不動産登記関係 剰余金の配当を原因とする不動産の所有権移転登記
剰余金の配当と不動産
株式会社は、その株主(当該株式会社を除く。)に対し、剰余金の配当をすることができます(会社法第453条)。
典型的なケースは、その他利益剰余金を減少させて株主に対して金銭を配当するケースです。
一方で、配当する財産の種類は金銭に限られませんので、株式会社の有する他社の株式や、株式会社の有する不動産も配当の対象とすることが可能です。金銭以外の財産の配当は現物配当と呼ばれています。
剰余金を配当するときの決議事項
株式会社が剰余金を配当するときは、次の事項を株主総会の決議によって定めます(会社法第454条1項)。
- 配当財産の種類(当該株式会社の株式等を除く。)及び帳簿価額の総額
- 株主に対する配当財産の割当てに関する事項
- 当該剰余金の配当がその効力を生ずる日
不動産の現物配当を行うケースは、完全親会社に子会社の不動産を移すケースがほとんどですので株主は1名(種類株式の定めなし)であることを前提とすると、一例としては次のような決議内容となります(発行済株式数:100株)。
議長より、当会社の唯一の株主である株式会社●●●●に対し、下記のとおりその他利益剰余金から剰余金の配当をしたい旨を述べ、議場にその賛否を諮ったところ、満場一致をもってこれに賛成した。
(1)配当財産の種類
当会社が所有する次の不動産
①東京都●●区●●一丁目1番1の土地
②東京都●●区●●一丁目1番2の土地
(2)この帳簿価格の総額 金8000万円
2.配当財産の割当てに関する事項
普通株式100株につき上記①②の不動産を配当する。
3.剰余金の配当が効力を生じる日
令和7年12月31日
分配可能額による制限
剰余金を配当するときは、配当する財産の帳簿価額の総額が配当の効力発生日における分配可能額を超えてはならないルールに注意を要します(会社法第461条1項)
分配可能額の計算については、顧問税理士の先生にご確認いただくのが無難です。
また、剰余金の配当をした結果、株式会社の純資産額が300万円を下回るような配当は行うことができません(会社法第458条)。
不動産登記
剰余金の配当により不動産の所有権が移転したときは、当該不動産につき所有権移転の登記を申請します。
当該不動産登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 登記原因証明情報
- 登記済証または登記識別情報
- 委任状(司法書士等に委任する場合)
登記事項証明書等の添付を省略するために、会社法人等番号も記載します。また、対象不動産の評価額を示すため評価証明書や納税通知書も添付します。
登記原因及び登録免許税
この登記の登記原因は「令和●年●月●日剰余金の配当」であり、登録免許税は課税標準となる不動産の価格に1000分の20を乗じた額となります。
このページでは剰余金の配当に関する手続きを取り扱っていますが、不動産の所有権を株主へ移転する方法は剰余金の配当に限られませんので、税務コスト・手続きコスト等を勘案のし顧問税理士の先生とご相談の上決定ください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。





