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フィリピン事業で押さえるべき最新法改正― デジタルサービス課税・クロスボーダー取引・資本市場・外国人雇用まで、RSMのプロフェッショナルが解説 ―

フィリピン事業で押さえるべき最新法改正― デジタルサービス課税・クロスボーダー取引・資本市場・外国人雇用まで、RSMのプロフェッショナルが解説 ―

海外進出
2026年8月3日

はじめに:制度が数か月単位で動くフィリピンでは、都度の最新確認が欠かせない

フィリピンでは、2024年から2026年にかけて、税務行政のデジタル化、非居住事業者へのデジタルサービス課税、クロスボーダー取引に対する源泉税の運用、資本市場関連税制、外国人雇用規則など、企業実務に直接影響する制度改正が短期間のうちに相次いで公布されています。なかには、施行からわずか数か月で運用が修正されたものや、当初の期限が延長されたものも含まれており、「一度制度を確認したら終わり」ではなく、契約更新やグループ内取引の見直しのタイミングに合わせて最新の通達・規則を継続的に確認する姿勢が、従来以上に重要になっています。

フィリピンに拠点を置く企業だけでなく、日本本社がフィリピン子会社にサービスを提供する場合や、グループ内でクラウド利用料・ライセンス料・業務委託費を配賦する場合にも、現地税務上の検討が必要となる場面が増えています。

本稿は、RSM Philippinesの知見をベースに、2026年に入ってから公表された追加の通達・規則の内容を織り込みながら、フィリピンで事業を行う日本企業、またはフィリピンとの取引を有する日本企業が確認すべき近時の法改正について、デジタル化、クロスボーダー取引、資本市場、労務の観点から整理するものです。

1. フィリピン税務行政のデジタル化:BIRが進めるDXロードマップ

フィリピン内国歳入庁(BIR)は、税務コンプライアンスの効率化と行政サービスの改善を目的として、税務行政のデジタル化を進めています。この流れは、単に申告・納税手続をオンライン化するという範囲にとどまらず、インボイス発行、売上データの報告、会計システムの登録、税務調査におけるデータ確認など、企業の会計・販売・請求プロセスそのものに影響を及ぼします。

そのため、フィリピン拠点を有する企業は、税務部門だけでなく、経理、IT、営業管理、法務を含めて、現地制度に対応できる業務設計を行うことが重要です。特に、電子商取引、クラウドサービス、オンライン広告、デジタルコンテンツ、POSシステムを利用する事業では、税務行政のデジタル化を既に実務対応が必要なテーマとして位置づける必要があります。

2. デジタルサービスに対するVAT:非居住事業者にも及ぶ課税範囲と2026年6月の追加ガイダンス

フィリピンでは、共和国法第12023号により、デジタルサービスが12%の付加価値税(VAT)の対象となるサービス範囲に含められました。「デジタルサービス」とは、情報技術を利用してインターネットその他の電子ネットワークを通じて提供されるサービスであり、オンライン検索、オンラインマーケットプレイス、クラウドサービス、オンラインメディア、広告、プラットフォーム、デジタル商品などが含まれます。

重要なのは、フィリピン国内に物理的拠点を持たない非居住デジタルサービスプロバイダー(NRDSP)であっても、フィリピン国内でサービスが消費される場合には、VAT登録、VATの計算・徴収・納付といった義務が生じ得る点です。日本企業がフィリピンの顧客に直接デジタルサービスを提供している場合だけでなく、日本本社が契約主体となってグローバルサービスを利用し、その費用の一部をフィリピン子会社に配賦している場合にも、現地でのVAT課税関係を確認する必要があります。

なお、法人・政府機関などフィリピン国内で事業を営む消費者がNRDSPからデジタルサービスの提供を受けるB2B取引では、支払側であるフィリピンの当事者がリバースチャージ方式によりVATを申告・納付する仕組みが採用されています。

2026年6月2日、BIRは歳入覚書通達第59-2026号(RMC No. 59-2026)を公布し、NRDSPの実務運用について、次の点を明確化しました。

  • VAT非課税に該当するデジタルサービスのみを提供するNRDSPであっても、BIRへの登録および申告義務は免除されません。
  • 現地企業に認められている免税基準額(一定の年間売上高までVAT登録を要しない仕組み)はNRDSPには適用されず、フィリピンでの最初の売上から12%VATの対象となります。
  • グループ内の費用分担契約においては、フィリピン子会社と直接取引せず海外関連会社のみと契約するNRDSPは登録義務を負わない場合がある一方、価格設定・支払条件・サービス提供内容を実質的に支配する海外関連会社がNRDSPとして登録義務を負う場合があります。
  • 租税条約上の恩典を有することは、VAT課税を当然に免除・ゼロ税率化するものではありません。VATは所得課税とは別個の消費課税として扱われ、租税条約の恩典が認められる場合でもVAT義務が別途生じ得ます。

