商業登記関係 新株予約権が行使不能となることを取得条項としておくメリット
新株予約権の消滅
新株予約権者がその有する新株予約権を行使することができなくなったときは、当該新株予約権は消滅します(会社法第287条)。
新株予約権の個数は登記事項ですので、新株予約権が消滅しその個数が減少したときは、その旨の登記申請を行います。
新株予約権の行使不能による変更登記については、こちらの記事をご覧ください。
新株予約権の行使不能
新株予約権は原則として、当該新株予約権の行使期間中であればいつでも行使することが可能です。
新株予約権の行使期間が経過したときは、当該新株予約権は行使することができなくなりますので、行使期間の満了により当該新株予約権は全て消滅します。
また、新株予約権の発行要項に行使条件が定められているケースにおいて、その行使条件を達成することができないことが確定したときは、当該新株予約権は行使不能となり消滅します。
新株予約権の発行要項ではなく割当契約書によって新株予約権の行使条件を定めているときは、同様に行使条件を達成することができないことが確定したときに行使不能となり当該新株予約権は消滅します。
新株予約権の消滅と登記期間
登記事項に変更が生じた時から2週間以内にその登記申請をすべきところ(会社法第915条1項)、これは(一部)消滅による新株予約権の個数の変更(減少)についても当てはまります。
ところで、新株予約権をストックオプション目的で従業員や外部協力者複数名に交付しているケースにおいて、新株予約権の設計次第では、当該従業員が退職する度に新株予約権が消滅するということがあります。
従業員が退職したとき、あるいは外部協力者と契約が切れたときに、新株予約権が消滅する設計となっていることがあるためです。
これらが同じ日にまとめて発生するわけではなく、従業員が、例えば4月15日に1名退職し、8月31日に2名退職し、10月23日に1名退職した。
このように、その都度発生することが多いでしょう。
そうすると、新株予約権が4月15日に3個消滅、8月31日に2個消滅、10月23日に4個消滅するということになるかもしれません。
新株予約権を会社が取得する
新株予約権(の一部)が消滅する度に新株予約権の一部消滅登記を申請することは、会社側にとっては手間であると言えます。
また、新株予約権の一部消滅登記は、それのみの登記申請であったとしても、申請の度に登録免許税3万円がかかります
上記の例では、新株予約権の一部消滅登記につき、4月15日の登記申請で3万円、8月31日の登記申請で3万円、10月23日の登記申請で3万円の登録免許税を納めることになります。
半年分まとめて申請することも可能であり、上記3回の申請を1回の申請で行えば登録免許税はまとめて3万円で済みますが、少なくとも4月と8月分の登記については登記懈怠の状態であり、上場を目指す会社としてはできれば避けたいところでしょう。
ところで、行使不能となった新株予約権を発行会社が取得した場合はどうなるでしょうか。
新株予約権の取得と自己新株予約権の消却
行使不能となった新株予約権を発行会社が取得すると、新株予約権の登記事項(個数等)に変更が生じませんので、新株予約権の変更登記をする必要がありません(できません)。
そして、自己新株予約権は取締役会の決議(取締役会非設置会社会社は取締役の決定)で償却することができます(会社法第276条)。
行使条件の設計により新株予約権が複数回に分けて少しずつ消滅する可能性がある場合は、消滅する新株予約権を発行会社が取得できるようにしておくことで、少しずつ消滅する度に登記申請をする手間を軽減できるかもしれません。
つまり、行使不能となる度に発行会社が新株予約権を取得し、ある程度まとまったところで自己新株予約権の消却をすることにより、その1回の登記申請で済むようになるからです。
新株予約権と取得条項
新株予約権には「当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができる」旨を定めることができます(会社法第236条1項7号)。
新株予約権の行使ができなくなったことを取得条項発動のトリガーとしておくことで、当該新株予約権を会社が取得することができます。
新株予約権が消滅(を抹消)するタイミングを調整したい場合は、このような取得条項を設定しておくことも有用です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。