商業登記関係 監査役の会計監査限定の登記をするのを忘れてしまったときの対処法
監査役と会計監査限定の登記
監査役を置いている株式会社では、「監査役の氏名」及び「監査役設置会社である旨」の2つは登記事項とされています。
監査役会を置いている株式会社では、「監査役会設置会社である旨」及び社外監査役については「社外監査役」の登記をしなければなりません。
ところで、平成27年5月1日から、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めのある株式会社においては「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨」も登記事項として新たに追加されました。
ここでは「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨」の登記を、以下「会計限定監査役の定めの登記」といい、監査役の監査の権限を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを、以下「会計限定監査役の定め」といいます。
登記簿を確認しましたが会計限定の記載がありません
会計限定監査役の定めのある株式会社が、登記簿を確認したときに会計監査限定の登記がされてなかったとしても、当該登記をするのを忘れてしまっているのかどうかは確定しません。
なぜなら、会計限定監査役の定めの登記には経過措置があり、一定のタイミングまではその登記をしなくても良いとされているためです。
この一定のタイミングが到来していない株式会社においては、会計限定監査役の定めの登記がされていなくても登記懈怠には該当しません。
会計限定監査役の定めの登記をするタイミング
平成27年5月1日以前に会計限定監査役の定めがあった株式会社については、平成27年5月1日以降に初めて就任または退任する監査役の登記と併せて会計限定監査役の定めの登記を行えば問題ありません。
つまり監査役の監査の範囲が会計に関するものに限定されている株式会社でも、平成27年5月1日以降に就任または退任する監査役の登記をする機会の無かった会社は、会計限定監査役の定めの登記をしていなくても法的に問題はありません(監査役の選任懈怠、登記懈怠を除く)。
なお、上記のような株式会社においても、平成27年5月1日以降に監査役の登記をするよりも前に会計限定監査役の定めの登記を単独ですることも可能です。
上記例外を除き、平成27年5月1日以降に設立された株式会社(会計限定監査役の定めのあるもの)、監査役の変更をした株式会社(会計限定監査役の定めのあるもの)、新たに会計限定監査役の定めを設けた株式会社が、会計限定監査役の定めの登記をしていない場合は登記懈怠に陥っています。
会計限定監査役の定めの登記をしなければならないタイミングの詳細については、次の記事をご確認ください。
当社の監査役の監査権限は?
平成18年5月1日以降に設立された株式会社の監査役の監査の範囲は、会計限定監査役の定めが無ければ業務監査及び会計監査です。
平成18年5月1日より前に設立された株式会社で、次の条件を全て満たす株式会社の監査役には会計監査権限しかありません。
- 平成18年5月1日当時、資本金が1億円以下かつ負債の合計額が200億円未満
- 非公開会社(現在もその状態が続いている。)
- 監査役に業務監査権限を付与する定款変更をしていない。
- 監査役会非設置会社、会計監査人を設置していない。
法務局は教えてくれない?
監査役の重任登記をしたり、監査役の退任・選任登記をするときに、定款を添付しないケースは少なくありません。
例えば平成26年6月15日に就任した監査役A(会計監査権限のみ)が、平成30年6月21日に任期満了により重任したときはこの重任登記を申請することになりますが、会計限定監査役の定めの登記を申請しなくても法務局は何も指摘をしてきません。
監査役Aに業務監査権限があるのかどうか、登記官は判断できないためです。
そのため、会計限定監査役の定めの登記が必要であることを登記申請人が把握をして登記申請をしない限り、会計限定監査役の定めの登記をし忘れて誰も気付いていないという状態が生じ得るということになります。
会計限定監査役の定めの登記を申請する
会計限定監査役の定めの登記をすべきタイミングでそれを失念していた場合は、当該変更登記を別途申請することになります。
登記の事由は、
登記すべき事項は、
「役員に関するその他の事項」
監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある
になるかと思います。
登録免許税は1万円(資本金の額が1億円以上の株式会社は3万円)です。
添付書類
会計限定監査役の定めの登記申請に係る添付書類の一例は次のとおりです。
- 定款 or
- 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあることを証する書面※
※こちらの法務省のページをご参照ください。
後から定款変更したことにすることはできるか
登記懈怠を避けるために、新たに会計限定監査役の定めを設けたことにする、ことはしない方がいいでしょう。
そもそも、事実に反する内容を登記簿に記載することは禁止されていますし、会計監査権限しかなかった監査役に業務監査権限も付与されていたとなると、義務があったのに監査役が業務監査の履行をしていなかったことになってしまいます。
また、会計限定監査役の定めのある株式会社が当該定めを削除すると、監査役が退任することにも注意が必要です。
会計限定監査役の定めの登記をし忘れていたのであれば、速やかに当該登記をするしかありません。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。