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労務DDと財務DD・税務DDの違いとは?それぞれの役割と連携のポイントを解説

労務DDと財務DD・税務DDの違いとは?それぞれの役割と連携のポイントを解説

人事・労務
2026年9月1日

はじめに

M&AやIPO(株式上場)のプロセスでは、「財務デューデリジェンス(財務DD)」「税務デューデリジェンス(税務DD)」に加えて、「労務デューデリジェンス(労務DD)」の実施を求められる、あるいは推奨されるケースがあります。M&Aでは、買い手企業やM&Aアドバイザー等から、対象会社の労務上のリスクや潜在債務を把握するために労務DDの実施を求められることがあります。また、IPOでは、主幹事証券会社や監査法人等から、労務管理の適切性や未払残業代などの労務リスクについて確認・改善を求められることがあります。

財務・税務DDが、企業の財務状況や税務上のリスクを把握することを主な目的とするのに対し、労務DDは、雇用契約や就業規則類、勤怠管理、給与計算、社会保険などの状況を確認し、未払賃金や不適切な労務管理など、企業と従業員との関係に潜むリスクを把握することを目的とします。さらに、就業規則類や各種法定帳簿の整備状況だけでなく、実際にどのような運用が行われているかというところまで確認する点に労務DDの特徴があります。経営者や担当者の中には、それぞれの違いや実施する意味を十分に理解しないまま調査を依頼しているケースも見受けられます。

本稿では、財務DD・税務DD・労務DDのそれぞれの目的と調査範囲の違いを一覧表で整理し、さらに、なぜ3つのDDを連携させる必要があるのか、実務上どのように連携を図ればよいのかを解説します。

1.そもそもデューデリジェンス(DD)とは何か

デューデリジェンス(Due Diligence、以下DD)とは、M&AやIPO(株式上場)、大型の投資判断を行う前に、対象企業の実態を多角的に調査し、リスクや価値の毀損要因を洗い出す一連のプロセスを指します。対象領域によって財務DD、税務DD、法務DD、ビジネスDD(事業DD)、労務DD、ITDD、環境DDなど複数の種類に分かれており、案件の規模や目的に応じて必要な調査領域を組み合わせて実施するのが一般的です。

このうち、中堅・中小企業のM&AやIPO準備において特に実施頻度が高いのが、財務DD・税務DD・労務DDの3種類です。これらは調査の切り口が異なるため、それぞれ担当する専門家も異なります。まずは各DDの目的と特徴を確認していきます。

2.財務デューデリジェンス(財務DD)の目的と調査範囲

財務DDは、主に公認会計士(監査法人や会計事務所)が担当し、対象企業の財政状態や収益力を数値面から検証する調査です。具体的には、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書といった財務諸表の適正性を確認するとともに、簿外債務や偶発債務の有無、実態に即した純資産(実態純資産)、一時的な要因を除いた本来の収益力(正常収益力)を明らかにします。

財務DDの結果は、企業価値評価(バリュエーション)の前提数値として用いられるほか、買収価格の交渉材料や、株式譲渡契約書(SPA)における表明保証条項の設計にも活用されます。調査対象期間は過去3期分とするケースが一般的です。

3.税務デューデリジェンス(税務DD)の目的と調査範囲

税務DDは税理士が担当し、対象企業の税務コンプライアンスの状況とリスクを検証する調査です。法人税、法人住民税、法人事業税、消費税、源泉所得税などについて、過去の申告内容が適正であったか、税務調査で指摘を受けた事項が是正されているか、繰越欠損金を買収後も引き継げるか、グループ会社間取引や組織再編に伴う税務リスクがないかといった点を確認します。

調査対象期間は3〜5年程度とされることが多く、更正・決定の除斥期間(原則5年、偽りその他不正の行為があった場合は7年)を意識して設計されます。税務DDで発見されたリスクは、将来発生し得る追徴課税額の見積りとして企業価値評価に反映されるほか、M&Aのスキーム(株式取得か事業譲渡か等)の選択にも影響を与えます。

4.労務デューデリジェンス(労務DD)の目的と調査範囲

労務DDは社会保険労務士や弁護士が中心となって担当し、対象企業の労務管理体制、労働時間、賃金、社会保険などの実態を調査します。就業規則や労使協定の整備・届出状況、労働時間管理の方法、固定残業代制度や管理監督者の運用実態、社会保険・労働保険の加入状況、同一労働同一賃金、ハラスメント対応体制など、調査範囲は多岐にわたります。

財務DDや税務DDが主として会計帳簿や申告書などの財務・税務情報を分析・検証するのに対し、労務DDは、法令や雇用契約、就業規則、労使協定などで定められた労働条件・ルールと、実際の労務管理の運用が一致しているかを確認する点に特徴があります。両者にギャップがある場合、未払賃金や社会保険料の未納付といった簿外債務が生じている可能性があるためです。