これらは、グループ内でクラウド利用料やライセンス料を配賦している日本企業にとって、契約構造や費用分担の実態を再点検すべき重要な追加情報です。RSM Philippinesは、影響を受ける非居住外国法人に対して、NRDSPとしての登録および登録後の税務コンプライアンス対応を支援しています。

3. 電子インボイス・ESRS:義務化スケジュールは2026年12月31日まで延長

BIRは、2025年2月27日付の歳入規則第11-2025号(RR No. 11-2025)において、電子商取引・インターネット取引に従事する納税者、大規模納税者サービス(LTS)管轄下の納税者、大規模納税者に分類される納税者などを対象に、2026年3月14日までの電子インボイス発行義務化を定めていました。

しかし、システム改修や移行対応に要する期間を考慮し、BIRは2025年9月5日、歳入規則第26-2025号(RR No. 26-2025)を公布して、当該義務化の期限を2026年12月31日まで延長しています。輸出事業者、税制優遇措置の適用を受ける登録企業、POSシステムを利用する事業者などについては、BIR側のシステム整備が整った段階で別途規則が公布される見込みです。電子インボイスのデータをBIRへ送信・保存する電子売上報告システム(ESRS)についても、BIRの技術基盤整備後に別規則で義務化する方針が維持されています。

一定の納税者にはESRS導入費用について追加控除(小零細規模納税者は全額、中・大規模納税者は50%)が認められる場合がある点は変更ありません。日本本社のERPやグローバル会計システムを利用している企業にとっては、期限延長により対応期間に余裕が生まれた形ですが、2026年12月末という新たな期限を前提に、システム対応やBIR登録の計画を改めて見直すことが望まれます。RSM Philippinesは、BIRへのコンピュータ会計システム(CAS)登録手続きを支援しています。

4. クロスボーダー取引への源泉税:2026年に入り運用の精緻化が進む

フィリピン最高裁判所は、2022年8月30日、「Aces Philippines Cellular Satellite Corp.対内国歳入庁長官」事件の判決で、非居住外国法人への支払いが最終源泉徴収税(FWT)の対象となり得ることを認めました。この判決を踏まえ、BIRは2024年1月10日、歳入覚書通達第5-2024号(RMC No. 5-2024)を公布し、コンサルティング、ITアウトソーシング、金融サービス、通信、エンジニアリング・建設、教育、観光・ホスピタリティなど幅広いサービス取引について、「フィリピン国内の活動が所得創出に本質的・不可欠であれば、対価の支払場所を問わずフィリピン源泉所得とみなされ得る」という考え方を示しました。この通達は、税務調査における不足税額・罰金賦課の根拠として用いられてきました。

本通達に対しては、日本の銀行のフィリピン支店を含む複数の銀行が2024年3月にフィリピン租税裁判所(CTA)へ異議を申し立てましたが、CTAは2024年11月に手続き上の理由(財務大臣への事前提起の欠如)で申立てを棄却し、2025年5月の再審請求も棄却しました。

その後、2026年4月にBIRが公布した歳入覚書通達第24-2026号(RMC No. 24-2026)により、運用は次のように精緻化されています。

  • クロスボーダー取引であることのみを理由に、自動的にFWT・FWVATの対象となるわけではないことが明確化されました。税務調査官は、サービスが実際にフィリピン国内で履行されたことを事実に基づいて立証する必要があります。
  • 所得源泉の判定には、(1)フィリピンの支払者と非居住サービス提供者という当事者関係、(2)当該役務が非居住者のサービス完了・提供に不可欠であり経済的便益を生じさせたこと、(3)所得創出活動の所在地がフィリピン国内であること、(4)国内法または租税条約上の免税規定が適用されないこと、という4要件をすべて満たす必要があるとされました。
  • 受動所得、物品売買による所得、国外で履行されたサービスに関する非居住者間のパススルー支払いなどは、除外され得ることが確認されました。
  • 立証責任は引き続き納税者側にあり、業務委託契約書・発注書・請求書、居住地証明、非居住証明(SEC非登録証明を含む)、租税条約恩典証明書などの資料整備が求められます。
  • 租税条約適用にあたり、事前のBIR確認裁定(ルーリング)取得は必須要件ではないとされましたが、複雑な取引では個別確認を得ることが実務上のリスク管理として引き続き有用とされています。

さらに、CTAは2026年4月上旬、RMC5-2024の執行に対する予備的差止命令(preliminary injunction)を認める決定を下しました。これにより同通達の適用を巡る不確実性は続いているものの、根拠となったAces最高裁判決自体は依然として有効な判例であるため、実務上はRMC24-2026が示す4要件と必要書類を踏まえた取引整理・文書化を進めることが現実的な対応です。日本本社がフィリピン子会社に経営支援・ITサポート・技術助言・研修などを提供している場合には、これらの要件に沿って契約書・請求書・受益者情報を整合的に整理しておくことが重要です。

