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プロバレーボール選手における確定申告の基本実務と税務上の留意点

プロバレーボール選手における確定申告の基本実務と税務上の留意点

会計・税務
2026年6月10日

プロバレーボール選手としてコートで最高のパフォーマンスを発揮するためには、日々の練習や戦術の理解、そして身体のケアに集中できる環境づくりが欠かせません。その一方で、プロとして活動の幅を広げていく以上、確定申告業務は毎年避けて通れません。

昨今、国内のバレーボールリーグ(SVリーグ)は新たな変革期を迎えています。SVリーグは2025年3月、2026-27シーズンより1クラブに所属する選手の過半数がプロ契約選手であることを必須化する方針を発表しました。これにより、プロ契約を選択する選手が今後増加していくことが見込まれ、税務上の正しい知識を身につけることの重要性はかつてなく高まっています。

特にプロバレー選手の場合、契約形態や収入源が多様化しており、それに伴って税務上の判断も複雑になりがちです。本コラムは、プロ契約により個人事業主として活動する選手を主たる対象としつつ、給与所得を得ながら副収入がある選手にも参考となる内容を含みます。本コラムでは、プロバレー選手の確定申告に関する基本的な構造から、経費のボーダーライン、そして長期的な税務管理体制を解説いたします。

日本のバレーボール界(SVリーグ)においては、チームを運営する企業に正社員として雇用されながらプレーをする社員選手と、個人事業主としてチームとプロ契約を結んでプレーをする選手が混在しています。本コラムで主に対象とするプロバレー選手は後者の形態であり、チームから受け取る年俸や報酬は「給与所得」ではなく「事業所得」として扱われるのが一般的です。事業所得となる場合、所属チームが税金の計算を代行してくれる年末調整の対象にはならないため、選手自身が個人事業主として一から確定申告を行い、一年間の収入から必要経費を差し引いた利益に対して所得税や住民税を計算し、納める必要があります。

より詳しく見ると、SVリーグの選手契約は、「プロ選手」と「ノンプロ選手」の2種類に区分されています。両者の明確な違いは、選手契約書にバレーボール活動の対価を支払う旨が記載されているかどうかという点にあります。記載があればプロ選手、記載がなく報酬を目的とせずに競技活動を行う場合はノンプロ選手と整理されるのが基本的な考え方となります。

選手契約の形態は、SVリーグの規約上、次の7類型のいずれかと定められています。

①所属クラブの正社員(無期雇用契約)

②他法人からの出向正社員(無期雇用契約)

③所属クラブの契約社員(有期雇用契約)

④他法人からの出向契約社員(有期雇用契約)

⑤個人事業主型契約(業務委託契約)

⑥雇用関係のない契約(業務委託契約)

⑦内定通知(学生)

ノンプロ選手は雇用契約があることが前提となるため、契約類型は①〜④のいずれかに限られます。一方、プロ選手は雇用契約の有無を問わないため、①〜⑥のいずれの類型にも該当しうることになります。

ここで押さえておきたいのは、SVリーグ規約上の「プロ選手・ノンプロ選手」という区分と、税法上の所得区分(給与所得・事業所得・雑所得)とは別々の概念であるという点です。サッカーや野球など他の競技でプロ契約を締結した選手のケースでは、「事業所得」として整理されることが一般的ですが、SVリーグのプロ選手に同様の判断基準をそのまま当てはめることはできません。この点が、SVリーグ選手の税務を考えるうえでの大きな特徴の一つともいえます。

税務上の整理に進むと、ノンプロ選手の場合は、クラブから受け取る報酬は雇用契約に基づく給与となるため、税法上は原則として給与所得として扱われます。所属クラブにおいて年末調整が行われるため、副収入がない限り、選手自身で確定申告を行う必要は原則としてありません。

これに対し、プロ選手の場合は、契約形態によって税務上の取扱いが分かれます。

プロ選手の契約類型税務上の所得区分(原則)
⑤⑥業務委託契約事業所得
①〜④雇用契約給与所得のほか、選手報酬部分の区分判定が必要

本コラムで主に対象とするのは、⑤または⑥の業務委託契約により、個人事業主として活動するプロ契約選手です。これらの業務委託契約により活動するプロ選手については、年俸や報酬が原則として事業所得として取り扱われるため、選手自身が確定申告を行うことになります。一方、①〜④の雇用契約を維持しながらプロ選手として競技活動の対価を受け取るケースでは、給与所得を基本としつつ、選手報酬部分を事業所得や雑所得として別建てで申告できるかが論点となります。判定の目安としては、選手報酬の規模が一つの参考になります。例えば、選手報酬が給与と同等またはそれ以上であれば事業所得として整理できる可能性が出てきますが、選手報酬が給与額を下回る場合や事業規模といえない場合には所得区分の判断が難しくなるため、申告前に税理士などの専門家にご相談されることをおすすめします。

