はじめに:今、なぜベトナムビジネスに注目すべきか
ベトナムは人口約1億人、2025年の実質GDP成長率8.0%超(IMF推計)と、ASEANの中でも特に高い成長を続けています。日系企業の現地拠点数は2,394社(外務省2023年調査)に達しており、製造業の主要拠点としてはもちろん、消費市場・デジタル経済・再生可能エネルギーの成長機会としても、日本企業の関心は高まるばかりです。
一方で、2025年7月から施行された包括的税制改正(VAT法・法人税法の大幅改定)、グローバルミニマム課税(GMT)の2024年度からの適用開始、電子インボイスの義務化など、制度面の変化が急ピッチで続いています。本稿では、RSM Vietnamの専門家チームの知見をもとに、「2026年6月現在」の最新情報に基づいて、ベトナム進出・現地事業運営を検討する日本企業が押さえるべき実務ポイントを整理します。
1. ベトナムへの投資の魅力:6つの視点
RSM Vietnamの専門家チームが整理するベトナムの投資魅力を、日本企業への示唆とあわせて以下の表にまとめます。
| 投資魅力の要素 | 日本企業への示唆 |
| ① 戦略的立地 | 中国・インド・ASEAN各国に近接。サプライチェーン多元化のハブとして活用可能 |
| ② 有利な貿易協定 | CPTPP・RCEP・EU-FTAに加盟。多くの市場への特恵的アクセスが利用可能 |
| ③ 政治・経済の安定 | 共産党の一党体制のもと、FDI誘致に向けた投資優遇・規制整備が継続 |
| ④ 競争力ある労働力 | 人口約1億人、35歳以下の若年層が多数。製造・IT・サービス業向けの労働力が豊富 |
| ⑤ 急成長する消費市場 | 2025年実質GDP成長率8.0%超。中間層拡大と都市化で消費財・サービス需要が増大 |
| ⑥ グリーン・デジタル需要 | 再生可能エネルギー・IT・フィンテック・eコマースで日本企業の参入機会が拡大 |
チャイナ・プラスワン戦略とベトナムの位置づけ
地政学リスクの高まりと対中依存のリスク分散を背景に、製造拠点の多元化(チャイナ・プラスワン)においてベトナムは筆頭候補の一つとなっています。特に電子機器・半導体関連・繊維・自動車部品分野では、日本企業による新規投資・拡大投資が続いています。ただし、米国の関税政策の変化(2025年に米越間で関税20%の協定が成立)がベトナムの輸出環境に影響する可能性もあり、生産計画の前提となる貿易条件を継続的に確認することが重要です。
デジタル経済とグリーン・イニシアティブ
ベトナム政府は再生可能エネルギー分野のリーダーを目指しており、太陽光・風力・スマートエネルギーシステムにおける日本の先進技術との親和性は高いです。また、ITインフラ・フィンテック・eコマース・スマートシティ分野では、ハイテクに精通した若年人口とインターネット普及率の高さを背景に、デジタルビジネスの機会が急拡大しています。
2. ベトナムの投資税制優遇:日本企業が活用できる制度
ベトナムの投資法令は、外国からの投資を誘致するため、法人所得税(CIT)の優遇税率・免除・軽減、土地賃料の免除・軽減、輸入関税・VAT免除という3本柱の優遇措置を設けています。なかでもCIT優遇は日本企業にとって影響が大きく、分野・プロジェクト要件を満たせば大幅な税負担軽減が可能です。
| 優遇対象分野・プロジェクト | 主な優遇内容 |
| ハイテク分野(IT・新素材・ソフトウェア等) | CIT10%(15年間)CIT免除(4年間)CIT50%軽減(9年間) |
| 大規模製造(6兆ドン超、雇用3,000人以上等) | CIT10%(15年間)CIT免除(4年間)CIT50%軽減(9年間) |
| 社会的重要分野(医療・教育・環境・職業訓練等) | CIT10%(全期間)CIT免除(4年間)CIT50%軽減(9年間) |
【留意点①】グローバルミニマム課税との関係:上記優遇措置により実効税率が15%を下回る場合、連結売上7.5億ユーロ超の多国籍企業グループでは、グローバルミニマム課税(GMT)によるトップアップ税が発生する可能性があります。CIT優遇とGMTの影響を合わせて試算することが不可欠です。
【留意点②】中小企業向け優遇税率(2025年〜):2025年10月施行の新法人税法(法律第67/2025/QH15号)により、中小企業向けにCIT15〜17%の優遇税率が導入されました。親会社の年間総収入が一定額を超える場合は対象外となるケースがあるため、適用可否の確認が必要です。
3. 税務:日本企業が押さえるべきベトナムの税制
2025年以降のベトナムは、VAT法・法人税法の包括的な改正、GMTの本格適用、電子インボイスの義務化など、税務環境が大きく変化しています。以下の表に主要税目をまとめます。
| 税目 | 税率 | 実務上のポイント |
