商業登記関係 取締役・監査役の任期に関する補欠規定と増員規定
取締役・監査役の任期
取締役及び監査役(以下、合わせて「役員」といいます)には任期があり、任期が満了すると役員は退任します。
定款で定められた役員の員数以下であれば、役員は株主総会においていつでも選任することができます。
また、役員は原則として自由に辞任をすることができます(なお、権利義務役員や損害賠償請求の論点はあります)。
役員の増減
役員は新たに選任され、又は退任することがありますので、株式会社の役員は増減します。
他の役員とは別のタイミングで就任した役員の任期を既存の役員と揃えるために、株式会社の定款には次のような記載があることが多いです。
増員規定と補欠規定
上記の「任期満了前に退任した取締役の補欠として選任された取締役の任期は、前任者の任期の残存期間と同一とする」を補欠規定といいます。
また、「増員により選任された取締役の任期は、他の在任取締役の任期の残存期間と同一とする」を増員規定といいます。
補欠規定や増員規定があると、取締役や監査役の任期が管理しやすくなるというメリットがあります。
以下、次の状況である株式会社X(定款に役員の補欠規定・増員規定あり)について役員の任期はそれぞれどうなるでしょうか。
- 取締役会設置会社で、3月末決算
- 2020年6月の定時株主総会で選任された取締役ABC、監査役Xがいる
- 取締役の任期は2022年6月開催予定の定時株主総会の終結時まで
- 監査役の任期は2024年6月開催予定の定時株主総会の終結時まで
補欠規定
取締役Cが2021年3月31日付で辞任し、取締役Dが2021年4月1日付臨時株主総会の決議でCの補欠として選任されたとします。
この場合、取締役Dは補欠取締役に該当しますので、取締役Dの任期は取締役ABと同様に、2022年6月頃に開催される定時株主総会の終結時までとなります。
補欠として選任されている限り、取締役Cの辞任と取締役Dの選任に時間的な隙間があったとしても補欠取締役に該当するとされています。
取締役の任期につき定款に補欠規定がない株式会社の場合、Dの任期は2023年6月頃に開催される定時株主総会の終結時まで、です。
補欠規定のない株式会社においても、Dの任期につき、定款又は株主総会の決議によって2022年6月頃に開催される定時株主総会の終結時まで、と短縮することができるでしょう(会社法第332条1項)。
役員全員の退任と補欠役員
取締役ABC全員が2021年3月31日付で辞任し、取締役EFGが2021年4月1日付臨時株主総会の決議で選任されたとします。
取締役の一部ではなく全員が交代した場合でも、取締役の補欠規定は適用されるとされています。
そのため、EFGの任期は2022年6月開催予定の定時株主総会の終結時まで、となります。
一方で、全員交代の場合は前任者の任期を引き継ぐメリットがないことが多いため、定款で定められている通常任期を適用して選任するのが良いのではないでしょうか。
予め選任された補欠役員
取締役Cが辞任するときは、Cが退任することが分かってから後任を探して選任することがほとんどです。
ところで、取締役ABCを選任するのと同じタイミングで、補欠の取締役を選任しておくことができます(会社法第329条3項)。
この補欠の役員の選任に係る決議が効力を有する期間は、定款に別段の定めがある場合を除き、当該決議後最初に開催する定時株主総会の開始の時まで、です(会社法施行規則第96条3項)。
その他に、当該補欠役員の選任に関する決議事項は会社法施行規則第96条に定められていますが、あまり用いられることがないのでここでは割愛します。
増員規定
2021年4月1日に取締役Fが追加で選任されたときは、Fは増員取締役に該当します。
この場合、Fの任期はABCの任期と同じになりますので、Fの任期は2022年6月頃に開催される定時株主総会の終結時まで、です。
取締役の任期につき定款に増員規定がない株式会社の場合、Fの任期は2023年6月頃に開催される定時株主総会の終結時まで、です。
増員規定のない株式会社においても、Fの任期につき、定款又は株主総会の決議によって2022年6月頃に開催される定時株主総会の終結時まで、と短縮することができるでしょう(会社法第332条1項)。
なお、監査役の任期には増員規定がありません。
役員と会社の関係
株式会社と役員との関係は、委任に関する規定に従います(会社法第330条)。
会社も役員も、選任した/された役員の任期はいつまで、として選任する/されることが望ましいといえます。
取締役を増員及び/又は補欠、監査役を補欠で選任するときは、任期を明確にして選任することが、後のトラブルを防ぐことになるでしょうか。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。