なお、労務DDでは、未払賃金などの簿外債務が発生している可能性を踏まえ、直近3年を目安に調査します。賃金請求権の法定の消滅時効は5年ですが、現在は経過措置により当分の間3年とされています。

このように労務DDは、法令や社内ルールと実際の運用とのギャップを把握し、未払賃金などの簿外債務や将来の労務リスクを明らかにすることで、M&AやIPOにおける意思決定やリスク対応につなげることを目的としています。

5.3つのDDの違いを一覧表で整理する

ここまでの内容を、5つの比較軸で整理すると次のようになります。

比較軸財務DD税務DD労務DD

主な目的

財政状態と収益力を数値面から検証する

税務コンプライアンスの状況と潜在的な課税リスクを検証する

労働条件・労務管理の制度と運用実態を確認し、労務リスクや潜在的な簿外債務を把握する

担当する専門家

公認会計士

税理士

社会保険労務士・弁護士

主な調査対象・資料

財務諸表(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書)、総勘定元帳、資金繰り資料

各税目の申告書、税務調査の履歴、グループ会社間取引・組織再編に関する資料

就業規則・労使協定、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿、雇用契約書、社会保険・労働保険関係書類

検出されるリスクの性質

簿外債務・偶発債務、収益力と実態との乖離

追徴課税リスク、繰越欠損金の引継ぎ可否

未払賃金・社会保険料の追納リスク、労働紛争リスク、行政上の指導・是正・処分等のリスク

調査対象期間の考え方

過去3期分とするのが一般的

3〜5年程度(更正・決定の除斥期間を意識)

3年を目安(賃金請求権の消滅時効が当分の間3年とされていることに対応)

3つのDDは、いずれも「対象企業に潜むリスクを事前に発見し、意思決定や契約条件に反映させる」という共通の目的を持っています。一方で、財務DDは数値情報、税務DDは申告内容、労務DDは制度と運用の実態というように着眼点が異なり、それぞれに求められる専門性も異なります。そのため、別々の専門家が分担して実施する体制をとるのが一般的です。

6.労務DDの重要性の高まり

DDの類型のうち、労務に関する事項は、従来、契約関係やコンプライアンス上のリスクの一部として、法務DDの一環として取り扱われることも多くありました。しかし近年は、労務リスクの専門性・重要性の高まりを背景に、法務DDとは別に労務DDを実施するケースも増えています。こうした変化の背景には、労務リスクの専門性・重要性が高まっていることがあります。具体的には、以下の4つの要因が挙げられます。

第一に、労務コンプライアンスの複雑化です。

働き方改革や同一労働同一賃金、社会保険の適用拡大、育児・介護休業法の改正など、企業に求められる対応は年々複雑になっています。こうした制度の複雑化に伴い、労務に関する専門的な知識・判断がより求められるようになり、労務DDを独立した専門領域として捉える必要性が高まっています。

第二に、未払賃金などの簿外債務のインパクトの増大です。

未払賃金は従来から重要な労務リスクでしたが、2020年4月の改正労働基準法の施行により、賃金請求権の消滅時効が2年から5年に延長されました(現在は経過措置として当分の間3年)。請求の対象となり得る期間が長くなったことで、未払残業代等の簿外債務がより高額となる可能性が生じ、DDにおいてもその金額を把握する重要性が一層高まっています。

第三に、人材・組織に関する情報の重要性が高まっていることです。

人的資本開示の進展などを背景に、人材や組織に関する情報を経営・投資判断に活用する動きが広がっています。M&Aにおいても、従業員の構成や労働条件、組織体制などを、企業価値や買収後のリスクを判断する材料として捉える重要性が高まっています。

第四に、IPOにおける労務管理の重要性が高まっていることです。

労働時間管理、固定残業代、管理監督者、36協定などの労務管理が、上場準備・審査の過程で確認される重要な論点となっています。そのため、IPOに向けて労務管理上の問題を事前に洗い出し、改善するための調査として労務DDが活用されています。

7.財務・税務・労務、3つのDDが重なり合う領域

財務・税務・労務のDDは、それぞれ異なる観点から企業を調査しますが、実際には一つの問題が複数のDDにまたがり、企業価値やM&Aの条件に影響するケースがあります。

代表的なのが、人件費や労務コストに関する問題です。未払賃金、退職給付、社会保険料の未納付などは、労務上の問題であると同時に、買収後に追加負担が発生する可能性のある財務上のリスクにもつながりますし、その処理方法によっては税務上の論点に影響します。

