総数
200株
各種の株式の数
普通株式 200株
「原因年月日」令和8年7月22日変更
「資本金の額」金1100万円
「原因年月日」令和8年7月22日変更
「発行済株式の総数並びに種類及び数」
発行済株式の総数
210株
各種の株式の数
普通株式 200株
甲種株式 10株
「原因年月日」令和8年7月22日変更
「資本金の額」金1225万円
「原因年月日」令和8年7月22日変更
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。
RSM汐留パートナーズ司法書士法人では、
商業登記・不動産登記・相続手続き・遺言・成年後見など、
様々なサポートを行っております。
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会社設立・商業登記
株式会社、合同会社、各種法人設立、商号の変更、役員の変更、本店の移転、増資の登記などを、法務局に対して申請する業務です。
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不動産登記
不動産の売買、贈与、相続による、登記名義の書き換えや、住宅ローンの完済による抵当権の抹消登記などを、法務局に対して申請する業務です。
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相続手続き
相続人や相続財産の調査、相続放棄、相続した不動産の名義変更、亡くなられた方の預貯金・株式の名義変更、遺産分割協議遺書の作成、戸籍の代理収集等を行う業務です。
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遺言サポート
遺言を希望される方の意思が充分に反映された遺言書ができるように、お客様と一緒になり遺言の作成を行ったりアドバイスを行う業務です。
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成年後見
成年後見申立書類の作成の他、認知症、知的障害、精神障害などの理由で、判断能力が不十分な方々に代わり財産の管理や各種の契約を行う業務です。
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所長ブログ&コラム
代表司法書士石川宗徳によるブログ・お役立ちコラムです。日々の出来事から商業登記・不動産登記・相続・遺言等に関する有益な情報を発信します。





