商業登記関係 一般社団法人における社員総会の書面決議・みなし決議に関するよくあるご質問
社員総会の開催
※一般社団法人及び一般財団法人に関する法律を、以下「法人法」といいます。
定時社員総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならず(法人法第36条1項)、また、社員総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができます(法人法第36条2項)。
社員総会は、原則として、理事が招集し(法人法第36条3項)、社員総会を招集するには、社員に対してその通知を発しなければなりません(法人法第39条1項)。
なお、この招集手続きは、書面投票制度・電子投票制度を採用しない限り、社員の全員の同意があるときは省略することが可能です(法人法第40条)。
社員総会の書面決議、みなし決議
社員全員が社員総会の目的である事項について書面又は電磁的記録により同意をしたときは、当該提案を可決する旨の社員総会の決議があったものとみなされます(法人法第58条1項)。
≫一般社団法人における社員総会の決議省略(みなし決議・書面決議)
(社員総会の決議の省略)
法人法第58条1項理事又は社員が社員総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき社員の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の社員総会の決議があったものとみなす。
これは「書面決議」あるいは「みなし決議」と呼ばれていますが、この方法は、社員が1名あるいは少数の法人においてはよく利用されていました。
最近では、新型コロナウイルスの影響もあってか、人と人が接触しない方法として、みなし決議で社員総会を成立させる法人が増えている印象です。
みなし決議による社員総会に関するQ&A
社員総会のみなし決議につき、お問い合わせをいただくことも昨年から増えてきましたので、よくいただくご質問とその回答をまとめました。
社員総会をみなし決議で成立させることをご検討されている法人のご参考になれば幸いです。
以下、単に「みなし決議」と記載しているときは、社員総会のみなし決議のことを指しています。
定款にみなし決議に関する記載がありません。
理事会のみなし決議と異なり、社員総会のみなし決議を行うには定款の記載は不要です。
法人法上、みなし決議の成立要件として、みなし決議を行う旨の定款の記載は求められていないためです。
みなし決議と書面投票制度は違いますか?
みなし決議をするときは、実際に一堂に会して社員総会を開催をすることはしません。
一方で、書面投票制度や委任状による議決権の代理行使は、社員総会を実際に開催することを前提としたものです。
みなし決議は議決権を行使することができる社員全員から書面又は電磁的記録による同意を得ることを条件に、実際に社員総会を開催することはありません。
賛成に〇のついた、受任者を代表理事とする委任状を社員全員から回収しました。
社員総会の招集通知に、議決権の代理行使に関する委任状を添付することは少なくありません。
その委任状につき、賛成として意思表示をするよう代表理事宛てのものを全員から回収できることがあります。
議決権の代理行使の委任状は、あくまで議決権を行使してもらうための委任状ですので、法人法第58条1項の同意とは異なります。
そのため、この場合は社員総会を実際に開催する必要があると考えます。
提案書を送付する期限はありますか?
ありません。
提案日と同意日が同日でも問題ありません。
みなし決議の提案書送付は、社員総会の招集通知の送付とは異なりますので、例えば1-2週間という送付期間は不要です。
社員も社員総会の目的である事項を提案できますか?
可能です(法人法第58条1項)。
社員への提案も書面等で行う必要がありますか?
法人法上、社員への提案方法は定められておりませんので口頭で行うことも可能と考えますが、書面又は電磁的記録で行うことが一般的です。
一方で、同意書は書面又は電磁的記録で行う必要があり、口頭での同意ではみなし決議は成立しません。
同意書の内容も、後でトラブルにならないよう同意した内容が明確であることが望ましいでしょう。
社員の同意書に押印は必要ですか?
法人法上、同意書に押印義務は課されていません。
しかし、後でトラブルにならないよう同意書に社員から署名又は記名押印をもらっておいた方が良いでしょう。
社員が同意したことを明確にするために、社員が会社へ届け出ている印鑑を押してもらうことが望ましいでしょうか。
メールによる同意でもみなし決議は成立しますか?
メールは電磁的記録に該当するため成立します。
社員が同意したことを明確にするために、社員にメールアドレスを通知してもらい、当該メールアドレスから同意の返信してもらう方法があります。
定時社員総会でもみなし決議は可能ですか?
可能です(法人法第58条4項)。
決議事項だけでなく報告事項についても、社員全員の書面又は電磁的記録による同意があったときは、社員総会への報告があったものとみなされます(法人法第59条)。
社員のうち1人だけが同意してくれません。
例えば社員が10人いて、そのうち9人が同意をしたとしても、残りの社員1人が同意しなければみなし決議は成立しません。
同意しない社員がいるときは、社員総会を開催して決議するしかありません。
社員のうち1人だけと連絡が取れません。
みなし決議を成立させるためには社員全員の同意が求められています。
連絡が取れない社員がいるときは、社員全員の同意を得ることができませんので、社員総会を開催して決議するしかありません。
その場合、当該社員への社員総会に関する招集通知は、社員名簿に記載されている住所へ送付すれば済みます。
議決権を行使することができない社員はいますか?
会社法第319条1項は同意が必要な株主を「当該事項について議決権を行使することができるものに限」っています。
一方で、法人法第58条1項はそのような制限はありません。
株主総会では一定の場合、決議に参加できない株主が生じるのに対し、社員総会ではそのような社員が生じないためでしょう。
社員総会の成立時期はいつですか?
全ての同意書を会社が受領した時です。
社員Aから同意書が2021年6月8日に届き、社員Bから同意書が2021年6月15日に届いたときは、社員総会の決議があったとみなされる日は2021年6月15日です。
なお、法人側でみなし決議日を指定することはできると解されていますが、その旨を社員への提案書にその旨を記載しておいた方がいいでしょう。
その場合、もちろん当該みなし決議日より前に、法人に全ての同意書(同意のメール等)が集まっている必要があります。
みなし社員総会議事録の記載事項は?
決議事項については次のとおりです(法人法施行規則第11条4項1号)。
- 社員総会の決議があったものとみなされた事項の内容
- 上記事項の提案をした者の氏名又は名称
- 社員総会の決議があったものとみなされた日
- 議事録の作成に係る職務を行った者の氏名
報告事項については次のとおりです(法人法施行規則第11条4項2号)。
- 社員総会への報告があったものとみなされた事項の内容
- 社員総会への報告があったものとみなされた日
- 議事録の作成に係る職務を行った者の氏名
みなし社員総会議事録の作成者は?
株式会社においては株主総会の議事録作成者は取締役に限定されていますが(会社法施行規則第72条4項)、一般社団法人においては議事録者は理事に限定されていません(法人法施行規則第11条4項)。
そのため、みなし社員総会議事録の作成者は理事でなくても良いことになっています。
実務的には、代表理事(あるいはそれ以外の理事)が作成者となることが多いでしょう。
みなし社員総会議事録の押印義務は?
法人法上、みなし社員総会議事録に押印義務はありません。
実務的には、代表理事が作成者となり、法人実印を押印することが多いでしょう。
なお、社員総会で代表理事を選定したときは一般社団法人等登記規則が準用する商業登記規則により、社員総会で不動産に関する利益相反承認をしたときは不動産登記令により、特定の印鑑での押印が求められることがあります。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。