商業登記関係 株式会社を設立する時に払い込む、出資金に関する疑問にお答えします
発起人は出資が必要
株式会社を設立するときは、発起人は必ず1株以上引き受けなければならず(会社法第32条1項)、遅滞なく出資に係る金銭の全額を払い込まなければなりません(会社法第34条1項)。
株式会社の設立登記を法務局へ申請するときは、この払込みがあったことを証する書面を添付することが義務付けられています。
つまり発起人が出資金を払い込み、それを証する書面を用意しなければ株式会社を設立することができないということになります。
出資金はいつ、誰に、どのように、いくら払い込まなければならないのでしょうか。
よくいただくご質問にお答えします。
通帳は新しく用意しなければならないのでしょうか
資本金を振り込む発起人の通帳は、発起人が普段使用しているもので問題ありません。
会社設立後は、法人口座を開設してそちらに事業用資金を移すことになるため、設立のためだけに新しく個人口座を開設しなくても良いと思います。
通帳の他の振込履歴を見られたくありません
資本金の入金履歴以外の入出金記録は、黒く塗りつぶしても問題ありません。
資本金が入金された時の残高については、塗りつぶしていいのかどうかは分かりませんが、当事務所に設立登記をご依頼いただいた場合は資本金の入金直後の残高は表示していただいています。
ネット銀行の口座でも大丈夫ですか?
資本金を振り込む発起人の銀行口座は、ネット銀行の口座でも問題ありません。
ネット銀行には通帳が無いことがほとんどですので、通帳の写しの代わりに、次の記載のあるページをプリントアウトして払込証明書の一部として法務局へ提出します。
- 銀行名
- 支店名
- 口座番号
- 口座名義人
- 資本金の入金履歴
※ページが複数にわたるときは、口座番号等で同じ口座に関するものであることを示す等する場合があります。
発起人が日本に銀行口座がありません
発起人が銀行口座を有していない場合は、取締役の銀行口座に資本金を振り込むこともできます。
取締役の銀行口座を利用するときは、発起人から当該取締役へ資本金受領に関する委任状が必要となります。
この委任状は、設立の登記申請書の添付書類として提出が求められます。
発起人も取締役も日本に銀行口座がありません
登記申請書の添付書類から、発起人及び設立時取締役全員が日本国内に住所を有していないことが明らかな場合は、発起人及び設立時取締役以外の人の預貯金口座に資本金を払い込むことができます。
なお、この場合も発起人から当該口座名義人への資本金受領に関する委任状が必要です。
外国の銀行口座でも大丈夫ですか?
外国銀行の日本支店があるのであれば、外国銀行の日本国内支店(内閣総理大臣の認可を受けて設置された銀行)の口座も登記に使用できます。
外国銀行の海外本店・支店は払込証明書の一部として利用することはできません。
内国銀行の日本国内支店 | みずほ銀行銀座支店 | |
内国銀行の海外支店 | 三井住友銀行ロンドン支店 | |
外国銀行の日本国内支店 | 中国銀行(Bank of China)東京支店 | |
外国銀行の海外本店・支店 | 中国銀行(Bank of China)北京本店 |
払い込むタイミングはいつでもいい?
資本金を払い込む日は、定款作成日以降の日であれば登記手続き上、問題ありません。
定款作成日と同日でもOKです。
定款作成日とは、定款に記載された日付のことを指します。必ずしも定款認証日以降の日でなくても大丈夫です。
(2022.6.28追記)
定款作成日よりも前に払込みがあったものでも、当該設立に際して出資されたものと認められるものであれば、当該払込証明書をもって設立登記申請の添付書類として使用できることになりました(令和4年6月13日付法務省民商第286号)。
払い込む金額はピッタリでないとダメ?
資本金として払い込む金額は、定款や発起人によって払い込むものと決められた金額以上の金額であれば、必ずしもピッタリの金額でなくても問題ありません。
発起人が株式の対価として払い込む金額が100万円であるときに、150万円を払い込んだとしても大丈夫です。
なお、この場合の資本金に計上できる額は150万円ではなく100万円です。
出資金を複数回に分けて振り込んでも大丈夫?
出資金は複数回に分けて振り込んでも問題ありません。
出資金が100万円であるときに、10万円を10回に分けて振り込むことも可能です。
10万円の入金と出金を10回繰り返しても登記はできますが、いわゆる「見せ金」は禁止されています。
通帳のコピーを取った時の残高が0円です
出資金は払い込んだ事実が大切であり、残高は問題視されません。
資本金の入金履歴があれば、通帳のコピーを取った時の口座残高が0円であっても問題はありません。
払い込む人の名前の記載は必要?
発起人の氏名と振り込んだ金額が、定款等で定めた内容と同じである必要はありません。
外国送金や入金等のように振り込んだ人の氏名が記載されていないくても問題ありません。
また、発起人が3名いるときに、1名が全員分を払い込んだ記載のある通帳の履歴でもOKです。
出資金として、発起人の1人が現金を他の発起人から受け取り、それを出資金としてまとめて振り込むこともあるためです。
出資金は円じゃなきゃダメですか?
外国通貨による資本金の払い込みも可能です。
その場合、払込証明書に次の2点も追加で記載します。
- 払込みがあった日の為替相場(例:2018年9月3日1ドル=111円)
- 払い込まれた金額を払込みがあった日の為替相場に基づき換算した日本円の金額
口座に出資金の金額以上の残高があります
大切なのは残高ではなく、出資金が振り込まれたという事実です。
払い込むものと決められた金額が100万円、口座残高が100万円あるときは、一度全額出金してすぐに入金する等してでも入金の履歴を作らなくてはなりません。
出資金を振り込んだ後、引き出してしまいました
大切なのは出資金が払い込まれたという事実です。
振り込まれた後、これから設立する会社の事業のために資金を利用することもあり得るため、引き出した履歴が残っていても問題ありません。
払込証明書に押す印鑑は何ですか?
会社実印です。
会社実印とは、設立の登記申請書と一緒に提出する印鑑届書に押した印鑑のことを指します。
(2021年4月追記)
商業・法人登記手続について押印規定の見直しがされた結果、払込証明書に会社実印の押印がなくても登記手続き上は問題がないことになりました。
払込証明書と通帳の写しに割印は必要ですか?
払込証明書の表紙と通帳の写しは、ホチキスで合綴します。
各ページには会社実印で割印をするか、製本した上で表紙や最終ページに(製本テープと用紙で)割印をします。
払込証明書の表紙はどのようなものですか?
払込証明書の表紙は、次のようなものです。
当会社の設立時発行株式につき、以下のとおり全額の払込みがあったことを証明します。
設立時発行株式数 100株
払込みを受けた金額 金100万円
平成30年9月4日
汐留太郎株式会社
設立時代表取締役 汐留太郎 印
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。