現代のプロバレー選手の収入は、所属チームからの年俸だけにとどまらないケースが増えています。日本代表に選出された際の日当や各種手当、オフシーズンを中心としたバレーボール教室の指導料、メディアへの出演料、個人で獲得したスポンサー企業からの協賛金など、多岐にわたる収入源を持つ選手が数多くいます。これらを確定申告においてどのように分類するかが、非常に重要なポイントです。

一般的に、バレーボール選手としての知名度や活動に直接付随して得られるイベント出演料や個人スポンサー収入は、主たる事業所得に含めて申告することが妥当です。また、近年では選手自身が動画配信プラットフォームやSNSを通じて発信活動を行い、そこから広告収入等を得るケースもあります。こうした発信活動による収入も、選手の競技活動と密接に結びついており、反復継続して行われているものであれば事業所得として扱われる場合がありますが、規模や実態によっては雑所得に区分される余地もあるため、活動の実態に即した慎重な判断が必要です。

さらに見落としがちな要素として、現金以外の物品提供による収入が挙げられます。スポーツメーカーやスポンサー企業から無償でウェア、シューズ、サプリメントなどの提供を受けた場合、それらは税務上「経済的利益」として課税の対象となる場合があります。提供された物品の時価相当額を一度収入として計上した上で、事業の遂行に直接必要であると認められる分についてのみ必要経費として相殺するという処理が求められることもあります。現金以外の利益についても適正に評価し、正確に帳簿に反映させることが適切な確定申告に繋がります。

プロバレー選手ならではの特徴として、チームの全体活動スケジュールに強く縛られる一方で、税務上は独立した事業者として扱われるという二面性が挙げられます。たとえば、チームが提供する練習施設や移動手段を利用しつつも、個人のさらなるスキルアップや身体機能の維持にかかる費用は選手個人の自己負担となるケースも多くあります。このように「どこまでがチームが負担すべき費用で、どこからが個人事業主としての経費に該当するのか」を明確に区分することが、正確な確定申告の第一歩となります。この区分を曖昧にしたまま申告を行ってしまうと、後日行われる可能性のある税務調査において指摘を受けるリスクがあるため、契約内容に基づいた慎重な対応が求められます。

そしてプロバレー選手が確定申告を行う上で最も判断に迷いやすいのが、チームとしての活動と個人としての活動の境界線です。シーズン中の公式戦や全体練習に伴う移動費・宿泊費などはチームが負担するのが一般的ですが、それ以外の場面では自己負担となる費用が数多く発生します。

たとえば、シーズンオフに他チームの選手と合同で行う自主トレーニングや、海外の専門施設を利用した合宿費用などは、競技力の維持向上に直接寄与するものであれば、個人事業の必要経費として認められる可能性が高い項目です。しかし、その旅程の中に観光や個人的な休養の要素が含まれている場合は、全額を経費として計上することは難しくなります。このような場合には、事業に関連する部分とプライベートな部分を滞在日数や活動時間などの合理的な基準を用いて分ける「家事按分」という処理が必要になります。

遠征先などでの飲食代についても同様に注意が必要です。単なる日々の食事代は生活費とみなされるため経費にはなりませんが、外部のトレーナーや他のプロバレー選手、スポンサー関係者と競技や契約に関する打ち合わせを兼ねて会食した場合は、接待交際費や会議費として処理できる場合があります。このように、チーム活動と個人の活動が交錯する場面においては、その支出が「プロバレー選手としての事業を遂行する上で直接必要であったか」という客観的な根拠を、領収書やスケジュール帳の活動記録とともにしっかりと保存しておくことが有効です。

確定申告において適正に経費を計上することは、事業の利益を正確に算出し、適切な納税額を確定させるための重要なプロセスです。プロバレー選手の場合、自身の身体そのものが事業の資本となるため、一般の事業主とは異なる多種多様な支出が発生します。以下の表に、経費として認められやすい支出と、取り扱いに注意を要するボーダーライン上の支出の考え方を整理いたしました。

