商業登記関係 取得条項付新株予約権の取得対価として株式を発行する場合の手続きと登記
取得条項付新株予約権
株式会社が新株予約権を発行するときは当該新株予約権の内容を定める必要があり(会社法第236条1項)、新株予約権の内容として、発行会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとする旨(取得条項)を定めることができます(会社法第236条1項7号)。
ストックオプションやJ-KISS型新株予約権を含め、新株予約権の内容として取得条項が定められていることが多いのではないでしょうか。
ここでは取得条項として次の定めのある有償の新株予約権につき、当該取得条項に基づき取得するケースを見てみます。
また、新株予約権証券を発行する旨の定めがないことを前提としています。新株予約権証券を発行している場合、当該新株予約権を取得条項に基づき取得するときは、新株予約権証券の提出公告及び各別の通知が必要となります(会社法第293条1項)。
無償で自己新株予約権を取得した場合
新株予約権を無償で発行しているようなケースでは、当該新株予約権につき取得条項に基づく取得対価も無償としていることがほとんどかと思います。
発行会社が無償で自己新株予約権を取得した場合、発行済みの新株予約権その他登記簿の内容に変更は生じません。
そのため、自己新株予約権を消却する等しない限り、単に自己新株予約権を無償で取得しただけでは変更登記は不要です。なお、無償で取得した後に自己新株予約権を消却したときはその変更登記が必要となります。
新株予約権を取得条項に基づき取得する
Xを行うことを決定した発行会社は、株主総会(取締役会設置会社である場合には取締役会)の決議により新株予約権を取得する日を決定します。当該新株予約権に別段の定めがあるときはその定めに従いその取得日を決定することになります。
当該決定後、新株予約権者に対し、当該取得日の2週間前までに、当該取得日を通知します(会社法第273条2項)。この通知は公告をもってこれに代えることができます(会社法第273条3項)。
発行会社は、当該取得日と上記通知の日又は公告の日から2週間を経過した日のいずれか遅い日に新株予約権を取得します(会社法第275条1項)。通常は、取得日の2週間前までに通知又は公告を行うことにより、当該取得日に新株予約権者から新株予約権を取得するようスケジュールします。
発行会社が新株予約権を取得した日に、新株予約権者は発行会社の株主となります(会社法第275条2項)。
自己新株予約権の取得と増加する資本金の額
新株予約権を取得条項に基づき取得したときに増加する資本金の額は、会社計算規則第18条1項(取得条項付新株予約権の取得をする場合)に定められています。
このケースの資本金等増加限度額は、取得対価として自己株式の交付をしない限り、「①当該取得時における新株予約権の価額」から「②株式の交付に係る費用の額のうち、株式会社が資本金等増加限度額から減ずるべき額と定めた額」を減じた額となり、②をゼロとする場合は取得する新株予約権に係る払込金額の総額が該当します。
資本金等増加限度額のうち、2分の1を超えない額は資本金として計上せず資本準備金として計上することができ、資本金として計上しない額の決定は取締役の過半数の決定(取締役会設置会社は取締役会決議)によって行います。
新株予約権1個あたりの払込金額が100万円で50個(払込金額の総額5000万円)発行されているけーすにおいて、これを全て取得条項に基づき取得するときに増加する資本金等増加限度額は、原則として5000万円であり、取締役の決定(取締役会の決議)によりその2分の1を資本準備金として計上することとした場合は、増加する資本金の額は2500万円です。
自己新株予約権と消却手続き
発行会社が取得条項に基づき新株予約権を取得した後、会社法上、当該自己新株予約権を消却するかどうかは任意となりますが、オプションプールや対投資家との関係から、(一部取得ではなく)特に全部取得をした後は当該自己新株予約権を消却するケースが多いのではないでしょうか。
自己新株予約権の消却は、取締役の決定(取締役会設置会社は取締役会の決議)によって行います。
自己新株予約権の取得を条件に●年●月●日付けで第●回新株予約権の全部を消却する旨の決議を行うこともできるため、取得日を決定する取締役会において、取得日の決議と併せて当該取得を条件に自己新株予約権を消却する旨の決議も行っておくことが考えられます。
新株予約権を取得するのと引換えに株式を交付する登記
取得条項に基づき新株予約権を取得し、その対価として新たに株式を発行したときは、当該取得日から2週間以内に変更登記を申請します。
この登記の添付書類の一例は次のとおりです(取得日を決定する機関につき別段の定めを置いていないことを前提としています)。
この登記の登録免許税は増加する資本金の額の1000分の7(これが3万円に満たないときは3万円)です。
取締役会非設置会社
- 取得日を定めた株主総会議事録
- 株主リスト
- 資本金に計上しない額を定めた取締役決定書(全額資本金に計上する場合は不要)
- 資本金の額の計上に関する証明書
取締役会設置会社
- 取得日を定めた取締役会議事録
- 資本金に計上しない額を定めた取締役会議事録(全額資本金に計上する場合は不要)
- 資本金の額の計上に関する証明書
- 定款(取締役会決議をみなし決議(会社法第370条)で行った場合)
自己新株予約権の消却を行った場合の変更登記の添付書類
- 取締役決定書(取締役会設置会社の場合は取締役会議事録)
- 定款(取締役会決議をみなし決議(会社法第370条)で行った場合)
この登記の登録免許税は3万円です。
取得対価として自己株式を交付したときは登記は不要
取得条項に基づき新株予約権を取得しただけでは新株予約権の数に変更は生じませんので、新株予約権の変更登記は不要です。ただし、取得と同時に、又は取得後に自己新株予約権を消却したときは新株予約権の全部又は一部消却に係る変更登記が必要となります。
取得条項付新株予約権の取得の対価として交付する株式につき、全て自己株式を交付したときは、発行済株式数及び資本金の額に変更は生じませんのでこれらの変更登記も生じません。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。





