商業登記関係 株主総会における書面決議、書面投票制度、議決権の代理行使
臨時株主総会と定時株主総会
株式会社において、定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならず(会社法第296条1項)、臨時株主総会は、いつでも招集することができます(会社法第296条2項)。
例年であれば、事業年度末を3月末としている会社においては、5月~6月に定時株主総会を開催することが一般的かと思います。
今年は新型コロナウイルスの影響で、株主総会の開催については、法務省のHPにて次のような旨の記載があります。
- 新型コロナウイルス感染症に関連して、定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができないときは、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りる。
- 定款で定時株主総会の議決権行使のための基準日が定められている場合において、その期間に定時株主総会を開催することができないときは、新たにその基準日を定め、それを公告をする。
詳細につきましては、こちらのページをご確認ください。
≫定時株主総会の開催について(法務省)
株主が少数である株式会社
上場している会社はさておき、株主が少数である株式会社は少なくないのではないでしょうか。
株主が1名の会社であれば、書面決議(みなし決議)は便利な制度といえます(会社法第319条1項)。
また、株主総会は、株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができますので(会社法第300条)、招集通知がなくても、株主が集まったタイミングで株主総会を開催することも可能です。
ところで、株主が全ての議案に賛成する、あるいは少数株主はいつも株主総会に来ないような会社においては、株主が一つの場所に集まらなくても、株主総会を成立させることができる手段があります。
ここでは、書面決議(会社法第319条1項)、書面投票制度(会社法第298条1項3号)、議決権の代理行使(会社法第310条1項)について記載しています。
株主が1名の場合
株主が1名の場合は、書面決議がお勧めです。
招集通知のような通知か開始までの期間も不要であり、実際に株主総会の議事運営をする必要もなく、株式会社がどのような機関設計や規模であっても、原則として書面決議を採用することが可能です。
一方で、株主と役員が異なるような会社において、(株主サイドからのリクエストにより)株主総会の場で役員から株主へ議案の内容の説明等が必要であれば、株主総会を開催することになるのでしょうか。
その場合でも、株主総会に関する株主への提案書の説明を株主にして、株主に納得してもらえるのであれば、書面決議で済ませることができるでしょう。
書面決議・電子決議・みなし決議
株主総会は、一般的には招集通知を送り、特定の時間・場所に、役員と株主が集まり、各議案についての説明を役員が株主に行い、最後に採決を取ります。
会社法においては、上記のように実際に株主総会を開催しなくても、株主総会の決議があったものとみなすことができる方法があります。
それが、株主総会の書面決議(みなし決議)です(会社法第319条1項)。
書面以外にも、メール等の電磁的記録による同意によっても株主総会を成立させることが可能です(電子決議)。
株主総会の書面決議(みなし決議)につきましては、こちらの記事をご確認ください。
≫みなし株主総会(書面決議・みなし決議)-会社法第319条1項
なお、各議案について議決権を行使することができる株主の全員の同意が必要となるため、議案に反対する株主がいる場合や、行方不明の株主がいる株式会社においては、この方法を採用することはできません。
書面投票制度
株主総会を実際に開催するけれども、各議案についてその賛否を書面にて議決権を行使することができることとすることができます(会社法第298条1項3号)。
この方法は、書面投票制度と呼ばれています。
書面投票制度は、株主総会ごとに、任意で採用することはできますが、議決権を行使することができる株主が1000人いる株式会社においては、原則として書面投票制度を採用しなければなりません(会社法第298条2項)。
書面投票制度においては、一例として次のような点に注意が必要です。
- 株主総会の日の2週間前までに、招集通知を発送する(会社法第299条1項)。
- 原則として、株主の承諾を得ない限り、招集通知は書面で行う(会社法第299条2項、3項)。
- 株主全員の同意があっても、招集手続きを省略することができない(会社法第300条)。
- 株主総会参考書類及び議決権行使書面を株主へ交付する(会社法第301条1項)。
- 別段の定めのない限り、議決権行使書の提出期限は、株主総会の日時の直前の営業時間の終了時(会社法第311条1項、会社法施行規則第69条)
- 株主総会の日から3ヶ月間、提出された議決権行使書面をその本店に備え置かなければならない(会社法第311条3項)。
書面によって行使した議決権の数は、出席した株主の議決権の数に算入されます(会社法第311条2項)。
株主が少数である会社が書面投票制度を採用しているケースはあまり見ません。少数株主が株主総会に参加しなくても決議を成立させることができたり、株主総会参考書類の作成の手間があるからでしょうか。
なお、書面でなく電磁的方法によって議決権を行使することができることとすることも可能です(会社法第298条1項4号)。
議決権の代理行使
株主は、代理人によってその議決権を行使することができ、その場合は、代理権を証明する書面を株式会社に提出しなければなりません(会社法第310条1項)。
代理権の授与は、株主総会ごとにしなければなりませんので(会社法第310条2項)、今後全ての株主総会においてAを代理人とする、ということはできません。
代理権の授与を証する書面としては、一般的には、招集通知に委任状が同封されていますので、当該委任状が該当します。委任状には株主としての届出印の押印を求める会社もあるでしょう。
株式会社は、株主総会に出席することができる代理人の数を制限することができるため(会社法第310条5項)、定款において代理人の数を1名としている会社が多いのではないでしょうか。
日本公証人連合会のHPにある定款記載例でも、次のような内容が定款に盛り込まれています。
(議決権の代理行使)
第22条 株主は、代理人によって議決権を行使することができる。この場合には、株主総会ごとに代理権を証する書面を当会社に提出しなければならない。
2 前項の代理人は、当会社の議決権を有する株主に限るものとし、かつ、2名以上の代理人を選任することはできない。
代理人の資格
上記定款記載例のとおり、代理人を株主に限るとしている会社は少なくありません。
記載漏れや委任できる人がいない等を理由として、株主から受任者の欄が空欄である委任状が送られてくることに備えて、委任状に受任者の欄が空欄であるときは代表取締役●●に一任したものとみなす旨を記載しているケースがあります。
定款に代理人は株主に限る旨の記載があり、委任状には受任者の欄が空欄であるときは代表取締役●●に一任したものとみなす旨の記載があるケースにおいて、代表取締役が株式を保有しているかどうかは確認しておきましょう。
特に、100%親会社がいるような会社において、いわゆる雛型の定款を使っている場合に、当該代表取締役が親会社の役員・従業員であって親会社から代理権を授与されている場合を除き、招集通知・株主総会につき定款違反となってしまっていることがあります。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。