商業登記関係 新株予約権の発行時、各引受人にお互いの氏名や新株予約権の割当数を知られたくない
募集新株予約権の発行と新株予約権者の氏名
従業員へのストックオプション(新株予約権)を発行するときに、当該新株予約権の引受人である従業員へ、各引受人の氏名や新株予約権の割当数を知られないように手続きを行いたい、というニーズがあります。
引受人は取締役ではなく全て従業員という前提の下、第三者割当の方法により募集新株予約権を発行する場合の手続きについて見ていきます。
総数引受契約方式
第三者割当ての方法による募集新株予約権の発行手続きには、申込み+割当方式(会社法第203条、同法204条)と総数引受契約方式(会社法第205条)があります。
総数引受契約の方法で行う場合、総数引受契約書の内容として総数引受契約が同一の機会にされた一体的なものと評価できる内容であることが求められます。
引受人が複数いる場合でも総数引受契約方式を利用することができますが、その契約書には少なくとも「他の引受人とともにその総数を引き受ける」等の記載が必要です。
上記記載があれば他の引受人の氏名や割当個数の記載は不要とされていますので、各引受人が他の引受人の情報を得ることなく手続きを進めることが可能です。
申込み+割当て方式
募集新株予約権の発行手続きを申込み+割当て方式で行うと、各申込人は他の申込人の情報を得ることができません。
申込みをするときだけではなく、割当てを受け、新株予約権を引き受けるときも同様です。
新株予約権の割当ては、株主総会の決議(取締役会非設置会社)または取締役会の決議ですので、引受人が株主でも取締役でもなければ、誰に何個割り当てるのかを引受人が知ることはできません。
株主が新株予約権を引き受ける場合
株主割当による募集新株予約権の発行(会社法第241条)においては、
各株主の持株数に応じて新株予約権を割り当てるので、他の株主に割り当てる新株予約権の数が分かることになります。
株主割当による募集新株予約権の発行が行われるケースは少ないように思います。
第三者割当ての方法により株主へ新株予約権を割り当てると、株主総会において割当て又は総数引受契約承認をする場合を除き、各株主へ何個の新株予約権を付与するのかを各株主は把握することができません。
引受人に他の引受人の情報を知られない方法
募集新株予約権の発行を第三者割当ての方法で行い、総数引受契約方式を採用した場合は他の引受人に関する記載をせず、当該会社が取締役会設置会社であれば各引受人が他の引受人の情報を知ることなく発行することができそうです。
取締役会非設置会社においても、新株予約権の割当て又は新株予約権に係る総数引受契約の承認機関を取締役の決定で行う旨を定款に定めることにより、同様の効果を得られます。
なお、下記新株予約権原簿の項もご参照ください。
新株予約権原簿
株式会社は、新株予約権を発行した日以後遅滞なく、新株予約権原簿を作成しなければなりません(会社法第249条)。
新株予約権原簿には、「新株予約権者の氏名及び住所」や「各新株予約権者の有する新株予約権の内容及び数」その他を記載します。
新株予約権原簿の閲覧
株主及び債権者は、株式会社の営業時間内はいつでも、請求の理由を明らかにして、新株予約権原簿を閲覧することができます(会社法第252条2項)。
そして、新株予約権者は会社法第252条2項の「債権者」に該当するとされているため、新株予約権原簿の閲覧を請求することができるものとされています。
この請求は、当該請求の理由を明らかにして行う必要があり、一定の場合には発行会社がこれを拒むことができます(会社法第252条3項)。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。