5. 資本市場効率化促進法(CMEPA):金融・投資取引に関する税務変更

フィリピンでは、資本市場の発展と受動所得課税の簡素化を目的として、共和国法第12214号「資本市場効率化促進法(CMEPA)」が2025年7月1日に施行されており、施行から1年が経過した現在も同法に基づく取扱いが適用されています。

主な改正点として、受動所得に該当するロイヤルティは最終税率20%の対象となる一方、外貨預金に係る利子所得の最終税率は15%から20%に引き上げられました。また、外国法人株式の売却益についても15%のキャピタルゲイン税の対象となることが明確化されています(従来は内国法人株式のみが対象)。ストックオプションや譲渡制限付株式ユニットなど株式を用いた報酬制度についても、権利行使のタイミングで課税所得に算入される仕組みとなっている点は留意が必要です。

一方で、プロジェクトボンドや投資信託・投資法人の一定の利益は、課税所得から除外される取扱いが設けられています。上場株式の取引税率(0.6%→0.1%)や株式の新規発行に対する印紙税率(1%→0.75%)の引下げなど、資本市場の活性化を意識した改正も含まれます。

日本企業にとっては、フィリピン子会社の資金調達、グループ内融資、株式報酬制度、現地役員・従業員へのインセンティブ設計、投資ストラクチャーに影響する可能性があります。フィリピン法人の株式移転や増資、従業員持株制度、ストックオプション制度を検討する際には、日本側の税務だけでなく、フィリピン側のキャピタルゲイン税、印紙税、源泉税、個人所得税の取扱いを併せて確認することが求められます。

6. 外国人雇用規則:DOLE Order 248-Aによる運用の明確化

フィリピンで外国人を雇用する場合には、外国人雇用許可(AEP)を中心とする労務上の要件にも留意が必要です。フィリピン労働雇用省(DOLE)は2025年1月、DOLE省令第248号を公布し、労働市場テスト、経済的必要性テスト、技能研修プランなどの枠組みを定めました。労働市場テストでは、外国人が就こうとする職務について、同等の能力を有し、勤務可能で、就労意思のあるフィリピン人が存在しないかを確認します。経済的必要性テストでは、税制優遇措置を受ける企業、戦略的投資分野に関与する企業、公共事業に関わる企業を中心に、外国人雇用が国内労働市場の不足を補うものかが審査されます。

2025年6月に公布されたDOLE省令第248-A号は、運用面を次のように明確化・緩和しました。

  • 労働市場テストの前提として、新聞への求人公告が必須の手続きとされた一方、PhilJobNetや公共職業安定所(PESO)等への掲載は、推奨事項にとどまり必須ではなくなりました。
  • 技能移転プログラム(技能開発プログラムまたは実習研修プログラム)の実施義務は、外国投資法に基づき税制優遇を受ける企業、公共事業・重要インフラに従事する企業、戦略的投資分野に該当する企業に対象が絞られました。
  • 更新申請については、宣誓供述書(affidavit of undertaking)の提出により、公告・研修要件への対応を申請後に行うことも認められるようになりました。
  • DOLE地方事務所は、申請受理から15営業日以内に処分することが求められています。

これらの改正により、AEP取得プロセスの一部は簡素化された一方、労働市場テストや経済的必要性テストの運用自体は継続しています。日本本社から駐在員を派遣する場合には、単にビザや就労許可を取得するだけでなく、求人公告対応の実務フロー、現地人材への技能移転計画、後任育成の体制を整えておくことが引き続き重要です。

本稿で取り上げた各テーマは、いずれも2024年から2026年にかけて公布・改正が続いており、施行から半年から1年程度の間に運用が修正されたものも少なくありません。フィリピン事業に関わる日本企業にとっては、一度の制度確認で終わらせるのではなく、契約更新やグループ内取引の見直しのタイミングに合わせて、最新の通達・規則を継続的に確認する体制を持つことが重要です。特に、非居住事業者によるデジタルサービス提供は、VAT、源泉税、契約主体、費用配賦、電子インボイス、会計システムの登録に同時に影響するため、税務・経理・IT・法務を横断した点検が求められます。

本稿の作成にあたっては、RSMのフィリピンにおけるメンバーファームであるRSM PhilippinesMildred R.Ramos氏をはじめとする専門家チームから知見の提供を受け、これに2026年に入ってから公表された追加の通達・規則の内容を組み合わせて作成しています。

フィリピン子会社の税務コンプライアンス体制の点検、クロスボーダー取引の課税関係整理、電子インボイス対応、外国人雇用手続きなど、個別のご相談がございましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。

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