商業登記関係 新設分割の手続き
新設分割
会社法第2条によると、新設分割とは、一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることをいいます。以下、新設分割によって新たに設立し、権利義務を承継する会社を設立会社といい、新設分割によって設立会社に権利義務を承継させる会社を分割会社といいます。
新設分割手続きには、債権者保護手続きをする場合、最短で1.5ヶ月の期間、通常は2ヶ月程度の期間がかかるため、思い立ったとしても明日すぐに親切分割ができるわけではありません。また、吸収分割は効力発生日までに一定の手続きを経なければならないため、スケジュールを立てて手続きに抜けや漏れがないようにすることが重要です。
新設分割のできる会社
分割会社は株式会社または合同会社に限られています。設立会社は株式会社、合同会社、合資会社または合名会社がなることができます。
特例有限会社と新設分割
特例有限会社は平成18年5月以降は新たに設立することができませんので、新設分割における設立会社となることができません。
なお、特例有限会社は新設分割における分割会社となることはできます。
分社型新設分割と分割型新設分割
新設分割における分割対価は分割会社に交付されます。これを分社型新設分割といいます。
これに対して新設分割における分割対価を、分割会社の株主等に取得させることも可能です。これを分割型新設分割といいます。分割型新設分割においては、分割対価が設立会社から直接分割会社の株主に渡るわけではなく、一度分割会社に交付されることになるので、分割型新設分割は「分社型新設分割+剰余金の配当」ということになります。剰余金の配当の他に、全部取得条項付種類株式を利用することもできます。
新設分割のスケジュール
4月1日を効力発生日とするスケジュール例です。
1月中旬 | 分割の準備 (新設分割計画の内容、債権者の確認、労働者との協議等) | |
2月1日 | 取締役会決議 (新設分割計画の承認、株主総会の招集決定) 官報公告の申込み | |
2月10日 | 労働者への事前通知 | |
2月25日 | 官報に分割公告が掲載 債権者への個別催告 契約書等の事前備置 | |
3月1日 | 株主総会招集通知 反対株主等への通知 | |
3月25日 | 株主総会決議(新設分割計画の承認) 債権者異議申述期間満了 | |
4月1日 | 分割の登記申請 | 設立の登記申請 |
4月1日以降 | 分割に関する書類の事後備置 | 分割に関する書類の事後備置 |
新設分割の一般的な手続き
新設分割の一般的な手続きは次のとおりです。新設分割を行う会社の事情等により、他の手続きが必要となるケースもあります。手続きに瑕疵があると新設分割が無効となる可能性がありますので、手続きが不安な場合は税務・労務・法律・登記・許認可まで全てワンストップで対応ができる当グループまでご相談ください。
新設分割計画の作成
吸収分割をする会社は、分割契約書の締結が必須です。分割契約書には最低限、次の事項(一例)を定める必要があります。
- 設立会社の商号、本店所在地、目的、発行可能株式総数等
- 設立会社の定款で定める事項
- 設立会社の役員の氏名
- 分割会社から設立会社へ承継する資産や債務その他の権利義務に関する事項
- 分割対価、資本金、資本準備金に関する事項
- 分割型新設分割である場合はそれにかかる一定の事項
書面の事前備置
分割会社は債権者保護手続き等の分割手続きを行う日から、設立会社が設立された日から6ヶ月を経過するまで一定の事項を記載した書面等を本店に備え置かなければなりません。分割会社が持分会社の場合はは本手続きは不要です。
以下は一定の事項の一例です。
- 新設分割計画の内容
- 分割対価の相当性に関する事項
- 分割型新設分割である場合はそれにかかる一定の事項
- 計算書類等に関する事項
- 効力発生日以降に設立会社の債務の履行の見込みに関する事項
官報公告
分割会社はその債権者の保護のために、基本的には官報公告によって、新設分割をすること、新設分割により設立をする設立会社の商号・住所、原則として貸借対照表の要旨、債権者が一定期間異議を述べることができる旨、掲載しなければなりません。
これは会社の公告方法として日刊新聞紙や電子公告を定めている場合も同様です。
分割公告と一緒に貸借対照表の要旨も掲載する場合は、官報申込みから10~11営業日程度、貸借対照表の要旨を掲載しない場合は5~6営業日程度、申込みから掲載まで要します。
債権者への個別催告
官報公告と併せて、各債権者への各別の催告も必要とされています。