支出の主な区分具体的な項目例と税務上の考え方の傾向
用具費・備品代競技で直接使用する専用シューズ、サポーター、テーピング、トレーニング器具などは、私的利用との区別に関する問題が生じにくく、業務遂行に不可欠な支出として基本的には必要経費に計上できる項目です。
身体メンテナンス費競技による疲労回復や怪我の予防・治療を目的とした専属トレーナーへの報酬などは、経費性が高い項目です。一方、鍼灸・マッサージ・整体等のリカバリー系の支出は、私的利用との区別が曖昧になりやすく、税務調査で争点となりやすい項目です。一般的なリラクゼーション目的の支出と区別できるよう、利用目的や施術内容の記録を残しておくことが重要です。
栄養管理費・サプリ代プロアスリートにとって体形や筋力の維持は重要ですが、一般的な日常の食事代は原則として必要経費になりません。他方、特定の栄養補給を目的とした専門的なサプリメントなどは、競技特性や専門家の助言に基づくなど、合理的な説明ができる場合に必要経費として検討対象になります。
衣装代・美容代メディア出演やイベント登壇など、業務のために特別に用意した衣装代は必要経費として認められる場合がありますが、私服としても使用できるスーツや衣服、一般的な理美容代は私的支出とみなされやすく、判断が分かれやすい項目です。
移動費・交通費自主トレ先への交通費や、スポンサー対応・イベント出演など外部案件のための移動費は必要経費として整理しやすい項目です。一方で、チームの練習拠点や試合会場への日常的な移動費については、所属チームとの契約実態や支給状況を踏まえて判断される傾向があります。

表に示した通り、明確に競技用と分かるものは経費としての根拠を示しやすいですが、「衣服」「食事」「一般的な疲労回復」に関する費用は、日常生活との区別が曖昧になりやすい項目です。これらについては、税務調査等の場面においても厳格に確認されることが想定されます。そのため、これらの支出がプロバレー選手としての業務にどのように不可欠であったかを、第三者に対して客観的かつ論理的に説明できる状態を保つ必要があります。

個人事業主として確定申告を行うプロバレー選手にとって、青色申告制度を利用することは税制上の大きな利点となります。一定の要件を満たす正規の簿記の原則に従った帳簿を備え付けることで、現行制度では最大65万円の青色申告特別控除を受けられるほか、仮に赤字が生じた場合でもその損失を翌年以降に繰り越すことができるなど、事業運営を安定させるための措置が多数設けられています。なお、令和8年度税制改正により、令和9年分から青色申告特別控除の控除額とその要件が見直されます。e-Taxによる申告や帳簿の電磁的記録保存等の一定のデジタル対応を満たす場合には控除額が最大75万円へ拡充される一方、書面申告や簡易な記帳にとどまる場合には控除額が引き下げられることになります。デジタル対応の有無により実質的な税負担に差が生じるため、シーズン中からクラウド会計や電子保存を前提とした経理体制を整えておくことが、手元資金の最大化にも繋がります。

青色申告の要件を満たすためには「複式簿記」と呼ばれる方式で日々の取引を正確に記録する必要があります。しかし、プロバレー選手はシーズンに入ると試合や遠征で多忙を極め、日々の記帳作業に十分な時間を割くことが物理的に困難になることが予想されます。そこで非常に重要となるのが、日常の資金管理の仕組み化です。

最も効果的かつ基本的な方法の一つは、プライベート用の銀行口座やクレジットカードとは完全に別に、プロ活動専用の事業用口座と事業用クレジットカードを作成することです。所属チームからの年俸やスポンサー報酬の受け取り、そして業務関連経費の支払いをすべてこの事業用口座に集約することで、帳簿作成のベースとなる入出金記録が自動的に整理されます。近年普及しているクラウド会計ソフトと連携させれば、取引データの取り込みもスムーズに行えるようになり、事務負担を大幅に軽減できます。

また、所得税や住民税といった税金は、利益が出た翌年に支払いの時期が到来するという点に注意が必要です。年俸が一括や分割で振り込まれた際、その全額を生活費や自己投資等で使い切ってしまうと、後から納税資金が不足するという深刻な事態に陥りかねません。そのため、収入の一定割合をあらかじめ納税用の別口座に振り分けて計画的に確保しておくといった資金管理体制を構築することが、競技生活の精神的な安心感に直結します。

