「日本法人の月次決算に時間がかかる」「海外本社の締め日までにReporting Package(本社指定の報告様式)を提出できない」「担当者の退職で月次決算を回せなくなった」。
こうした課題を抱える外資系企業では、月次決算のアウトソーシングが有効な選択肢になります。
月次決算は、単なる仕訳入力ではありません。勘定残高の確認、決算整理、本社向けレポート作成など複数の工程があり、業務によって外注しやすさも異なります。
本記事では、外資系日本法人を想定し、月次決算代行でどこまで委託できるのか、社内に残すべき業務は何か、導入時のポイントまで解説します。
月次決算アウトソーシングとは
月次決算アウトソーシングとは、毎月行う経理処理や決算業務の一部または全部を外部の事業者へ委託することです。
例えば、日常的な記帳から月末の残高確認、決算整理、試算表作成、海外本社向けレポート作成までを一連の業務として外注できます。
特に外資系企業では、日本法人の決算だけでなく海外本社への月次報告が求められるため、「帳簿を作る業務」と「本社へ数字を報告する業務」を一体で考えることが重要です。
月次決算はどこまで外注できる?
主な月次決算業務を整理すると、次のようになります。
| 月次決算業務 | 外注の考え方 |
|---|---|
仕訳入力・記帳 | 外注しやすい |
売掛金・買掛金管理 | 外注しやすい |
銀行残高の照合 | 外注しやすい |
経費・請求書の確認 | ルールを決めれば外注しやすい |
月次決算・決算整理 | 未払費用・前払費用などの決算整理を含め、根拠資料やルールの共有が必要 |
固定資産・減価償却の管理 | 資産情報や会計方針を共有すれば対応可能 |
関係会社間残高照合(Intercompany) | 海外本社・関係会社との連携が必要 |
勘定残高の照合・内容レビュー | 会計知識を持つ担当者による確認が適する |
月次試算表(Trial Balance)作成 | 外注可能 |
本社Reporting Packageの作成 | 本社ルールへの理解が必要 |
経営判断・最終承認 | 原則として社内に残す |
つまり、月次決算はかなりの範囲までアウトソーシングできます。
一方、すべてを外部へ任せるのではなく、経理処理と経営判断を切り分けることがポイントです。
月次決算の「レビュー」も外注できる
すでに日本法人内や海外のシェアードサービスセンター(Shared Service Center)で記帳している場合、入力作業ではなく残高照合や内容確認を外部委託する方法もあります。
例えば、
- 銀行残高と帳簿残高が一致しているか
- 売掛金・買掛金に長期未決済残高がないか
- 前払費用・未払費用が適切に処理されているか
- 固定資産や減価償却の処理に漏れがないか
- 前月から大きく変動した勘定に不自然な点がないか
などを毎月確認します。
外資系企業では、海外側で入力した日本法人の会計データを、日本の実務を理解する担当者が月次でレビューする体制も考えられます。
外資系企業の月次決算で特に注意したい4つのポイント
1.海外本社の締めスケジュール
外資系企業では、日本法人独自のスケジュールではなく、グループ全体の決算スケジュール(Closing Calendar)に従うケースがあります。
そのため月次決算代行を利用する場合も、「毎月何日までに試算表を完成させるか」だけでなく、「本社への最終提出日から逆算して各業務の期限を決める」必要があります。
2.日本の帳簿とグループ報告(Group Reporting)の違い
日本法人の会計帳簿と、本社が求める管理会計上のレポートが完全に一致するとは限りません。
本社指定の勘定科目表(Chart of Accounts)へのMapping(対応付け)や、IFRS(国際財務報告基準)・US GAAP(米国会計基準)などのグループ会計方針に基づく本社報告用の調整が必要になるケースもあります。
月次決算を外注する場合は、日本側の月次試算表を作るところまでなのか、本社Reporting Packageまでなのかを明確にしましょう。
3.Intercompany(関係会社間)取引
親会社や海外関係会社との取引が多い外資系企業では、Intercompany残高の不一致が月次決算を遅らせる原因になりやすい点に注意が必要です。
請求書の発行時期、為替レート、計上月などが日本法人と海外法人で異なれば、残高差異が発生します。
月末になって初めて確認するのではなく、毎月の照合方法と問い合わせ先をあらかじめ決めておくことが重要です。
4.日本独自の会計・税務実務