また、雇用契約や業務委託契約の実態が、当事者間で認識されている契約関係と異なるケースにも注意が必要です。例えば、業務委託先が実質的に労働者と判断される場合、労働法上の問題に加え、社会保険や源泉徴収、消費税など、複数の領域に影響が及ぶ可能性があります。

さらに、最終的にM&A契約書(株式譲渡契約書等)に盛り込まれる表明保証条項や補償条項は、財務・税務・労務それぞれのDDで発見された論点を統合したうえで設計されるため、各専門家が発見事項をタイムリーに共有できる体制が欠かせません。

8.連携が不十分な場合に生じる問題

財務DD・税務DD・労務DDがそれぞれ独立した専門家によって、情報共有のないまま個別に進められると、いくつかの弊害が生じます。

まず、資料依頼リストが専門家ごとにばらばらに提示されるため、対象企業側の開示対応の負担が増し、DD全体のスケジュールが長期化しやすくなります。また、ある専門家が発見したリスクが他の専門家に伝わらないまま報告書が別々に作成されると、簿外債務の評価が重複したり、逆に見落とされたりするおそれがあります。加えて、労務DDで発見された是正必要事項が、財務・税務の観点からの影響額の算定に反映されないまま交渉が進んでしまうと、クロージング後に想定外の追加コストが判明し、当事者間のトラブルに発展するケースも見受けられます。

9.スムーズに連携させるための実務上のポイント

これらの問題を避けるためには、依頼企業が以下のような点を意識してDDチームを組成することが有効です。

第一に、可能であれば財務・税務・労務のDDを、グループ内で連携できる専門家チーム(会計士・税理士・社会保険労務士等が同一法人グループまたは緊密に連携する体制)に一括して依頼することです。第二に、資料依頼リストやデータルームを可能な限り統一し、対象企業の開示負担を軽減することです。第三に、キックオフミーティングを合同で実施し、調査目的やスコープ、スケジュールについて各専門家間で認識を揃えることです。第四に、各DDの中間報告のタイミングを合わせ、発見事項を早期に共有できるようにすることです。そして最後に、最終報告書についても、可能な限り相互参照できる形で取りまとめ、財務・税務・労務の論点がどのように関連しているかを経営陣が一覧で把握できるようにすることが重要です。

10.よくある質問

Q.財務DD・税務DD・労務DDは必ず同時に依頼しなければなりませんか。

A.案件の規模やリスクの所在によって異なります。小規模な案件では労務DDを簡易的な調査にとどめる、あるいは財務DDの一環として人件費関連の論点のみを確認するといった対応も可能です。ただし、従業員数が一定規模以上の会社や、労働集約型の業種(サービス業・建設業・運送業等)を対象とする場合は、労務DDを独立して実施することをお勧めします。

Q.中小企業同士のM&Aでも労務DDは必要ですか。

A.必要性は高いといえます。中小企業では就業規則や労働時間管理の整備が後回しになっているケースが多く、会社の規模に比して未払残業代等の金額的インパクトが大きくなるケースがあります。買収後に想定外の債務が発覚してからでは対応の選択肢が限られるため、企業規模にかかわらず、早い段階での実施が望まれます。

Q.法務DDを依頼すれば、労務面もカバーされるのではありませんか。

A.法務DDでも、雇用契約や労働紛争など、労務に関する事項を調査対象とすることはあります。ただし、近年の労務DDは、労働・社会保険に関する制度と実務運用を専門的に検証する独立した調査領域となっています。そのため、勤怠データと賃金台帳を突き合わせた未払賃金の検証や、社会保険の加入状況の確認、潜在する債務の金額算定など、労務特有の実務的な検証まで法務DDで十分にカバーされるとは限りません。

特にM&AやIPOにおいて労務リスクが重要な場合には、法務DDとは別に労務DDを実施し、それぞれの専門家が専門領域を分担して調査することが望ましいといえます。なお、実際の調査範囲は案件によって異なるため、依頼時には法務DDと労務DDのスコープを明確にしておくことが重要です。

11.RSM汐留パートナーズによるワンストップ支援

RSM汐留パートナーズグループでは、公認会計士・税理士・社会保険労務士が連携し、財務DD・税務DD・労務DDをワンストップで対応できる体制を整えています。各専門家が個別に調査を進めるのではなく、グループ内で発見事項を共有しながら進行するため、対象企業様の開示負担を抑えつつ、整合性のとれた統合的な報告を経営陣にご提供することが可能です。

また、労務DDで発見された事項については、就業規則の是正、給与計算の見直し、未払賃金の清算方針の策定、M&A後の労働条件の統合(PMI)まで、一貫してご支援いたします。

M&AやIPOを控えている企業様、またはこれから労務DDの必要性をご検討の際は、どうぞお気軽にRSM汐留パートナーズまでお問い合わせください。

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