| 法人所得税(CIT) | 標準20% | 中小企業向け15〜17%優遇税率あり(2025年〜) |
| 投資優遇CIT | 10%(最長15年) | ハイテク・大規模製造・社会分野プロジェクト対象 |
| 付加価値税(VAT) | 標準10%(一時減税8%) | 2025年7月〜の減税措置。内容・期間は都度確認要 |
| 外国契約者税(FCT) | CIT相当分+VAT(みなし税率) | 日本本社からのサービス提供・ロイヤリティ等に適用 |
| 個人所得税(PIT) | 最高35%(累進) | 雇用主が源泉徴収・納付義務を負う |
| グローバルミニマム税(GMT) | 実効税率15%以上 | 連結売上7.5億ユーロ超のMNE対象。2024年度から適用 |
論点① 法人所得税(CIT)と2025年10月施行の新法人税法
標準税率は20%ですが、2025年10月に施行された新法人税法により、中小企業を対象に15〜17%の優遇税率が導入されました。また、損金算入可能な費用の要件が厳格化されており、非現金支払の金額基準の引き下げ(現行2,000万ドンから500万ドンVAT込みへ変更予定)など、実務上の帳簿管理への影響も生じています。詳細は今後の政令で確定する予定であり、継続的な確認が必要です。
論点② VAT(付加価値税)と2025年7月以降の改正
VATの標準税率は10%ですが、景気支援策として8%への一時減税措置が継続されています(2025年7月以降の適用条件・期間は都度確認が必要)。また、2025年7月施行のVAT法改正により課税対象の調整が行われており、特に越境デジタルサービスへの課税範囲の拡大が日本本社からのサービス提供に影響する可能性があります。
論点③ 外国契約者税(FCT):ベトナム特有の注意点
FCT(Foreign Contractor Tax)はベトナム特有の制度で、法人格を持たずにベトナム企業へサービスを提供する外国企業・個人に課されます。FCTはCIT(法人所得税)相当分とVAT相当分から構成されるみなし課税で、サービス内容により税率が異なります。日本本社がベトナム現地法人へロイヤリティ・経営管理料・技術サービス料を請求する場合に適用される可能性が高く、契約締結前に課税対象となるか、負担者を契約書で明記するかを確認することが不可欠です。
なお、FCTと租税条約(日越租税条約)が相反する場合は租税条約が優先されるため、条約上の特典を受けられるかどうかを事前に専門家と確認しておくことを推奨します。
論点④ 個人所得税(PIT)と駐在員管理
居住者個人への所得税は累進課税で最高税率は35%です。雇用主は従業員に代わってPITを源泉徴収・納付する義務があります。日本人駐在員については、給与負担者(本社か現地法人か)・住宅手当・税負担補填の設計によって、個人所得税・法人税・移転価格の複数の論点が生じます。赴任前に給与設計・出向契約・申告義務を整理しておくことが重要です。
論点⑤ グローバルミニマム課税(GMT)の2024年度からの本格適用
ベトナムは2024年12月31日付でGMT実施のための国内法(政令236/2025/ND-CP)を整備し、2024年会計年度から適用が開始されています。連結売上7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループが対象で、適格国内最低課税(QDMTT)と所得合算ルール(IIR)を通じて実効税率15%以上が確保されます。ベトナムで投資優遇措置を受けてきた大規模グループにとっては、実効税率の再計算と申告体制の整備が急務です。
おわりに:RSMとともに、ベトナム進出の不確実性を確実性へ
ベトナムは、日本企業にとって製造拠点・消費市場・デジタル経済の三つの顔を持つ、戦略的に重要な進出先です。2025〜2026年にかけての包括的税制改正(VAT・CIT・GMT)は、現地法人の利益計画・資金繰り・コンプライアンス体制に直接影響するため、制度変化を継続的にウォッチすることが不可欠です。
本稿の作成にあたり、RSM VietnamのパートナーであるLam Le氏をはじめとする専門家チームより、現地の実務に基づく貴重な知見をご提供いただきました。RSM Vietnamは、外国投資家向けの税務・会計・コンサルティングに豊富な実績を持つ、ベトナムにおけるRSMインターナショナルのメンバーファームです。
RSM汐留パートナーズでは、RSM Vietnamとの緊密な連携のもと、現地法人設立の検討から投資優遇適用の確認、FCT・VATの取扱い整理、駐在員税務、グローバルミニマム課税への対応まで、ベトナムビジネスの各局面でワンストップのサポートを提供しています。ベトナムでの事業展開をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。