この各債権者への催告は、定款で公告方法を日刊新聞紙や電子公告と定めているときは、官報公告に加えて定款の公告方法による公告を行うことにより省略することができます。公告方法が官報である会社は各債権者への催告を省略をすることはできません。
⇒いわゆるダブル(二重)公告
新設分割において債権者保護手続きが不要なケース
分社型新設分割において、新設分割後も分割会社に対して権利行使をすることができる債権者には、債権者保護手続きが不要とされています。
これは、債務が分割会社に留まる場合に限られず、設立会社に債務が移転する場合でも、分割会社が連帯保証をするケースや重畳的債務引受けをするケースも含まれます。
但し、吸収分割後も分割会社に対して権利行使をすることができる債権者であっても、当該債権者を害することを知りながら行われた吸収分割においては、当該債権者は承継会社に対しても債務の履行を請求することができるとされています。
会社分割に伴う労働契約の承継等
分割会社から設立会社へ承継される事業で働いている従業員は、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律に基づき、事前の通知を受ける権利や異議を申し出る権利が与えられており、分割会社はその従業員に対する一定の手続きをしなければなりません。
新設分割にかかる決議をする株主総会開催日の2週間前の日の前日までに、一定の事項を書面によって通知する必要があります。
株主総会招集通知と反対株主等への通知
株主総会を開催するときは、原則として総会日の1週間前、公開会社においては2週間前までに招集通知を発送しなければなりません。非公開会社でかつ取締役会非設置である会社は、定款で1週間よりも短い期間にすることも可能です。
1週間前に招集通知を発送する必要のある会社は、発送日から株主総会開催日まで、まる7日間が必要となります。例えば3月25日(水曜日)に株主総会を開催するときは、3月17日(火曜日)までに招集通知を発送しなければなりません。
なお、書面投票または電子投票を実施する場合は、非公開会社においても2週間前までに招集通知を発送する必要があります。
分割会社は、その株主等に対して、効力発生日の20日前までに新設分割をする旨等を通知または公告をする必要がありますが、これを単独でする必要はなく、株主総会の招集通知と併せて通知をしたり、分割公告と併せて公告をしたりすることもできます。
株主総会の決議
簡易新設分割の場合は、差損が生じる場合等を除き株主総会の決議は不要となりますが、原則として吸収分割の効力発生日の前日までに株主総会の【特別決議】による承認が必要となります。
新設分割の効力発生
新設分割においては、登記が効力発生要件となっているため、新設分割にかかる登記申請をした日に効力が発生します。そのため、効力発生日として法務局が開いていない土日祝日を定めることはできません。
新設分割の登記申請
新設分割の登記は、設立会社の設立登記と分割会社の変更登記を【同時】にしなければなりません。
【設立会社にかかる登記申請添付書類(一例)】
- 新設分割計画書
- 定款
- 代表取締役の選定書(必要な場合)
- 役員の就任承諾書
- 役員の印鑑証明書
- 役員の本人確認証明書
- 新設分割計画を承認した株主総会議事録(分割会社)
- 債権者保護手続き関係書面
- 新株予約権証券提供公告をしたことを証する書面※あまりケースとしては多くありません。
- 分割会社の登記事項証明書(設立会社と管轄法務局が異なる場合)
- 資本金の計上証明書
- 株主リスト(分割会社)
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
(または株券を発行していないことを証する書面・・・株主名簿など)
(分割会社の会社法人等番号を記載した場合は不要)
【分割会社にかかる登記申請添付書類(一例)】
- 会社の印鑑証明書
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
書面の事後備置
設立会社・分割会社が株式会社であるときは、新設分割の効力発生日以後遅滞なく、法務省令で定められている事項につき記載した書面または電磁的記録を作成しなければならず、効力発生日から6ヶ月間会社の本店に備え置かなければなりません(会社法第791条、第801条)
法務省令で定められている事項とは、新設分割の効力が発生した日、当該分割により承継した重要な権利義務等です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。