海外本社のルールだけで処理すると、日本側で必要な対応が抜ける可能性があります。
例えば、日本法人には総勘定元帳や仕訳帳など一定の帳簿・書類の保存義務があります。法人では原則として、帳簿や取引関連書類を確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存する必要があり、一定の場合には10年間の保存が必要となります。
また、記帳代行などの経理業務は、税理士資格のない事業者でも行うことができます。一方、日本では、税務代理、税務書類の作成、税務相談は、税理士法上、原則として税理士・税理士法人に認められた独占業務です。
経理業務と税務は実務上密接に関係しており、仕訳入力時の消費税区分の選択や、海外送金時の源泉徴収など、日常の経理処理の中でも税務上の判断が必要となる場面があります。そのため、経理アウトソーシングを利用する際は、税務上の判断が必要な場合に税理士・税理士法人へ適切に確認できる体制が整っているかを確認しておくことが重要です。
月次決算をアウトソーシングするメリット
月次決算を早期化しやすい
担当者と締切を明確にし、毎月同じ手順で処理することで、月次決算を標準化しやすくなります。
特に「請求書が揃うまで待つ」「担当者しか処理方法を知らない」といった状態を整理するきっかけになります。
経理担当者の属人化を抑えられる
月次決算を一人の経理担当者だけが理解している状態では、退職や長期休暇によって業務が止まる可能性があります。
アウトソーシング導入時に手順や役割を明文化することで、担当者個人への依存を減らせます。
Finance Manager(財務・経理責任者)が分析に集中できる
Finance ManagerやCFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)が仕訳確認や残高照合に多くの時間を使っている場合、定型的な月次決算業務を外注することで、予算管理、業績予測、経営分析などに時間を振り向けやすくなります。
月次決算を外注するときの失敗を防ぐポイント
月次決算アウトソーシングでは、委託範囲以上に「役割分担」の設計が重要です。
導入前には少なくとも以下を決めておきましょう。
- 月次決算の締め日
- 必要資料と提出期限
- 自社・本社・委託先それぞれの担当業務
- 仕訳の作成者と承認者
- 会計方針(Accounting Policy)や過去処理の共有方法
- 本社Reporting Packageの提出期限
- 質問や例外取引が発生した場合の連絡方法
特に避けたいのが、「月次決算をお願いします」とだけ依頼して業務を開始することです。
請求書の回収責任者、会計処理を判断する人、最終承認者まで明確にして初めて、継続的に運用できる月次決算体制になります。
どのような企業が月次決算アウトソーシングに向いている?
例えば、次のような外資系企業では検討する価値があります。
- 日本法人設立後、経理担当者をまだ採用していない
- 経理担当者一人に月次決算が集中している
- 担当者の退職により月次決算体制を再構築したい
- 海外本社から月次決算の早期化を求められている
- 日本の経理と英語対応ができる人材を採用できない
- 本社Reporting Package作成まで外注したい
- Finance Managerを日常的な経理処理から切り離したい
反対に、複雑な判断を伴う取引が非常に多い場合などは、すべてを外注するのではなく、定型業務のみを委託する方法も有効です。
まとめ|月次決算は「作業」ではなく「プロセス」としてアウトソーシングする
月次決算は、仕訳入力だけでなく、残高照合、決算整理、レビュー、試算表作成、本社レポーティングまで幅広くアウトソーシングできます。
外資系日本法人の場合は、さらに海外本社の決算スケジュール、グループ勘定科目表、Reporting Package、関係会社間取引、英語でのコミュニケーションなどを考慮する必要があります。
そのため、単純な月次決算代行ではなく、日本法人の会計から海外本社への報告までを一つのプロセスとして設計できるかが重要です。
RSM汐留パートナーズでは、外資系企業の日本法人を中心に、日常経理、月次・年次決算、海外本社向けレポーティングなどの会計アウトソーシングに加え、税務を含めたバックオフィス業務をサポートしています。
月次決算が特定の担当者に依存している、本社への報告に時間がかかっている、どこまで外注すべきか判断できないといった場合は、現状の業務フローを整理したうえで、委託範囲を検討することが重要です。
