不動産登記関係 昔の抵当権(休眠担保権)の消し方①
残された抵当権
抵当権はその被担保債権が完済されれば、その抵当権に基づく競売の申し立て等は基本的にはされないため、特に抵当権が残っていてもすぐに問題が無いなら・・・ということで抵当権抹消登記が放置されているケースがあります。
しかし、いざ当該不動産を売るとなった時、当該不動産に新しく担保を付けてローンを借りる時には、既存の抵当権が付いたままでは手続きを進めることができないことが一般的です。
数年前に完済し終わったローンの抵当権であればその抹消登記はそこまで大変ではないのですが、問題は明治・大正・昭和に設定された抵当権が、被担保債権は完済済みであるにもかかわらず、そのまま残っているケースです。
相手(債権者)が既に消滅している会社であったり、相手が個人であれば相続が発生してしまっており相続人がどこにいる誰なのか分からないというようなことが起こります(起こっています)。
休眠担保権の抹消手続きの種類
休眠担保権を抹消する方法は、実体に応じて何種類かあります。
債権者と共同申請
債権者が特定できており、かつ抹消登記手続きに協力をしてくれるのであれば比較的簡単です(比較的、です)。これは個人の場合も、法人の場合も同様です。
当該債権者が個人の場合で、当初の債権者の相続人等と一緒に手続きをするときは、本当に返済を受けたのか、抵当権の抹消登記に応じると損をするのではないか、などの債権者の疑問をきちんと説明をする必要があると考えます。
当該債権者が(連絡のとれる)法人である場合は、返済の記録が残されていることが多いため一定の手数料を請求されることはありますが、抵当権の抹消登記に応じてくれる可能性が高いといえます。
⇒旧殖産住宅相互株式会社の抵当権抹消登記
債権者が清算結了している法人
債権者が法人であるときに、当該法人の登記簿を確認したところ清算結了してしまっている場合は、登記権利者と清算人が共同で抵当権抹消登記を申請することができます。
清算人への報酬が発生することがあります。また、清算人が既に死亡しているときは、裁判所に清算人を選任してもらう必要があります。
債権者が登記簿上は残っているが連絡が取れない法人
債権者が法人であるときに、登記簿上法人は存在しているが連絡が取れないような場合(営業活動をしていない場合)、代表者に代わる人を選任してもらうことにより、当該代表者に代わる人と登記権利者が共同で抵当権抹消登記を申請することができます。
供託による手続き
債権者が行方不明であり、弁済期から20年以上が経過していて、債権額と利息、さらには損害賠償金の合計額を供託するという条件を満たせば、権利者(不動産所有者)が単独で抵当権の抹消登記をすることができます。
ただし、行方不明の要件及びその証明が大変であったり、休眠担保権の時期や内容によっては供託する金額が少額ではないケースがあります。
除権決定による手続き
債権者が行方不明であっても、抵当権が消滅していることを証明することができるのであれば、裁判所の手続きを経て登記権利者単独で抵当権抹消登記を申請することができます。
上記証明が難しいケースが多いこと、費用や時間もかかることから、他の方法を選択することが多いです。
弁済証書等による手続き
債権者が行方不明であっても、被担保債権が弁済されたことを証明することができれば、当該情報を添付することにより登記権利者単独で抵当権抹消登記を申請することができます。
上記情報が残っているケースは少ないため、この手続きを利用することは難しいといえます。
訴訟による手続き
債権者が所在不明の場合、債権者が所在不明ではないが抵当権抹消登記手続きに協力しない場合は、債権者を相手方として抵当権抹消の訴訟を提起し、判決を得ることによって、登記権利者単独で抵当権抹消登記を申請することができます。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。