不動産登記関係 不動産登記における利益相反取引と第三者の承諾書(株式会社のケース)
取締役のする取引と利益相反
取締役が自分のために株式会社と取引をするときは、その株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示した上でその承認を受けなければならないとされています(会社法第356条)。
取締役が自分のためにする取引とは、取締役が実際に経済的な利益を受ける取引だけではなく、その取引が利益相反取引に該当するかは外形的に判断されるため、取締役が実際に経済的な利益を受けない取引も利益相反取引に該当します。
取締役が1,000万円で購入した土地を、自分が取締役を務める株式会社に1,200万円で売却した場合も、800万円で売却した場合も、利益相反取引に該当することになります。
ただし、次のような明らかに会社の利益を害さない取引は利益相反取引に該当しません。
- 取締役から会社への贈与
- 取締役から会社への債務免除
利益相反取引と不動産登記
不動産登記手続きにおいて、第三者の承諾を証する情報を提出しなければならないケースがあり、取締役と会社が不動産の売買をしたときは、この利益相反取引を会社が承認したことを証する情報も法務局へ提出しなければなりません。
利益相反取引の承認機関
利益相反取引の承認機関は取締役会の設置の有無により異なり、次のとおりとなっています。
- 取締役会の決議(取締役会設置会社の場合)
- 株主総会の決議(取締役会非設置会社の場合)
株式会社における第三者の承諾を証する情報
取締役と会社で不動産を売買したようなときは、その所有者変更の登記申請の際に、上記の承認機関が承認をしたことを証する情報を法務局へ提出します。
利益相反取引を承認したことを証する情報は、取締役会設置会社であれば取締役会議事録であり、取締役会非設置会社であれば株主総会議事録がそれに当たります。
なお、取締役会非設置会社の場合、株主全員の同意書を株主総会議事録の代わりに提出をすることもできるとされています。
しかし、株主全員が同意書に記名押印をして、押印をした印鑑の印鑑証明書を添付しなければならないため、利用されるケースはあまり多くないでしょう。
取締役会議事録、株主総会議事録ともに、いわゆるみなし取締役会に係る議事録、みなし株主総会に係る議事録でも問題ありません。
≫みなし取締役会(決議)-会社法第370条
≫みなし株主総会(決議)-会社法第319条
議事録への押印と印鑑証明書
第三者の承諾を証する情報として法務局へ提出する取締役会議事録、株主総会議事録にはそれぞれ押印とその印鑑証明書の添付が必要とされています。
取締役会議事録の場合
取締役会に出席した取締役と監査役は、書面で作成された取締役会議事録に署名するか記名押印しなければなりません(会社法第369条3項)。
不動産登記における第三者の承諾を証する情報として取締役会議事録を提出するときは、取締役会議事録に出席した取締役及び監査役は実印を押し、その印鑑証明書を添付する必要があります。
ここでいう実印とは、代表取締役とその他の役員で異なります。
- 代表取締役・・・・・会社実印(法務局へ届け出ている会社代表印)
- 取締役、監査役・・・個人実印
みなし取締役会議事録の場合
みなし取締役会決議(会社法第370条)が成立したときは、その議事録には議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を記載します。
みなし取締役会議事録を第三者の承諾を証する情報として提出するときは、議事録作成者の押印(実印)とその印鑑証明書の添付で足りることになっています。
ただし、業務監査権限のある監査役が異議を述べなかったことを証する情報も併せて必要となります。
特別利害関係人と取締役会
取締役会決議について特別の利害関係を有する取締役は、その議決に加わることができません(会社法第369条2項)。
特別の利害関係を有する取締役とは、不動産を会社に売る取締役または会社から不動産を買う取締役のことをいいます。
特別の利害関係を有する取締役が決議に加わっていたり、当該取締役会の議案に係る議長にならないようにします。
しかし、決議に参加できない特別利害関係を有する取締役が取締役会に出席したときは、出席義務のない監査役(下記参照)と同様に、出席したのであれば出席取締役として記名押印+その印鑑証明書が必要になりそうです。
なお、当該利害関係を有する取締役も、利益相反承認以外に同一の取締役会において決議事項があればそちらには参加できます。
監査役の取締役会への出席義務
業務監査権限のある監査役は取締役会への出席義務があります。
一方で、会計監査権限しかない監査役は取締役会への出席義務がありません。
(一定の場合は、取締役会への出席して報告する義務があります(会社法第389条3項)。)
なお、出席義務のない監査役が取締役会へ出席したときは、その議事録への記名押印義務が発生します。
株主総会議事録の場合
会社法が施行されてからは、会社法上では株主総会議事録への取締役等の署名義務が無くなりました。
不動産登記における第三者の承諾を証する情報として株主総会議事録を提出するときは、少なくとも議事録作成者1名が記名押印をして、実印の押印及び印鑑証明書の添付をする必要があります。
なお、ここでいう実印とは上記のとおりで、代表取締役は会社実印(法務局へ届け出ている会社代表印)であり、それ以外の取締役、監査役であれば個人実印がそれに当たります。
印鑑証明書と原本還付
取締役会議事録、株主総会議事録に添付した印鑑証明書の原本還付をすることはできません。
なお、取締役会議事録あるいは株主総会議事録自体は原本還付をすることができます。
印鑑証明書の有効期限はあるか
取締役会議事録、株主総会議事録に添付する印鑑証明書の有効期限はありません。
3ヶ月以内に取得したものでなくてはならないという決まりはありません。
登記義務者としての印鑑証明書と議事録に添付する印鑑証明書
登記義務者(売買における売主)は、作成後3ヶ月以内の印鑑証明書を添付します(上記と異なり、こちらは3ヶ月以内に取得したものです)。
売主が取締役で買主が株式会社(取締役会設置会社)である場合、売主として提出する印鑑証明書と、買主である株式会社の取締役会議事録に添付する印鑑証明書が法律上求められます。
この2つの印鑑証明書は内容が同じもの(同一の日に取得したもの)であっても、原則として1通ではなく2通必要とされています。
印鑑証明書を添付する根拠が異なることがその理由とされています。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。