プロスポーツの世界は、怪我や成績不振による契約解除のリスクと常に隣り合わせであり、プロバレー選手も決して例外ではありません。ある年に素晴らしい成績を残して年俸や賞金が大幅に増加したとしても、翌年には予期せぬ理由で収入が大きく減少することもあります。日本の所得税は所得が高くなるほど税率が上がる累進課税制度を採用しているため、単年で急激に収入が増加すると適用される最高税率も跳ね上がり、手元に残る資金が予想以上に少なくなる事態も想定されます。

このような急激な所得の変動に対する税負担を平準化し、過度な負担を軽減するための仕組みとして「変動所得及び臨時所得の平均課税」という制度があります。プロ野球選手等の契約金や特定分野の原稿料などが対象としてよく知られていますが、プロバレー選手であっても、複数年契約に伴う一時的な多額の契約金等が発生した場合には、この平均課税制度の適用を受けられる場合があります。ただし、制度の適用可否の判断や計算方法は非常に複雑であるため、税理士などの専門家にご相談ください。

また、将来的な収入の増減リスクに備えるためには、現役時代からスポンサー収入やバレーボール教室の運営など、年俸以外の副次的な収入源を少しずつ育成しておくことも一つの対策となります。加えて、将来の退職金代わりとして利用できる「小規模企業共済」などの制度を活用すれば、掛金を全額所得控除として差し引きながら、引退後の資金を着実に積み立てることが可能になります。活動の幅を広げたり新たな制度を利用したりすればするほど、契約書の内容確認や税務処理も複雑化しますが、税務上のリスクをコントロールしながらこれらと向き合うためには、個人の力だけでなく専門家の知見を積極的に取り入れることが重要になります。

また、個人スポンサー契約、バレーボール教室、メディア出演、SNS発信などによる副収入が拡大していく場合には、所得税だけでなく消費税やインボイス制度への対応も早い段階で確認しておく必要があります。インボイス発行事業者として登録した場合、これまで免税事業者であったとしても消費税の申告・納税義務が発生します。免税事業者から課税事業者となった小規模事業者向けの「2割特例」は、令和8年(2026年)9月30日を含む課税期間までが対象とされ、個人事業主の場合は2026年分の確定申告が最後の適用となります。その後、令和8年度税制改正では、個人事業者の令和9年分・令和10年分について、売上税額の3割を納税額とする「3割特例」が設けられています。報酬水準や取引先の要請によってインボイス登録の必要性は変わるため、現役中の収入拡大を見据え、登録の有無や簡易課税制度との比較を専門家と事前に検討しておくことが重要です。

プロバレーボール選手にとっての最大の使命は、コート上で最高のパフォーマンスを発揮し、チームの勝利やファンへの貢献を果たすことです。確定申告や税金対策は個人事業主として事業を営む上で絶対に欠かせない業務ですが、それに時間を奪われ、コンディショニングや休息に支障をきたしてしまっては本末転倒であると言わざるを得ません。

そのため、トップレベルで活躍する多くのプロアスリートは、税務に関する日常の記帳代行や確定申告書の作成を税理士に依頼する体制を整えています。税理士と連携することで、複雑な経費の判断や青色申告の手続きを法令に則って適正に行えるだけでなく、万が一税務調査が入った際にも代理人として対応を任せることができます。専門性の高い税理士法人であれば、スポーツ選手特有の収入構造や契約慣行にも精通しているため、より実態に即した的確なアドバイスが期待できるでしょう。

さらに、プロスポーツ選手の現役生活は生涯続くわけではなく、人生の限られた期間に集中する傾向があります。引退後に指導者や解説者としてバレーボール界に残るにせよ、飲食店経営など全く別の事業を立ち上げるにせよ、現役時代からしっかりとした財務基盤と事業主としての税務知識を身につけておくことは、将来のセカンドキャリアへのスムーズな移行を助ける強力な武器となります。

毎年の確定申告を単なる「税金を計算して納めるための事務作業」と捉えるのではなく、自身の事業の実態を数字で正確に把握し、将来への備えを構築するための重要なステップとして位置づけることが、プロバレー選手として、ひいては一人の自立した事業家として成功するための鍵となります。

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